第22話 モブキャラ、Sクラスに入る
「そこまでぇ!!」
「終わった……」
「生き残った……」
「死ぬかと思った……」
学園長の号令と共に、戦いが静まり返った。
候補生のほとんどは気絶しているか、地面に倒れ込んでいる。
皆、肩で息をしており、この壮絶な試練を生き延びるだけで精一杯だったのだろう。
「やっぱり先輩方は強いな。修行しておいて正解だった」
「それ、無双してた人が言うセリフ?」
「いや、傷だって負ったし、こっちも疲れてるぞ?」
俺は何度も魔力充填で回復しながら、先輩や先生の攻撃に本気で対応していた。もちろん、決められた円の外には一歩も出ていない。
宣言はきっちり守った。
例のあの子に話しかける余裕はなかったけど。
「今から、この講堂に残った者を選別します! 先生方の指示があるまで待機してください!」
係員らしき女性が、生徒たちを手際よく振り分けていく。
「お前はCクラスだ」
「えー、あれだけ頑張ったのにー」
「受け入れろ。学園生活は三年もある。そこから成り上がればいい」
いよいよ所属クラスが決まる。
運命の分かれ道だ。
もちろん先輩の言う通り、最初に転んでも後から挽回は十分可能。
原作でも最低クラスから始まっても、努力次第で最高クラスまで成り上がれるようになっていた。
……大変ではあるが。
そういえば、主人公のライトはどのクラスになる?
「君はAクラスだ。おめでとう」
「え? 俺がAクラス……凄いのかな……」
マジかよ。一番上のルートを引き当てやがった。
Aクラススタートは条件が厳しく、普通は二周目以降じゃないと難しいはずなのに。
俺なんて三周目でようやく辿り着いたんだぞ。
「あら? 先生も先輩方もいなくなりましたわね?」
「これが選ばれし者の証拠だ」
「え? ま、まさか……」
講堂に残された候補生は、ほんの一握りだった。
退学者やAクラスまでの生徒はすでに振り分けられ、この場に残っている者は十二名。
「ここに残った十二名の候補生よ……君たちは素晴らしい才能を持っている」
講堂に立つのは学園長ただ一人。
オホンと咳ばらいをした後、毛深い眉の奥からクワッと鋭い視線を飛ばしてきた。
「お主らは……Sクラスだ! この学園長バンテーン・グランヴァルが、その才を認めよう!!」
Sクラス合格を告げる力強い宣言。
胸の奥が震えた。
やった、俺は成し遂げたんだ。
「え!? う、嘘……わたくしがSクラスなんて……」
「おめでとう。さすがはレアだな」
「Aクラス以上は狙っていましたが……想像以上でしたわ」
レアまでSクラスとは意外だった。
やっぱ原作よりも強くなっている……?
終盤の魔法はまだ習得していないが、この先とんでもなく化けるかもしれない。
「当然の結果です、学園長。私は努力を欠かしたことがありません。努力は才能以上に裏切りませんから」
「ほぉ、よい心がけだ。今年は血気盛んな生徒が多く、実に面白い」
「あいつは……」
赤髪サイドテールの美少女。
乱戦直後だというのに、声にも顔にも疲れの色がない。
“努力”を強く押し出すその彼女は……
「クラウン家のアリーシャ様……Sクラスともなると格が違いますわね」
「ほぉ、知っていたか」
「当然ですわ。クラウン家とは社交界で何度か顔を合わせていますから……妹の方は少し癖のある方でしたけれど」
アリーシャ・クラウン。
原作でのメインヒロインのひとりだ。
そして、レアの口からさらっと語られた妹の存在。
彼女も原作には登場する……が、ヒロインではない。
(悪い子じゃないんだが……妹とは相性が最悪なんだよなぁ)
アリーシャルートは、努力ではどうにもならない壁を主人公と共に乗り越える、スポ根じみたストーリーだ。
その過程で、妹が姉を蹴落とそうと画策する。
だがアリーシャは「努力こそ正義」と信じて疑わず、考えを押しつけてしまうのだ。
努力至上主義すぎて、プレイヤーからもやや引かれていたくらいだ。
「俺が狙ってるのは、その妹だぞ?」
「はい!? 相手は公爵家の人間ですわよ!?」
「学園では地位も立場も平等だろ? 俺にだってチャンスはある。むしろ選ばれなきゃおかしい」
「その自信はどこから出てきますの……」
妹もまた、レアと同じく闇落ちして破滅する運命にある。
だからこそ俺は救いたい。そして……惚れてほしい。
「というわけで、Sクラスの皆さんは案内します! 制服に着替えてくださーい!」
係員の声に従い、小部屋へ向かおうとしたその時、
「ふむ……」
「が、学園長? どちらへ?」
「気になる者がいてのう」
学園長が教壇を降り、こちらへ歩いてくる。
そして、俺の目の前で立ち止まった。
「お主、名前は?」
「俺? ゼクス・バーザムです」
「ゼクスか……先ほどの戦いでは、中々面白い動きをしていたな」
「どうしても上位クラスに入りたくて。アピールは大事でしょう?」
「自らの入学を天秤にかけても、か……その大胆さはどこから来る?」
あの行動が引っかかったか?
