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第18話 救済とご褒美

「俺達は用がある。後日また話し合おう」

「「「かしこまりました!!」」」

 

 断りを入れながら民衆達の束を通り抜ける。

 すげぇ盛り上がりだな。明日には祭りでもしてそうだ。 


「魔装結晶……一個くらい盗んでも……」

「どうぞ? 地位と名誉とわたくしとの関係を失う覚悟があるなら」

「レアを失うのは嫌だなぁ」


 貴重な回復アイテムが……

 これと同レベルの魔力回復アイテムは終盤じゃないと作れないのに。

 レアの信頼がなくなる方が嫌なので大人しく王家に渡すことにする。


 さてと。

 問題は解決したしちょっとしたご褒美でも貰おうかな?


「きゃっ!? な、なにをしますの!?」

「レアと手を繋ぎたくてな。メディ達の所まではいいだろ?」

「べ、別に……嫌とは言ってませんわ……」


 柔らかくて温かい……

 今まで手も繋いだことが無かったからな。

 レアも顔を逸らしながら、優しく握り返してくれた。


「……助けてくれてありがとう」

「気にするな。レアが救われるならそれでいい」


 一気に関係が進んだか?

 少し大胆にいってみたが、反応を見る限りいい感じじゃないか?


(救済完了、てな)


 まだ一人だけどね。

 他にも救わないといけないヤツはいる。

 学園に行けばザクネス以上の強敵もいるし頑張らないとなー。 


 軽く雑談をしながら俺達は街中を進み続ける。


「「ん?」」


 あの人影は……

 見知ったメイドとお姉さんが料理屋の近くにいる。


「あ、ご主人様おかえりなさーい」

「このラーメン美味しいわね~♪ 二人も食べるー?」

「「えぇ……」」


 料理屋の外テーブルで二人は仲良くラーメンをすすっていた。

 何してんだ。こっちは大事に巻き込まれたってのに。


「ラーメン二つ追加で!! しかし凄い盛り上がりですねー? どうなりました?」

「ザクネスは殺した。証拠も確保したし、後処理をすませれば全部終わる」

「この騒ぎはゼクスの仕業よ。自分を棚に上げてわたくしを領を救った英雄にしちゃったのよ」

「まぁ!! 女の子をたてるのはいい事よ♪」


 グッと二人が親指をたてる。

 さっきよりは落ち着いているが、この辺もだいぶ盛り上がってきた。

 奥の店では酒を浴びるように飲み始めて……二日酔いのアフターケアはやらないからな?


「アンタも少しくらい自慢すればよかったのに……」

「領民にとって一番身近なのはお前だろ? 俺はレアが認めてくれるならそれでいい」

「なっ……わ、わたくしを信頼しすぎですわ……」


 大事なのはレアや悪役ヒロイン達を救済することだ。

 彼女達からちょっとしたご褒美が貰えればそれでいい。


「けどそっかぁ、ザクネスは死んじゃったのねぇ」

「悲しいですか?」

「ううん? 新しい相手を見つけないとなーって」

「切り替えが早いですわね……」


 メアリ様、色んな事に対して図太いよな。

 殺伐とした貴族社会で生き抜くにはこれくらい鈍感な方がいいのかもしれない。


「おまたせしましたー」

「とりあえず食べるか」

「……そうね」


 ラーメンが来たのでいただくとする。

 ちゃんと箸まで用意されてるのが凄い……

 お、結構美味しいな。

 

「ずるずる……おかしくなった領民は俺の魔法で治せばいい。魔力充填した薬品にスライムをぶち込めば量産できるハズだ」

「アンタが直接触るわけじゃないのね?」

「一人一人にやったら時間がかかるからな。体内に抗体はあるし、この領にいるヤツらに調合は任せたら多分いける」

「……また毒とか混ぜないかしら」

「あー、そっか……別のところから連れてくるか」


 そういえばこの領の薬屋はメアリ様に毒を盛っていた。

 どこまで関与してたかは知らんが、そんなヤツに領民の治療を任せるのは不安だ。


「私の友達に頼るのはー? 遠くにいて中々会えないけど、腕はいいわよ♪」

「そんな知り合いが……わたくしも会った事ありましたっけ?」

「うーん、幼い頃に一回だけ?」


 そんな繋がりが?

