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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
2章 モブキャラ、入学する

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第24話 モブキャラ、ダンジョンに潜る

「サーシャはどこかなー」


 学園内を歩き回る。

 どこも最初のホームルームが終わったばかりで、生徒たちが廊下にあふれ、混雑していた。


 サーシャはたぶん、Aクラスに入ったはずだ。

 原作ではそうなっていた。


 けど、この人ごみの中からサーシャを探すのは……ちょっと骨が折れるな。


「なぁ、紫髪で背の高い美少女って見なかったか?」

「紫髪? ああ、それならさっき向こうの小部屋に……」

「助かる」


 通りすがりの生徒に聞けば、すぐに手がかりを得られた。

 目立つ特徴があって本当に助かる。さすがはネームドキャラだ。


「ここか」


 教えてもらった場所へ行くと、確かに小部屋があった。

 人が寄りつかなそうな校舎の隅っこにあって、ドアもボロボロ。もともと空き教室だったのかもしれない。

 人の気配が……お、いるな。


「Aクラスの特権で小部屋をもらった……ここを改造して工房にすれば……」


 小窓からのぞくと、そこにサーシャがいた。

 いろんな素材や道具を持ち込み、自分だけの作業部屋を作ろうとしている。


 ――やっと見つけた。早速入るか。


「楽しそうだな?」

「っ!? だ、誰だいアンタは!」

「通りすがりのSクラス生徒だ。君のお姉さんと同じクラスのね」

「……ああ、そうかい」


 ぶっきらぼうな返事。

 姉と同じクラスという言葉が気に障ったのか?

 共通点を出せば親しみやすいかと思ったが、逆効果だったかもしれない。


「からかいに来たんだろ? 格下のアタシを馬鹿にしていい気分になりたいんじゃないのか?」

「そんなつもりはない。俺はただ仲良くしたいだけだ」

「……仲良く?」


 俺の言葉に、サーシャはフッと笑った。


「お姉様が高嶺の花だからって、アタシで妥協するか。どうだい、その気分は?」

「最高。サーシャはどうだ?」

「最悪だね……っていうか、アタシの名前を知ってるのか」

「俺は生まれ変わったからな。この学園のことも色々知っている」

「……わけのわからないことを」


 ついでにサーシャの未来も知っている。


 彼女は優秀な姉に反抗し続けるが、結局その差を埋められず、ついには魔族の手を借りてしまう。

 魔装結晶を研究して作り上げた特別な武器に溺れ、暴走するサーシャ。

 それを止めようと戦う主人公たち。

 結局、暴走は鎮まるものの罪は重く見られ、退学処分に――。


「物好きに話すことなんてないよ。さっさとどっか行きな」

「ふむ……」


 今はまだ、姉に逆らう余裕があるようだ。

 部屋を見渡しても魔装結晶の痕跡はない。どうやら魔族とはまだ接触していないらしい。


 この武器は――


「ジャイアントラットの牙か?」

「っ!?」


 まだ未完成の武器。

 それを見た瞬間、足りない素材が何か一目でわかった。


「後はエレメントスライムの体液と、シールドアルマジロの外皮ってところだな」

「製作途中の武器の不足素材を……一瞬で? 何者だいアンタは」

「サーシャのことが大好きで仕方ない男。それだけだ」


 サーシャは唖然とした表情を浮かべる。

 彼女が作った――いや、退学後に残した武器類は、中盤まで十分使える優秀な品ばかりだ。

 必要素材も性能も、俺はだいたい暗記している。


「……顔を洗って出直しな。ここにはイカれた奴しかいないのかい?」

「純粋な愛を前に冷たいな。俺のこと、狂人か何かだと思ってるのか?」

「狂人に決まってるだろう!? アタシの武器を見抜いたうえで『大好き』なんて叫ぶなんて!!」


 そんなに信じられないのか?

