第19話 モブキャラ、学園に向かう
「魔力充填……はっ!!」
手に持っている物に魔力を集中させる。
スカーレット家での騒動から約三ヶ月。
前よりも素早く多い魔力が貯められるようになった。成長を実感できるのは結構楽しい。
「何の修行ですの?」
「新しい武器のテストだ。ほら」
「……小さい玉?」
レアに見せつけたのは金属でできたような小さい玉。
四〜五個くらいあり、それぞれ俺の指に挟まっている。
「これに魔力を流して投げると……よっ」
「っ!? 中々の威力ですわね……」
軽く投げるとビュンッ!!という轟音と共に目の前の岩にいくつもの穴を開けた。
「名付けて”クラッシュビーンズ”だ。遠距離攻撃がなかったから足止め用に作ってみた」
「足止めにしては過剰すぎよ……まぁ、今に限った事ではありませんが」
メインはナイフで立ち回りながら小回りが利いて遠距離に牽制できる武器としてクラッシュビーンズを開発した。
魔力充填を使えば小さな玉でもそれなりの火力になって結構便利。
作ったと言っても鉄鉱石にマナ鉱石を混ぜただけど。
流石に武器制作に関する知識はないから、凝ったものは作れないんだ。
「スカーレット領の様子はどうだ?」
「ほぼ元通りよ。元気すぎて飽きないくらい」
「それなら何より。流石は魔力充填で作った薬だ」
人数分用意するのは少し大変だったけどな。
俺の血液がもっと欲しいと薬師から頼まれて血を抜かれた結果、何度も貧血に……
魔力切れと同じくらいしんどかった。
「後はお母様が再婚したくらいかしら……ただ」
「ただ?」
「当主はお母様になったのよ。旦那様は裏から支えるって」
「メアリ様が? スカーレット家って女性でも当主になれるのか」
「特にそういう決まりはないわ……はぁ」
何故ため息?
メアリ様が当主になる事がそんなに嫌だったのか?
「死の瀬戸際をさ迷ったからか、後三人くらい相手が欲しいって言いだして」
「いいことじゃないか。貴族の格を作る為に必要なんだろ?」
「そこはいいの!! けど、前より化粧や服が派手になって、夜の話も増えて……」
「あ、あぁ……」
「娘の前で生々しい女性の部分を出さないでよ……」
うーん、確かにしんどいかも。
実母の生々しい恋バナは気まずすぎるな。
レアもレアで苦労している。
「そろそろ入学の時期だろ? 残りの時間で色々話したいだけだって」
「そうだといいのだけど……」
「気晴らしに一緒に修行でもするか?」
「ふふ、思いっきり発散させてもらいますわ」
レアにナイフを向けると、彼女も嬉しそうに腰元の剣を抜いた。
「ここのところ、ずっと修行してますわよね」
「グランヴァル学園は強敵が多いからな。できることはしておきたい」
「わたくしも負けてられませんわね」
学園編は本編であり悪役ヒロイン達が集まる場所だからな。敵もどんどん強くなるし、怠けていたら救いたいものも救えない。
理想のために必要な努力だ。
惜しむつもりはない。
「いくぞ!!」
「いつでもきなさい!!」
互いに踏み込み、刃が混じり合う。
この日はレアとの修行で一日が終わった。
◇◇◇
「馬車も同じなんてな。ラッキーだ」
「婚約者として当然ですわ。第一印象は良いに越したことはありません」
「俺が豪華なアクセサリーにでも見えるのか?」
「さぁ? 自分に聞いてみてください」
そこから数週間後。
学園行きの馬車に俺とレアは乗っていた。
真相は俺がレアと一緒に行きたくて、わざわざスカーレット領まで足を運んだだけだが。
ちなみにメディは別の馬車で行く。
学園内でも従者がいる事は普通らしいが……少し不安だな。
「しかし学園から馬車が出るとは……中々気前がいいですわね」
「気前なんかじゃないな。かしこいヤツは自分で用意した馬車に乗る」
「ふふ、流石ゼクス。気づいてましたわね」
嬉しそうなレア。
「グランヴァル学園に入学試験はない。その代わり道中で行われる」
