第25話 モブキャラ、デートの約束をする
「ギキィ!!」
「おっと!!」
シールドアルマジロが再び丸まり、突進してくる。
スピードは速いが、避けられないほどではない。
冷静に対処して弱点の内側を狙えば――。
「やばっ!!」
だが、この場にいるのはシールドアルマジロだけじゃない。
エレメントスライムが体内で生成した酸を吐き出し、俺めがけて飛ばしてきた。
個人的には酸の方が喰らいたくない!!
再び足に力を込め、前へジャンプして回避する。
すると、間髪入れずにシールドアルマジロが突っ込んできた。
これ以上は避けられないと悟り、ガントレットで応戦するが――。
ガキィン!!
「かってぇ!! 実物だとこんなに固いのか!!」
まるで鉄の塊を殴っているみたいだ。
それなりに強く殴ったはずなのに、シールドアルマジロはびくともしない。
むしろパワーで押し込んでくる。
押し合いなら、俺にも魔力充填があるから対抗できる。
だが、それはあくまで一対一の話。
「またか……って、この位置は!!」
エレメントスライムの酸が再び飛んでくる。
今度は肩を狙って――酸を避けようとしたのが仇になった。
ガントレットのパワーが一瞬緩み、シールドアルマジロの力に押し負けてしまったのだ。
「ギキィ!!」
「ぐぁあああああああ!!」
そのまま突進をモロに喰らう。
地面をバウンドし、ドォオオオオン!!という轟音と共に壁へ叩きつけられた。
「なるほど。ツイファンらしくなってきたな」
傷ついた身体を魔力充填で回復させながら立ち上がる。
異種族のモンスターが同時に襲いかかってくるのは厄介だ。
タイプも攻撃方法も違う。だが、“侵入者を倒す”という目的だけは一致している。
同士討ちでもしてくれたらな……
なんて、たらればを考えてしまう。
「ん?」
いや、それで行こう。
たらればが役に立つ時が来るとは。
面白くなってきた。
「まずはお前からだ!!」
立ち上がった俺はエレメントスライムへ突撃した。
魔力充填は一応かけているが、若干弱め。
全力ではないため、そこまで速い動きではない。
「ギキィ!!」
好きにはさせまいと、シールドアルマジロが背後から突進してくる。
俺は位置を微妙に調整し、真後ろへ誘導する。……よし、いいぞ。
あとはエレメントスライムが動けば――。
「っ!!」
来た!! 酸攻撃!!
エレメントスライムが、距離を詰めた俺に向かって真っ直ぐ酸を吐き出してきた。
前にはエレメントスライムの酸。
後ろにはシールドアルマジロの突進。
左右は壁に阻まれ、完全に挟まれた状態。
だが、この状況を打開する方法を俺はすでに考えていた。
「ほっ!!」
俺はエレメントスライムの目の前でバク宙する。
宙を舞う身体。その下を、エレメントスライムの酸が通り抜けていった。
だが酸はまだ消えていない。
その行き先は――。
ジュッ!!
