第14話 モブキャラ、潜入する
「けどお母様の安全が最優先よ。これ以上、辛い思いはさせたくないですわ」
「レアは優しいねぇ。今度またお出かけしましょ♪」
「相変わらずマイペースですわね……はぁ」
メアリ様はポカンとしている。
「お出かけは楽しいわよ~?」なんて呑気な事まで。
病気で死の瀬戸際をさ迷っていた人とは思えない。
「病気のフリは……」
メアリ様にベッドでひたすら寝てもらう。
仮にザクネスが来ても寝ていれば病気が治ったとは気づかれない。
これで一日くらい稼げると思ったが……
「んー? 何かしらー?」
「無理だな」
「無理ね」
元気よく動き回る姿を見て諦めた。
この人がじっとできると思えない。
ここから連れ出す方がまだ安全だな。
「メディ、護衛頼めるか?」
「かしこまりましたぁ!!」
メアリ様に負けないくらい元気いっぱいの返事。
メディの魔法ならメアリ様を安全に外まで運べるだろう。
「ご主人様はどうするんです?」
「レアと書類を取りに行く」
「えぇ!? ご主人様もですか!?」
俺は俺で別の仕事がある。
ザクネスを追い詰めるための材料探しがな。
「その魔力量で無茶しちゃダメよ。わたくしも魔力を消費してますし、また倒れたら助けられませんわ」
「書類を取るだけなら大丈夫だ。やっぱりレアは優しいな」
「ねー♪」
「お母様まで!! そういうのではありませんわ!!」
ぷんぷん怒る姿も可愛い。
ザクネスと本格的にやり合うつもりはないし、書類を取って帰るだけ。
最も、この状態でも色々対策すれば勝てると思うが。
あくまでメアリ様の安全と書類の確保を優先したまでだ。
「メイドに取りに行かせるのは? 確実でしょう?」
「そしたら誰がメアリ様を守る? メディの実戦経験は」
「ないとは言いません!!」
「……確かに不安ね」
魔法は強いが所詮はただのメイド。
できる事は限られている。危険な仕事は戦える主人に任せればいい。
「というわけで作戦決行。メディ、頼んだぞ」
「はいはーい♪ 少しだけ静かにしてくださいね~」
「あら、私の姿が消えて……」
元気な返事と共にメディとメアリ様の姿が消える。
「本当に凄い魔法ね……」
「自慢のメイドだ。さ、行くぞ」
扉を開けて丁寧に鍵をかけた後、俺達は執務室へと向かう。
廊下を歩いて、階段を降りて、また廊下を歩いて。
結構遠いな?
執務室ってかなり目立たない場所にあるのか?
「ここか」
「相変わらず薄気味悪い場所ですわね……」
ようやく辿り着いた。
暗くて埃っぽい。しかも周りの部屋は全部空き部屋。
ここだけ使っているというのも妙だな。
「誰も寄り付かないのか?」
「お父様は静かな場所で仕事がしたいらしいので。用心深く鍵まで閉めて」
「怪しさ満点だな」
中で何かしていると疑われても仕方ない。
人気の少ないこの場所は魔族と話すのにちょうどいいか?
「わたくしも何度か入れてもらった事はありますが……特に怪しい所はなかったのよねぇ」
「その時だけ片づけていた可能性もあるか? ま、詳しく見ればわかる」
とりあえず中に入ろう。
俺はレアに目配せして鍵の場所を聞き出す。
「……残念ながら鍵はお父様しか持っていませんわ」
「まじか」
よっぽど人を入れたくないらしい。
けど困ったなー。
中に入れなければ書類も証拠も手に入らないぞ。
「仕方ない。秘策でいこう」
「秘策?」
ドアに手を触れる。
普通の木造ドアか。魔法による加工の形跡もない。
これならいける。
「へ? 何をして……」
俺は少しだけ扉から離れて、拳に力を入れる。
そして……
「よっと」
ボコォ!!
力を入れた拳でドアを思いっきり殴った。
「バカバカバカ!! 何をしていますの!?」
「何って穴を開けただけだが……」
「後でどう説明しますの!? 盗人の手口と同じですわよ!?」
「なーに、フラついた従者がやらかしたと言えばいい」
ドアには綺麗な穴が空いた。
というかドアを蹴破った方がよかったか?
まぁ証拠は少ない方がいいし、静かに終わらす方が大事だ。
このままドアを開けよう。
「空いた空いた。使った道具は……この棒という事にしておくか」
「こんな脳筋突破で大丈夫ですの……」
「重要なのは中に入る事。過程はどうだっていい」
「よくない!!」
まだ不満か。
サクッと取って帰ればOKだというのに。
という訳で執務室に潜入。
「前よりも本が増えてる? というか散らかりすぎですわ……」
「読書家なのか?」
右から左までギッチリ詰められた本棚。
本だけじゃなく紙の資料まで。
地面にも資料が散らばっている。
「他の貴族に関する資料が多い?」
しかし内容はきな臭い。
どれも貴族に関する事が記載されていた。
「侯爵家だけじゃない……伯爵家や公爵家、王族の資料まで!?」
「どうでもいいような情報まで丁寧にまとめてる……何か企んでるな?」
他貴族の情報は貴族社会で生きるために必要なものだと思う。
けど、それにしては無駄が多い。
幼い頃の失敗談とか。日記とか。信憑性の低いウワサ話まで。
弱みを握るには物足りない内容。ここまで細かい情報を集める理由は何だ?
「後は薬学や毒に関する研究か……」
机の周りにはザクネスの得意分野であろう魔法に関する資料が。
薬学や毒ってことは、状態異常系の魔法使いか?
って待て。この本は……
「非合法の書物まであるぞ」
「非合法!? ってこれ禁術指定されてる魔法が載ってるじゃない!!」
「使っちゃいけないアイテムと魔法の組み合わせねぇ。だいぶヤバい研究をしてるな」
原作だと闇商人から購入する魔導書じゃねーか。
「皆には内緒ダヨ」という怪しいセリフと共ににゲーム内でポンポン購入したけど、侯爵家の当主が持つべきアイテムではないな。
押収した感じではなさそうし……意図的に買ったな?
「レア、これを見ろ」
「……まさかこれ」
「魔装結晶だ」
そして机の引き出しに入っていた。
例の禁じられた魔道具、魔装結晶が。
「これが魔装結晶……なんて禍々しい光ですの」
「ぶっ刺させば何もかもハイになれるってわけか。とんでもない代物だ」
実物で見るとより恐ろしさを感じる。
刺々しい鉱石は不気味な紫色の輝いており、持つだけでその恐ろしい力を実感することができた。
魔装結晶ねぇ。原作でもお世話になったよ。
魔力充填とも”一応”組み合わせるコンボはあるが、この世界だと乱用するのはよくないと思う。最悪バレたら破滅する。
証拠品としていくつか持ち帰るとしよう。
「これでスカーレット家が……許せませんわ」
禁じられた魔道具によって荒らされていく領の現状。
そして手を出したザクネスという存在。
強さと誇りを大事にするレアにとって許す事はできない。
(とりあえず書類を探して……)
決定的な証拠を盗んでさっさと帰ろう。
そう思いながら机を漁っていた時。
「そこで何をしているのかな?」
「「っ!!」」
ドアの向こうに人影。
振り返ると、そこには当主ザクネスの姿が。
「お父様……っ!!」
「レア、勝手に入ったらダメだと言っただろう?」
こんな状況だってのにニコニコしやがって。
不気味すぎだろ。
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m(_ _)m