第11話 モブキャラ、綺麗なお母様を治す
「やっぱでけー」
「バーザム家の屋敷が小さいだけですわ。ほら、いきますわよ」
外観も綺麗だ。
庭も手入れされてるし、出入りする従者の数だけでもウチより多い。
「あ、どうもー」
「お客さんだー。すごーい」
「ここも侵食されてる……けど、さっきよりはマシか?」
従者や兵士もほわほわしている。
ぐったりしていた領民とは違い、一応仕事はできるみたいだけど。
「できれば入れたくありませんでしたが……ゼクスのお願いですしね」
「ほぉ? 俺のお願いならなんでも?」
「エッチなこと以外でお願いしますわ」
領民のこの差はなんなんだ?
疑問に思いながら俺達は廊下を進む。
「ほほー、貴族らしいお高い壺だなぁ」
「バーザム家には骨董品すらありませんでしたね」
「見栄えのいい物くらい欲しいよ……また後でな?」
「ん? 何かしましたの?」
「触りたかっただけ。さぁいこう」
一応、保険はかけておくか。
壺に軽く触れた後、”とある物”を中に入れてその場を去った。
「ここですわ」
「おほん、失礼します」
ザクネス当主と違って、メアリ様の立ち絵って公開されてないんだよな。
どんな感じだろう……
「あらレア。今日は早いのねぇ……ってまさか婚約者?」
扉を開けた先にいたのはベッドで横たわる美人なお姉さん。
腰まで伸びた紫色の髪に宝石のような輝く瞳。
強さを感じさせる濃い顔立ちがレアと似ている。
「はじめましてメアリ様。バーザム家のゼクスと言います」
「あら……あらあらあら!!」
すげぇわんぱく。
俺の話を聞いた瞬間、目を輝かせながら手をパチパチさせてる。
「嬉しいわぁ。寝たきりで外の事なーんにもわからなかったから。こうしてレアと仲良しの子が来て嬉しい♪」
「ちょっとお母様。わたくしとゼクスは仲良しというわけでは……」
「とても仲良くさせていただいてます。俺も心の底から愛しているので」
「まぁロマンチック!!」
「ゼクスは少し黙って!!」
結構フレンドリーな方だな。
原作にも登場してたらそこそこ人気が出ると思う。
「ゲホゲホッ!!」
「もぉ、お母様も無理しないでください」
「いいじゃない。どうせこの先短いのだから」
「だから悲しい事は……」
ただレアの言う通り体調はよくないらしい。
せき込む姿はかなり痛々しく、メアリ様に残された時間が少ない事を証明していた。
「で? 普段飲んでる薬ってのは?」
「これよ」
「ふーん……」
これを普段から……
パッと見は普通の薬に見えるけど……ん?
「ゼクス?」
「あー……クソめんどい代物だな」
「あらあら?」
何か光った。
量は少ないしバレないよう色の濃い薬で上手く隠してある。
隠すようなもの。そしてこの輝きは……
「これ毒だぞ」
「えっ……?」
俺は確信する。
「冗談はやめてください。領内一の薬屋で処方してもらっていますのよ!!」
「わからなくても仕方ない。毒は少ない上に他の薬でうまい事誤魔化しているからな」
「……どういう事ですの」
「じわじわ殺そうとしてたんだ。恐らくメアリ様を違和感なく消す事でスカーレット家を乗っ取ろうとしている。回りくどいやり方だよなぁ……」
よほどスカーレット家が欲しいらしい。
ただ証拠は残したくないから、メアリ様はゆっくり病死させようとしている。
領内で流行っているのも、こいつが原因だろう。
「マナ鉱石の使い道ってわかるか?」
「武器や魔道具、特殊な魔法用の触媒に……」
「それは”表”の使い方だな」
「……まさか」
俺は知っている。
謎の毒がなんなのかを。
「”魔装結晶”……この薬にはその一部が入っている」
原作でも闇ビジネスの中核を担っていた禁止アイテム。
それがメアリ様の薬に混入していた。
「存在は知っていますわ。加工したマナ鉱石を直接体内に取り込むことで人知を超えた力と魔力を手にできる。けど、魔装結晶は依存性と副作用が強すぎて、王国では禁止されてる代物ですわよ!?」
「持ち込まれたんだろうなぁ。最近、マナ鉱石の相場が上がっているのも裏取引で流れてる影響か?」
「あらあらー? なんだか大変そうねー?」
こんな段階からお目にかかれるとは思わなかったけど。
魔装結晶は少量でも効果が出るから、毒殺するのにちょうどよかったんだろう。
ツイファンでも魔装結晶による中毒症状が大問題になってたし。
「領民がおかしくなってる原因もこれだ。恐らく何かしらの方法でわかんないように……ん?」
「そんな……わたくしはお母様を……」
レアが膝から崩れ落ちる。
「大丈夫だ。俺が治すから」
自ら運んだ薬が毒だったなんてショックに決まっている。
ただ母親を治したかったのに、逆に苦しめる結果になってしまったのだから。
「メアリ様、手を」
「はーい♪」
そんな失敗は俺がなかった事にしてやろう。
メアリ様の手を俺は強く握りしめる。
「妙にテンション高いですね?」
「ふふっ、男の子に手を握られるなんて前の旦那様以来だもの♪」
「ザクネス様は握ってなかったのかよ……」
意外と関係ヒエヒエか?
優しそうなのに家庭環境が悪いって闇深い。
「魔力充填」
魔力を集中させ、メアリ様の身体に少しずつ流していく。
「なーるほど……深刻ではあるが病状はシンプル……要はこいつの抗体を作れば……」
「な、何をしようとしてますの?」
「魔力充填で魔装結晶に対する抗体を作り出す。増幅した魔力で再生力をあげて戦わせるんだ」
「聞いてもわけわかりませんわね……」
魔力充填はあらゆるものや生命の効果を上げる。
俺が治癒能力をあげて傷を治した時のように、魔力充填で身体の機能を向上させて副作用と戦える身体に。
要は何度も何度も戦っては再生してを繰り返し、メアリ様の身体に副作用や
状態異常に対する抗体を作り上げようとしている。
ツイファンでも受けた状態異常を次回以降に無効化できる能力があったし、その派生で行けると思ったが……
割と上手くいきそうだな。
「はぁ……はぁー……」
「無茶しちゃダメよ? こーんなおばさん生かしてもいい事ないんだから」
「おばさんにしては随分と若いですね?」
「あらあら♪」
本当に若いと思う。
姉妹って言われても違和感ない。
(いけそうだな)
循環する魔力がいい感じに整ってきた。
魔力を通じてメアリ様の身体機能もあがっている。
この調子なら彼女の身体を治せそう。
けど過剰な魔力放出で疲れてきたなぁ……
もう少しだから頑張ろう。
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m(_ _)m