第15話 モブキャラ、真相を知る
「君がそそのかしたのかい? ゼクス・バーザム」
「何の事だかさっぱり。俺達はかくれんぼをしていただけだ」
「こんな所で? 冗談はもう少し上手く言った方がいいよ」
軽い冗談を交えつつザクネス侯爵と会話を進める。
「悪い事は言わない。盗ったものをそこに置いて去りなさい」
「盗るつもりは無い。ただ借りるだけだ」
「借りるとは?」
「禁じられた魔道具を王族に送りたくてな。いい話の種になると思うぞ?」
見せつけるようにさっき取った魔装結晶を出す。
小刻みに揺らされるブツを前にザクネスは不敵な笑みを浮かべた。
「そうか……そこまで知ってしまったんだね……」
「悪気はなかった。かくれんぼしてたらつい見つけて、な?」
「ふふっ……かくれんぼ、ねぇ」
腹を抱えて笑い出す。
優しさという仮面が少しずつ剥がれていき、ザクネスの中に隠された”狂気”が表に出てくる。
「だったら逃げられる前に鬼が捕まえないとねぇ?」
優しくて人当たりのいい当主の姿はどこにもない。
ここにいるのは何かが振り切れた悪人だ。
「お父様ッ!!」
「どうしたんだい? そんなに声を荒げて」
「何故ウチの領を荒らしたのです!? 何故スカーレット家に関わる人間をあんな状態にしたのです!!」
「あんな状態か……それで?」
「強さと誇りこそスカーレット家の存在意義であり、領を守る為に必要な事!! それを壊すなんて、貴方は当主としての自覚がありませんわ!!」
娘であるレアからの怒りがこもった問いかけ。
怒りを前にしてもザクネスの態度は一ミリも変わりはしない。
「君もジャンと同じことを言うのだね……」
「ジャン? 何故ジャンお父様の話が?」
「彼とは古い付き合いだ。同じ侯爵家の人間同士、よく話し合ったよ」
そんな関わりがあったか。
こんな狂気的なヤツがスカーレット家の当主になれるとは思えなかったが。
「彼は規律と信頼で平和をもたらせようとした。そんな旧時代の考えでは支配も成り上がりもできない」
「旧時代ですって? 元からある物を壊す事が、貴方にとっての新時代とでも言うのですか!?」
「そうだ」
なんとなく、ザクネスのやりたい事が見えてきた。
「圧倒的な支配こそ最も価値があるというのに。スカーレット家は地位も高くて領内の人も多い。そこで実験しない等……もったいないと思わないかい?」
支配。好奇心。
ザクネスが持っていると思われる”魔法”の力に溺れている。まるで自分が神に選ばれたと錯覚してるかのように。
「人間がお前の操り人形だとでも言いたいのか?」
「無駄が多いからね。思考も気力も、僕が調整した方が最も効率が良くなる」
「それは……!?」
ザクネスが懐から出した小瓶。
緑色の液体? って甘い匂いが漏れてる。
繁華街で飲んだ水と似ているな。
なるほどね。
大体わかった。
「これをバラまくだけで人間は退化する。実験段階の未完成品だが、いい効果を発揮してくれたよ」
「……貴方だけは許せませんわ!!」
ジャキン!!
敵意と共にレアが剣を抜き、ザクネスに突き立てる。
「ジャンの最後の言葉を知っているかい?」
「へ……?」
それを待っていたかのように、ザクネスは本筋とはズレた事を嬉しそうに語り始める。
「お前の支配欲など、スカーレット家の強さと誇りの前には砕け散るだろう……実際はご覧の通りだ」
「待ってください……何故貴方がジャンお父様の最後を!? わたくしですら死に間際には会えなかったというのに!!」
「……まさかお前」
レアの父親が死んだ原因。
嬉しそうに語り続けるザクネスの姿から俺は全てを察した。
「僕が殺したんだよ。たっぷり毒を飲ませてね」
狂気的な笑みと共に自らの罪を自白する。
衝撃的な事実を前に、レアの顔が真っ青になっていく。
(やりやがったな……)
好奇心というのは人を変えすぎる。
俺が悪役ヒロインを攻略するように、ザクネスは自らの欲望を満たすために友人を手にかけた。
「嘘……」
「おかげで友人の僕はスカーレット家の当主になれた。僕をただのクセ者としか扱わなかったジャンはなんて愚かな存在だろう」
「そんな……ジャンお父様を殺したのは……」
「メアリにも毒を運ばせたんだ。もうじき死ぬだろうし、そうなれば君を守る者は誰もいない」
レアの剣が震える。
歯ぎしりが聞こえる。
呼吸も荒い。魔力もあがっている。
「ありがとうジャン。こうして娘の醜い顔を見れたんだからさぁ……!!」
「っああああああああああああああああああああ!!」
「レア!!」
これは罠だ。
彼女を止めようと手を伸ばしたが遅かった。
レアは勢いよく飛び出し、憎き父親の仇を切り捨てようと剣を振る。
プシュー!!
「っ!? ゲホゲホッ!!」
やっぱ仕掛けてたな。
レアがザクネスの元に着いた瞬間、地面から緑色の煙が吹き出す。
「飛び込んだねぇ……やっぱりジャンが大好きなんだ。単純でいいよ、素晴らしい」
「ち、からが……でない……」
レアが飛び込んでくる事を読んだ上での戦術か。
父親の仇という感情的になる材料でレアを釣り、彼女から力を奪い取る。
「あ、なただけは……貴方だけは……!!」
「君にできるのは復讐じゃないよ。僕に支配される事だ……あははははははははは!!」
自分は一切苦労せずに娘を無力化できる。
本当によく考えたよ。
義理とはいえ、たった一人の娘を自らの欲望に利用するなんて。
悪意の塊。
己の欲望で誰かを破滅させる姿。
俺だってそうだ。
欲のままに動いてるだけ。
本質的には俺とザクネスは似ているかもしれない。
けど、
「いや? お前に訪れるのは破滅だけだ」
「っ!? ゴフッ!!」
そんなもの、俺が全部壊してやる。
前に強く踏み込んだ後、俺は渾身の拳をザクネスの顔面にぶちかました。
「自慢話は終わりか? クソ当主」
「何故僕の毒が効いてない!? 何をした!! ゼクス・バーザムゥ!!」
イレギュラーへの対処が甘かったな?
ザクネスよ。お前の欲望が何だろうと知った事ではない。
レアのハッピーエンドを勝ち取るため、犠牲になってもらう。
覚悟しろよ?
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m(_ _)m