第12話 モブキャラ、魔力が切れる
(魔装結晶の副作用だけじゃないな……色んな魔法の状態異常も付与されて複雑になってやがる……)
一個。また一個とデバフの元を潰していく。
俺の体内にもメアリ様を苦しめる状態異常が流れ込んでくるから、正直しんどい。
けど、確実によくなっている。
「あらー? なんだか身体が……」
「もう少し……もう少しだ……」
体内の異常が少なくなってきた。
副作用による魔力の過剰反応も減って、魔力の循環が安定している。
だけど俺の魔力量が少ない。
残り三秒……二秒……一秒……
「ゲホゲホッ!!」
「ゼクス!?」
ズキッ!!
自分の魔力が無くなったのと同時に頭が物凄く痛くなる。身体もめちゃくちゃダルいし……力入らねぇ。
「まさか全部の魔力を使ったんじゃないでしょうね!?」
「治ってないのに途中でやめる愚か者はいないだろ?」
「無茶しすぎよ……ばか」
魔力は切れた。
だけどメアリ様の身体はもう大丈夫なはずだ。
(しかし魔装結晶か……”あの組織”が動いてるって事か?)
原作における悪の組織。
魔装結晶もそいつらが生み出した。
組織内に救いたいヤツは一人だけいるが……他は無理だな。
俺も全知全能ではないし限界はある。
要はビジュがいいけど破滅するキャラを救いたいってだけ。
「……」
「お母様?」
両手を広げながらゆっくり立ち上がるメアリ様。
握っては開いて。腕を動かしたり、足を軽く上げたり。
「くーるりんっ!!」
「「っ!?」」
そしてその場でバク宙した。
綺麗な空中回転だった。
「わーすごーい!! 身体が元気いっぱいね!!」
「お母様!? いきなり宙返りしたらびっくりしますわ!!」
「うふふ、昔みたいにはしゃいでみたくて♪」
ここまでアグレッシブな人だったのか!?
山とか海に連れて行ったら勝手に奥地まで進んじゃいそうなタイプ。
母親なのに子供っぽい。
ガタッ!! ガタガタガタッ!!
「「「ん?」」」
タンスの中から物音?
さっきまで気配も何も感じなかったけど。
気配?
まさか……
バァン!!
「ご主人様ぁ!? だ、大丈夫ですか!?」
「うわぁ!? ってゼクスのメイドじゃない!? なんでここにいますの!!」
タンスの中から声を荒げたメディが現れた。
……なんで?
「この部屋に隠れてずっと見ていたんです!! そしたらご主人様が倒れて……」
「隠れてずっと見てたぁ!? まさか不法侵入していましたの!?」
そういや不法侵入が好きだって言ってたな?
最初はジョークかと思ったがマジだったんかい。
「メディ、何故この屋敷にいた?」
「えっと……まず散歩してたらですね」
「うん」
「綺麗な屋敷を見つけたわけですよ」
「それで?」
「中はどうなってるかなーって不法侵入しました★」
「大問題どころの騒ぎじゃない……なんなのこのメイド……」
わんぱく小僧がここにも一人。
俺の専属メイドをやってる理由って素行不良が原因なんじゃないか?
魔法や事務作業は優秀だし可愛いからいいけど。
「いやぁ~♪ 私、能力的にも不法侵入に向いてるので、珍しい場所とか色々入りたくなるんですよねぇ♪」
「わんぱくな子ね~。ジャンの二番目の奥さんに似ているわぁ」
「お母様も懐が太すぎますわよ……はぁ」
この二人は相性が良さそうだなーとか思っている時。
「あー……やっば」
「ご主人様!?」
「ゼクス!?」
ズキン!!
頭が強く痛み、その場で倒れた。
「原因は魔法の過剰使用による魔力不足です!! 不足した魔力を補うには口から直接流し込むのがベスト!! 私の始めて、いきま……」
「まって」
「ふえっ」
応急処置をしようと近づいたメディをレアが止める。
「……借りはきっちり返しますわ」
何をするつもりだ?
遠目でレアを見ていた時。
「んっ……」
「なんと!?」
「あらあら♪」
俺の口元にレアの唇が重なった。
「んっ……ふあっ……くぁ……」
唾液と唾液の交換。
すると失われていた魔力が戻っていき、頭痛も少しずつ収まってきた。
魔力供給の仕組みは知っている。
メインストーリーでも魔力を失った主人公にヒロインが愛を含めたキスをする場面があったから。
俺がされる立場になるとは。しかも相手があの悪役、レア・スカーレットだとは思わなかったけど。
「ぷはっ……どうかしら?」
「……すげぇ元気出た。素晴らしいご褒美をありがとう」
「べ、別に深い意味はありませんわ。ただ、お母様を助けてもらったお礼がしたくて……」
相変わらず素直じゃないな。
そういうツンデレな所も好きだ。
大好きな人からされるキスなんて魔力以外にも元気を貰える。
「原因は魔装結晶による魔力の過剰反応だ。コントロールが効かなくなって色々暴走してた」
「それを魔力充填で補ったというわけ?」
「加えて副作用に対する抗体を生み出した。疲労は溜まるが、時間が経てば元気に動き回れるぞ」
要は副作用のせいで身体機能がおかしくなっていた。
そこを魔力充填で色々調整して、異常とかを消し去れる強い身体を作ったというワケ。
「久しぶりに連続バク宙とかしてみようかしら~」
「……もう既に元気よ」
「昔からああなのか?」
「そうですわね。昔からアクティブな人なので……」
手をふんふん振り回して楽しそう。
ずっと寝たきりの人間がする動きとは思えない。
連続バク宙ってなんだよ。新体操でも始めるつもりか?
「さて、メアリ様の事をどう隠すかだな……」
「隠す? 治ったやったーじゃダメなんですか?」
「メアリ様は意図的に殺されかけたんだ。生きてたら不都合に思う奴がいるだろ」
「焦って殺しにくるかもしれないわね……全く、誰がこんな事を」
で、問題はここから。
メアリ様を治す事でメアリ様を狙うヤツを引きずりだそうという計画だが。
できれば親玉含めてサクッと倒したい。
メアリ様の安全を確保しつつ、おびき寄せるには……
もう一個くらいエサが欲しいなぁ。
「あ、そういえば……」
「どうしたメディ?」
「さっき執務室でここの当主が魔族とお話してる所を見まして……」
「「はぁ!?」」
とんでもない場面を目撃したな?
ナイスだけど俺はメディの行動が恐ろしいよ。
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