「せっかく名門グランヴァル学園に通いますもの。アピールポイントは増やすに越したことありません」
原作もそうだった。
入学式前の馬車からチュートリアルは始まる。
”実力者だけを求める”
それが生徒を見極めるためのグランヴァル学園流のやり方だ。
さて、目の前の殺気を消すことから始めよう。
「なぁ御者さん? その武器しまったらどうだ?」
「……今まで何人もの入学”候補生”を運んできましたが、気づいた上で乗り込んだのは始めてです」
「世の中変わり者で溢れてるって事だ」
ナイフを突きつけても御者は表情を崩さない。
「見抜いたから勝ち、ではありませんよ?」
「っ!! 馬と御者が消えた!?」
「テレポート的な魔法か……なるほどね」
フッと消えた後、客車だけがその場に残された。
原作だとトイレに出かけて帰ってこないパターンだったが、これはこれで面白い。
「へへへ……今年の若いヤツは綺麗だな」
「女の方は貰うぜ!! ブチ犯してぇ!!」
「襲うだけで金が入るなんて楽な仕事だぜぇ!!」
そして待ってましたとばかりにガラの悪そうな盗賊達が俺達を囲んだ。
「今から十秒以内に逃げな。二度と可愛い子ちゃんを抱けなくなるぞ?」
「ははは!! 自信満々だなぁ!! 身の程知らずってこのことか!?」
武器を抜いたまま客車を降りる。
ざっと六~七人程度か?
人数差だけで言えば圧倒的不利。
盗賊達も余裕そうに笑っている。
「忠告はしたぜ?」
「ガッ……?」
だが相手が悪いな。
俺は魔力充填で一気に距離を詰め、盗賊の心臓を一突きした。
「へっ!? は、はやすぎる……!!」
「よそ見をする暇はありませんわよ?」
「この女、いつの間に!?」
「はい一人」
ズバッ!!
レアも盗賊の首を斬り捨てた。
前より隙がない。成長してるなぁ。
「一斉に襲い掛かれー!!」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
盗賊達も人数差を生かした戦法に変えてきた。
全員近距離で突っ込んでくる辺り、遠距離系魔法はあんまりない感じか?
「ここはわたくしの……」
「俺がいく。ちょうど新兵器を試したくてな」
ヤツらには実験台になってもらおう。
対人での性能を見極めたい。
腰元のポケットケースからクラッシュビーンズをいくつか取り出し、両手の指と指の間に挟んでいく。
「なんだあれ……玉?」
「”散弾”」
そして一気に投げる。
高速の鉄球が散弾となって盗賊達に襲い掛かり、一瞬で身体を貫いていく。
四人まとめて。
「あれ!? みんな死んでる!? なんでぇ!?」
「一人逃したか……コントロールが課題だな」
「う、うあああああああああ!!」
一発ならまだしも同時に弾を放つとなると、取りこぼしが出てしまう。
多人数戦は強いけど安定感がないなぁ。
やっぱ”あの子”に武器を作ってもらうしかないか……
「ガフッ!?」
「もたもたしてたら間に合いませんわよ」
「流石だ。氷魔法の精度も上がっている」
「当然でしょう?」
地面から氷の槍が現れ、残った盗賊の一人の腹を貫いた。
これで全員。意外とあっさり終わったな。
「じゃ、急ぐとするか」
「へぇ!? な、なんでわたくしを持ち上げて……」
「こうした方が早いからなっ!!」
「きゃあああああああああああああああああ!?」
邪魔する者はいなくなったのでいざ学園へ。
俺はレアを抱えると魔力充填で脚力を強化し全力でダッシュした。
「せ、せめておんぶにしなさい!! お姫様抱っこは恥ずかしい!!」
「はははははは!! 学園についてからな!!」
「後で覚えておきなさいよーーー!!」
入学式に間に合わせる事が最優先だ。
しかしレアって結構軽いな。
筋肉付いてるのか?
あの夜も触れてみて……おっと、その話はやめておこう。
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m(_ _)m