「ギキィイイイイイイイイ!?」
真っ直ぐ突進してきたシールドアルマジロに酸が直撃した。
硬い外皮も、エレメントスライムの酸の前では無力だ。ドロドロに溶ける外皮を見て、シールドアルマジロが苦悶の声を上げる。
(さっさと倒そう……)
当たった部分しか腐食していない。
サーシャに渡すためにも、なるべく綺麗な外皮を確保したい。
俺は苦しむシールドアルマジロに接近し――
「ふんっ!!」
「ギキィ!?」
外皮のない内側を、魔力充填したナイフで突き刺す。
「お前も一緒だ」
続けて、エレメントスライムにクラッシュビーンズを投げ、核を破壊。討伐完了。
後は素材を回収するだけだ……
「おっと、危ない危ない」
腐食が進む前に外皮を斬り離し、素材用の綺麗な部分を確保する。
側面から刃を入れれば簡単に切れる、とゲーム内データにあったが、実際もその通りだった。
エレメントスライムも、空気に触れて溶ける前に体液を瓶に保存。
これで三種類の素材は確保完了。
さあ、地上に戻ろう。
◇◇◇
「よっ、また来たぞ」
「しつこいね……ってそれは!?」
「プレゼントだ。欲しかったんだろ?」
扉を開け、素材を袋から見せつける。
最初は嫌そうな顔をしていたサーシャも、欲しかった素材を前にして飛びつくように近づいてきた。
「全部中層以降のモンスターだよ? それを数時間で集めたのか!?」
「裏技もあるけどな。まぁ、大変だった」
「Sクラスってのはここまで規格外なのか……」
全ての素材を手渡す。
サーシャは一つ一つ触り、本物かを確認していく。
手つきが慣れている。普段から扱い慣れている証拠だろう。
「はぁ……」
全て本物だとわかると、諦めたように顔を天井に向けた。
残念だったな。全部本物だ。
「というか、新入生がいきなり中層まで入れるのか?」
「あー……ちょっと怒られた」
「だろうね」
黙っていれば問題なかったが、受付の仕事意識を甘く見ていた。
『奥まで行きましたよね?』
『いや、上層のモンスターって結構強いんだなー』
『では獲得した素材を見せてください。用途は問いませんが、決まりです』
『……ごめんなさい』
ボロボロの衣服。
妙に膨らんだ素材入れの袋。
怪しい動きをする新入生。
疑わないわけがない。
受付にキッチリ怒られ、二度と同じことをするなと釘を刺された。
中層に行くなら、せめてパーティを組めってさ。
めんどくさい。
「アタシに好かれるためにここまでするのかい?」
「当然だろ? キッカケもなしに仲良くなれるわけがない」
「キッカケにしては大掛かりすぎるよ……言っておくけど、手持ちが少ないから素材は買い取れないよ」
欲しい気持ちがわかって嬉しい。
でも、買い取れないって何だ?
「公爵家の人間が金欠になるのか?」
「この試作品の束を見て同じことが言えるか?」
「探求心に全て投資したか……これは面白い」
恵まれた財産を使い切るほどの研究か。
このサーシャという美少女、レアとは違う意味で面白い。
ますます彼女のことが知りたくなった。
「何度も言うが、これはプレゼントだ。お金稼ぎのためにやったわけじゃない」
「だとしても、こんな代物、対価なしに貰えないよ」
「ふむ……」
妙に律儀だな?
貰うだけ貰って追い出されることも想定していたが……意外と押せばいけそうだ。
彼女の悩みも含め、色々掘り下げても面白いかもしれない。
「だったら明日、俺とデートしてくれ」
「はぁ!?」
サーシャとの時間。
今の俺が一番欲しいものだ。
「アタシとデート!? 冗談なら許さないよ!!」
「冗談でこんなこと言うわけないだろ」
「へ……?」
疑うサーシャに近づき、本心を伝える。
「サーシャとの時間は、どんな財宝より価値がある。この素材じゃ釣り合わないくらいだ」
「っ……!?」
口調は冷たいが、髪をいじりだし顔を背ける。
「ア、アタシを……? そんな……そんなの……」
身体を縮め、内股気味で自分の身体を抱きしめる。
え、めっちゃ可愛い。
悪の女幹部を思わせる堂々としたサーシャが、照れるとこんな乙女な一面を見せるとは。
(意外と押されるのが好きなのか?)
レアはさりげなくアプローチするタイプだ。
でもサーシャは、大胆かつキザな言葉やムーブを好む気がする。
お姫様扱いとか?
公爵家とはいえ、周りから避けられていたみたいだし……
「明日、楽しみにしてるぜ。お姫様」
「っ!?」
また顔が赤くなる。
よーし、明日は勝負の日だ。
絶対成功させるぞ。
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m(_ _)m