 俺はただ、自分の魅力をアピールしてるだけなのに。


「いいからお姉様のところへ行きな!」

「あっ……」


 サーシャに強く押され、小部屋から追い出されてしまう。

 耳元が赤くなっていた気もするが、一瞬だったので確信は持てない。


「……素材を取りに行くか」


 アピールが足りないなら、もっと増やせばいい。

 未完成の武器を完成させて、もう一度サーシャにアタックする。

 何度でも仕掛ければいい。俺にとってはそれだけのことだ


◇◇◇


「これが入場許可証です。なくさないでくださいね」

「ありがとうございます」


 学園の南側にある施設。

 そこにはダンジョンが併設されており、手続きをすれば中に入ることができる。

 修行用や小遣い稼ぎのほか、ここでしか手に入らないモンスター素材を求めて、学外の冒険者まで足を運ぶこともあるらしい。


「しかし、入学してすぐダンジョンに挑むなんて……何か欲しい素材でも?」

「大好きな人にプレゼントをしたくてな。愛のアプローチってやつだ」

「は、はぁ……?」


 高価なアクセサリーやスイーツより、サーシャはきっとこっちの方に食いつくだろう。

 彼女は武器づくりが大好きだから。


「あと、くれぐれも奥には行かないでくださいね! ダンジョンは危険ですから!」

「わかってまーす!」


 そう言い残して、俺はダンジョンの中へと足を踏み入れる。


「さて、奥に行くか」


 もちろん職員の忠告は無視だ。

 俺の実力なら大丈夫だし、欲しい素材は中層以降でしか出ない。


 ただ、律儀に一階層から順に進むのは時間がかかりすぎる。

 ここは裏技を使わせてもらおう。


「あった」


 セーフティ用の台座を見つける。

 この中にいればモンスターに襲われることはなく、たいていは階段の近くに設置されている。


「よし、蹴るか」


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 台座を足で蹴り続ける。

 普通なら壊れもしないし、何も起きない。


 傍から見ればただの変な行為だが――ツイファンでは有名な裏技だ。


 もう少しかな? このまま続ければ……おっ。


 シュンッ――。


「現実でもいけるのか。よかったよかった」


 一瞬で別の階層にワープ。

 場所は十階層。ちゃんと機能している。


 ツイファンの台座は、蹴り続けると十階層ごとにワープしてしまう。

 移動先も固定で、誰でもできるうえ効率も悪いため、バグではなく裏技扱いにされた。


 ……実際はRTA勢が悪用しまくってたけどな。

 やっぱり、想定外のワープはゲームバランスを壊すんだよ。


(ある程度強くないと面白くないからな……)


 難しいが、クリアできないほどではない。

 俺の魔力充填も鍛え上げてあるし、十階層程度なら問題ない。

 さすがにボス戦は準備が必要だが、今回は必要な素材を回収するだけ。


 シンプルでやりやすい。


「シャアアアアア!!」

「お前じゃない。邪魔だ」

「キシャッ!?」


 襲いかかってきた蛇のモンスターを一閃。

 そのまま斬り捨て、残骸から魔石と素材だけを回収する。売れば小遣いになる。


「無駄な戦闘は避けつつ、必要な素材だけを……お」


 モンスターを避け、魔力充填による高速移動で通り抜けながら探索を続ける。

 やがて目当てのモンスターを二体発見した。――ジャイアントラットだ。


 ずんぐりむっくりとした体型のネズミ型モンスター。

 バランスの取れた戦闘能力を持ち、序盤ではやや強敵。


 だが、俺にとってはただの獲物にすぎない。

 足元の小石を拾い、遠くへ投げる。


「?」

「よし、そっちに行け……いいぞ……」


 カンッ……カララッ……

 物音に反応したジャイアントラットたちは音源へ移動し、俺に背を向けた。


 その隙にクラッシュビーンズを二つ取り出す。

 魔力を込め、両手に一つずつ構える。


「一点集中……!」

「「ッピィ!?」」


 投げつけたクラッシュビーンズがジャイアントラットの頭部を直撃。

 爆裂音と共に二体はその場に崩れ落ちた。


「ジャイアントラットの素材ゲット……牙も綺麗な状態だな」


 損傷は頭部だけで、肝心の牙には傷ひとつない。

 サーシャに渡すなら、できるだけ良質な素材でなければ。


「残りはエレメントスライムとシールドアルマジロか……」


 素材を回収し、再び探索に移ろうとした、その時――


 ピュンッ!!


「っとぉ!!」


 さっきまで俺がいた場所を、溶解液がドロドロと焼き溶かす。

 緑色の身体を持つエレメントスライム。何でも溶かす厄介なモンスターだ。

 だが、一体だけなら核を突くだけで――


「ギキィ!!」

「なっ!?」


 岩陰から、別の影が飛び出した。

 咄嗟に回避行動を取ったが、間に合わず。


 ドゴッ!!


 身体ごと吹き飛ばされ、地面を転がる。


「くそっ……」

「ギキィ!!」


 シールドアルマジロ。

 堅牢な外皮を持つ厄介なモンスターだ。


「おいおい、二体同時かよ……珍しい組み合わせだな」


 耐性も戦い方も真逆の二体。

 厄介だが――ま、なんとかなるさ。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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