理由なんて一つしかない。
「俺には救いたい人がいる、それだけです。地位も名誉も、そのための通過点にすぎません」
レアも、アリーシャの妹も、他の悪役ヒロインたちも。
すべて救って、攻略する。
その“欲望”を叶えるために、俺はここにいる。
「ふはははははは!! Sクラスを踏み台扱いするか! これは面白い!」
「学園を出たらクラスなんて関係ありませんからね。大事なのは行動です」
「その通りじゃ。皆、目の前のものに縛られすぎておる」
……気に入られたか?
学園長がルートに関わるのは中盤以降。だから、この時点での彼の行動は入学式以外では知らないはずだ。
「お主は世界を変えるかもしれんのぅ」
「変えるのは己自身だけで十分ですよ」
世界なんて興味ない。
俺にとって大事なのは……悪役ヒロインと関わることだ。
「それでは、失礼します」
「うむ」
軽く頭を下げ、その場を離れた。
「学園長と何を話してたの?」
「お前は世界を変えるかも、って」
「世界ぃ? あなたにそんなスケールの大きい夢がありましたの?」
「押し付けられても困る。俺が欲しいのは愛だけだ」
「そこだけ聞くとチャラ男みたいですわね……」
欲望のままに生きてるだけだ。
愛されたいという気持ちは普通の感情……まあ、確かにちょっとチャラ男っぽいかもしれない。
けど、どう思われようと関係ない。
俺は突っ走るだけだ。
この果てしない学園生活というサバイバルを。
◇◇◇
(これがSクラスのピンバッジ……原作じゃ絶対にSクラススタートできなかったから、なんか新鮮だな)
更衣室で制服に着替えた後、手渡されたピンバッジを胸に付ける。
黄金の剣と盾が重なったデザインで、かなり格好いい。
とりあえずレアを待つとしよう。少し時間はかかりそうだ。
「お待たせ」
「……相変わらず綺麗だな。何を着ても絵になる」
「制服ごときで大げさですわ……もぉ」
更衣室から出てきたレアに、思わず見惚れてしまう。
制服自体はよくある学園アニメ風のデザインなのに、現実で、しかもレアほどの美少女が着ると途端に格が違う。
愛しの人の制服姿をしっかり目に焼き付けてから、俺たちは教室へ向かうことにした。
手を繋ごうとしたが……あっさり拒否された。学園内じゃ恥ずかしいか。
「本当に広いですわね……慣れないと迷子になりそう」
「最初はな。でも慣れれば意外と楽に進める……お、あそこの研究室は面白いぞ」
「相変わらず詳しいですわね……」
そりゃ、生まれ変わる前に何度も歩き回ってるからな。
学園には色々と便利な施設があって、原作では散々お世話になった。
さっき目に入った研究室もそうだ。確か武器の製造とかで使うんだったな。
お、見えてきた。
「ここが一年のSクラスか」
「教室の装飾が豪華ね」
「それだけ名誉あるってことだろ。さ、入るぞ」
勢いよく扉を開ける。
(うわ、空気ピリついてんな……)
教室にいたのはわずか十名。
俺たちを見た瞬間、その全員から威圧と殺気が飛んできた。
「……誰かと思えば、イカれ伯爵じゃねえか」
「伯爵? あぁ、”動かない”とか言ってたヤツか」
「俺様の相手にはならねぇな……はははは!」
俺にケンカ売ってきたな?
一人は王子様風のキザなヤツ。もう一人は不良っぽいガタイのいいヤツ。
あー、確か原作にもいたな。最初からSクラス組だったっけ。
「君、野蛮でうるさいよ。耳障りだ」
「なんだと!? そういうお前だってキザでウザってぇんだよ!!」
いきなり口論を始める二人に思わず笑ってしまう。
「品がありませんわね……」
「学園長が実力で選んだ結果だろ。ここからさらに選別されるんだ」
このメンバーで一年間固定ってわけじゃない。
普段の学園生活や試験の成績、実績次第でクラス替えは容赦なく行われる。
多いときは毎日だ。
とにかく入れ替わりが激しいから、今Sクラスでも油断すれば一気に下位クラスに落とされることもある。
「まあまあ、静かにしな。どうせメンバーはすぐ入れ替わるんだ。今のうちに仲良くしとこうぜ?」
「「あ?」」
フレンドリーに行きたいだけなのに。
こういうときは気が合うのか?
“ケンカするほど仲がいい”ってやつ。
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m(_ _)m