 意外と顔広いのか……まぁこれで人材は確保できた。 

 時間はかかるが領民も元に戻せる。


「親玉は倒した、領民も治せる、魔族は取引が消えれば寄り付かないだろうし……後は?」

「屋敷の修理代」

「あっ」


 思いっきり忘れてた。


「派手に爆破しましたわねぇ? ゼクス・バーザム様?」

「……やりすぎた。すまん」

「面白い冗談ですわね。ザクネスを倒す事しか頭に無かった癖に」

「レアを救う事も追加で」

「わたくしの為に……ねぇ?」


 あそこまで大規模になる想定はしてなかった。

 ちょっとボヤ騒ぎになる程度で……それもよくないか。


「けどザクネスも屋敷を破壊しましたし今回は見逃しますわ。彼の実家から搾取すれば修理代は賄えるでしょう」

「ありがとう」 

「恩返しもありますしね?」


 ザクネスの実家?

 そういえば元から侯爵家の人間なんだっけ。

 スカーレット領でのやらかしを種に他に奪えるものがないか探してみるのも面白そう。


「ごちそうさまー!! あ、お代は私が払いますよー」

「美味しかったわねぇ。また来たいわぁ」

「ちょ、ちょっと? わたくし達がまだ食べ終わってませんわ」

「いえいえ、気にせずごゆっくりー♪」


 ラーメンを食べ終わった二人がそのまま何処かへ消えていく。


「余計な気遣いよ……」

「仲良くラーメンをすする事になったな。嬉しい事だ」

「ふん……」


 二人きりの状況か。

 少しロマンチックになってきた。

 場所はラーメン屋と少し味気ないけど。


「ゼクス」

「ん?」


 レアの声に反応するよう振り向くと、


「おかえしよ」 


 唇に柔らかい感触。顔と顔の距離が今まで以上に近づいた。


「おかわりは?」

「替え玉で我慢してちょうだい」

「もう少し幸せを味わいたかったんだけどなぁ……ま、いっか」


 大胆なアプローチを前に俺ですら余裕が消えそうになった。

 美少女って何をしても破壊力あるからずるい。


「ちゃんとわたくし以外の相手を作りなさいよね? 一途な人は貴族から舐められるわよ?」

「既に目星を付けてるから安心しな。最も、本格的に動くのは学園に入ってからだが」

「あら、素敵なお姫様でも入学するのかしら?」

「とっておきのな。お姫様だらけで大変だ」


 救うのはレアだけじゃない。

 学園に行けば悪役ヒロイン達はまだまだいる。

 ここから本編が始まるのか。楽しみだな〜!!


 ◇◇◇


side:???


「クソッ!! また失敗した!!」


 金属の響く音。

 連鎖するように他の物が崩れ落ち、部屋の中はより一層汚くなる。


「また武器研究ですか……いい加減、公爵家の人間らしく振舞ったらどうです?」

「それでアリーシャお姉様より好かれると? 誰もアタシの事を見ない癖に」

「……歪んでますね」


 姉は呆れているが、彼女は振り向きもせずに落ちた物を拾い始める。 


(全部お姉様がいるからだ、お姉様さえいなければアタシだって愛されたのに……!!)


 一方的な嫉妬心。

 彼女の複雑な思いも姉には届かない。


「私が好かれているのは地道な努力と日々の振る舞いによるものです!! 才能は関係ありません!!」

「うるさい!! 何もかも持っているお姉様にわかるものか!!」


 姉には理解できない。

 立場こそ似ている。

 だが才能も性格も実力も何もかも姉に劣っている。


 その劣等感が彼女を苦しめ続けた。


「私に負けただけで落ち込むサーシャが悪いのでしょう!? 貴方の振る舞いは嫌われて当然です!!」

「何でもかんでもグチグチと……姉ぶりやがって」

「姉ですからね!!」


 余計なお世話だ。

 自分がいい子だとでも証明したいのか?

 貴方は何もかも恵まれてる癖に。


「とにかく次のパーティまでには髪も服も整える事!! いいですね!?」


 バタン!!と強く扉が閉められる。

 振り返ると、そこに姉の姿はなかった。


「お姉様にアタシの気持ちがわかるものか……」


 掃除する気も失せた。

 研究を続けるのも飽きた。

 色々と気分が削がれて、何もしたくないと思ってしまう。


(アタシを愛してくれる人……アタシが愛せる人はどこにいるんだい……)


 誰にも愛されない公爵令嬢。

 誰からも愛される公爵令嬢。


 二人の溝は深まるばかり。


 しかし、自らの運命を変える者が学園に現れるとは。

 この時のサーシャは知らない。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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