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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
2章 モブキャラ、入学する

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第27話 妹は案外チョロい

 side:サーシャ


「流石、アリーシャ様は優秀ですね」

「貴方がいれば公爵家の未来は明るい」

「当然です。私は努力していますので」


 誰もがお姉様しか見ない。

 お姉様しか評価しない。

 アタシのことは……誰も見てくれない。


「ねぇ、あれ……」

「話しかけない方がいいよ。アリーシャ様も言ってたし」


 屋敷の廊下を通るアタシを、従者たちは冷ややかな目で見てくる。


 いつからだったろう。

 アタシたちは公爵家の双子姉妹として生まれ、愛されながら育った。だが才能の差は、徐々に明らかになってしまった。


 前衛で敵をなぎ倒し、圧倒的な力で皆を導くアリーシャ。

 後衛で守りを固め、ひたすら攻撃を防ぐサーシャ。


 どちらが派手で目立つか。どちらが活躍しているように見えるか。


 おまけに、明るく周囲を鼓舞するアリーシャに対して、暗くて自分の世界に閉じこもりがちなサーシャ。


 性格においても、お姉様が好かれるのは当然だった。


「くそっ……」


 一度たりともお姉様に勝ったことがない。

 その現実が、アタシの立場をより悪くしていった。


 貴族家は強さこそ全て。

 敗北の印象が強いアタシに価値を見いだす者はいない。


「……盾の改修でもしようかね」


 だからアタシは武器を作り始めた。

 お姉様に負けないために。自分が強くなるために。

 それに、お姉様の魔法でアタシの武器はよく壊される。買い直す手間も省けるし。


 無機物はいい。

 アタシを否定しない。それが何よりも気に入っている。


 武器も、そしてぬいぐるみも。

 もふもふして愛らしいぬいぐるみは、アタシにとって最高の癒しだ。


 ……恥ずかしいから、誰にも言えないけど。


(アタシのことを好いてくれる人なんか……)


 誰もいないからこそ、アタシは動かないものに夢中になる。

 誰もがお姉様に惹かれていくから。


 諦めるように、アタシは今日も武器をいじり続ける。


 まさかそんなアタシに、好意を寄せる人間が現れるとは――

 ほんと、わけわかんない。


◇◇◇


「はぁ……」


 昼休み。人気のない庭のベンチで、アタシは一人ため息をついていた。

 授業は普通だ。Aクラスだけあってレベルは高いが、ついていけないほどではない。


 時々、教員が見下してくる視線が気に食わないけど……


 あぁ疲れた。ストレスも溜まる。

 こんな時にはアレを……誰もいないよね?


「……テディちゃーん」


 アイテムボックスから取り出したのは、少し大きめの熊のぬいぐるみ。

 自分で付けた名前を呼びながら、アタシはギュッと抱きしめる。


(もふもふ……最高……幸せだ……)


 ぬいぐるみはアタシを否定しない。

 機嫌が悪い時でも、何も言わずに抱きしめさせてくれる。

 この可愛さの権化に、アタシはすっかりメロメロだった。


「なんでテディちゃんは可愛いんだい? アタシに教えてくれよー」

「それはサーシャちゃんが可愛いからだよー」

「そうかいそうかい……ん?」


 ……今、返事をした?

 テディちゃんに会話機能なんてないはず。


 まさか――。


「随分と可愛い趣味だな。お姫様」

「っ!?!?!?」


 思わぬ人物の登場に、声にならない声が漏れる。

 テディちゃんの向こう側に立っていたのは、アタシをデートに誘った張本人――ゼクス・バーザムだった。


「な、ななななな何見てんだい!! 見世物じゃないよっ!!」

「いいじゃないか。強気でぶっきらぼうなサーシャが、裏では可愛らしいぬいぐるみを愛してるなんて」

「全部言うなぁ!! ばかぁ!!」


 最悪だ。一番見られたくないヤツに見られた。

 ただでさえ弱みだらけなのに、精神的にきついところを握られてしまった。

 この先ずっといじられる未来しか見えない……。


「俺はそっち系統に詳しくないが……メディに聞くか」

「なんでプレゼントする気なんだい」

「サーシャが喜ぶからに決まってるだろ?」

「さらっと口説き文句を……」


 こいつの言葉一つ一つが耳障りだ。

 アタシの心を、必要以上に揺さぶってくる。


 顔が熱い。心臓がドキドキする。

 呼吸も荒く、視線もまともに合わせられない。


(どうせアタシから離れるのに……)


 一時的なものだ。

 そう言い聞かせても、アタシの本能は素直に従ってくれなかった。


「似合わないだろ……アタシとぬいぐるみは」

「ん?」


 自分でもわかっている。

 身長は高く、すらりとした体形。

 顔立ちもどちらかといえば美人寄りで、雰囲気は暗い。


 ぬいぐるみはとても可愛らしい存在。

 見栄えだけで言うなら、アタシよりも小さくて童顔で、明るい――


 例えるなら、お姉様のような人が……。


「何を言っている。サーシャだからいいんじゃないか」

「はい?」


 だがゼクスは否定しなかった。

 おまけに変なスイッチまで入ったらしい。


「綺麗なお姉さんが可愛らしいぬいぐるみをギュってする姿。このギャップは最高だ!! さっき話しかけたのも、ぬいぐるみに話しかけるサーシャの姿があまりにも魅力的だったからで……」

「ちょ、ちょちょちょ!! 待ちなって!!」

「まだあるぞ? ぬいぐるみの大きさとサーシャの身長の高さの相性が……」


 いくらなんでもお世辞が過ぎるんじゃないかい!?

 その本気すぎる姿に、アタシは思わず驚いてしまう。


(本当にアタシに惚れているの……!?)


 これが演技なら、相当な名役者だ。

 それくらい、ゼクスのアタシに対する愛は本物に感じられた。


 だからこそ――。

 アタシは耐えられない。愛の暴力に傾いてしまう。


「ああもう!! 昼休みも終わるから行きな!!」

「まだ語れるぞ?」

「十分だよ!!」


 ゼクスの身体を無理やり押し出す。

 デート前だってのに、大丈夫なのかい?

 話半分のつもりが、いつの間にか本気になりそうだ。


 ……アタシって、こんなにチョロかった?

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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