第106話 モブキャラ、女悪人と戦う
「っ……あーしを騙そうったって、そうはいかないよ!!」
「騙してませんわ。ゼクスは可愛い子に対して、バカみたいに素直ですから」
「うるさい!! そんなやつ、いるわけないんだ!!」
あの大剣を片手で持ち上げた?
アリーシャですら大剣は両手で扱っていたのに……それ以上の怪力ってことか?
「剛力波!!」
「うおっ!!」
力任せに振るわれた剣が衝撃波を生み出す。
軌道は単調で回避は容易いが……それでも威力は凄まじい。
(一発でも喰らったらアウトだな……)
周囲の建物が粉々に砕け散り、地面さえ深くえぐれていく。
ダメージを負いながら突撃する――なんて、魔力充填頼りの戦法は使えそうにない。
「ここは俺一人でやる」
「へっ!? だ、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よ。ゼクスがああ言ってますから」
ここは俺一人でなければいけない。
勝つつもりではあるが、それ以上に大事な理由がある。
「俺の強さを証明して、ヴィーナスを落とす」
彼女を惚れさせたい。
力が全てのこの世界では、実力を見せることが最も効率よく魅力を伝える手段だから。
「あーしで遊んで楽しいのかい!?」
「遊ぶならベッドの上がいいな。最高の夜を過ごせそうだ」
「っ……イライラする!!」
ヴィーナスが一回転したあと、大剣が勢いよく手元から離れた。
随分と雑な遠距離攻撃だ。軌道は単純だから回避も容易――
「はぁああああああッ!!」
「っ!! 面白いな……」
ヴィーナスが俺に向かって飛び込んできた?
いや、違う。今投げた大剣の後を追っている。
そこから導き出せる次の一手は――
「っとぉ!!」
大剣を掴んで、俺へと振り下ろす。
投げた大剣に追いつく脚力……爆発力だけなら魔力充填をも超えているか?
いや、違う。
「魔装結晶と肉体強化……相性が良すぎるな」
「へぇ、よくわかってんじゃん」
俺の考察に、ヴィーナスがニヤリと笑う。
「あーしは魔装結晶の実験で強靭な肉体を手に入れた。身体能力じゃ誰にも負けないよ」
素の身体能力。
これは魔力充填で鍛えても埋めにくい領域だ。
特化すれば耐えられなくもないが、素で高い相手は魔力充填でもカバーが難しい。
ここまで身体能力に特化したやつは珍しい。
デストレーダーのリーダー格はやはり次元が違う。
「ま、その実験があーしをバケモノに変えたんだけど」
悲痛な瞳。わずかに暗さを帯びた声。
今の自分が彼女にとってコンプレックスであることが分かる。
「バケモノ? 乙女だって自分で言ってたじゃないか」
「またからかうんだから……本当にむかつく!!」
怒りを露わに、ヴィーナスが大剣を掲げて襲いかかってくる。
(動きは速いな……だが)
癖のない、ひたすらシンプルな攻撃。
見切ってしまえば、スピード差はどうとでもなる。
「クラッシュビーンズ!!」
「っ!! 小賢しい!!」
距離を取ってはクラッシュビーンズで足元を狙う。
ヴィーナスも無茶はしない。遠距離攻撃をかわしつつ接近し、大剣を振るい続ける。
「ほっ!!」
だが一度たりとも攻撃は当たらない。
俺がひたすら回避を続けるたび、ヴィーナスの怒りは増していく。
「ぐっ……」
そして、クラッシュビーンズの一つがついに足元へ命中した。
ダメージは小さいが、確かに当たった――ここがチャンスだ。
「一瞬だけ魔力充填を使ってますわね」
「器用なことをしますね……私と戦った時より、更に精度を上げている」
「力量差を技術でカバーしてる。ゼクスの成長速度って何?」
レアたちも気づいている。
俺が何を狙っているのかを。
「はぁっ……はぁ……」
息が荒いヴィーナス。
膠着した戦況がメンタルを削り、動きにも甘さが出始めた。
「そこっ!!」
「ぐっ!!」
その隙を逃さず、胸元近くへナイフを勢いよく突き立てる。
「こう……なったら……」
「おっと、お姫様が使う物じゃないぜ?」
「あっ……!!」
懐から取り出した魔装結晶を、すかさず蹴り飛ばす。
さらに隙が生まれ、俺のターンは続く。
「はっ!! ふっ!! でりゃぁ!!」
胸元を中心に殴打を連続で叩き込む。
魔力充填を込めた一撃は、身体能力の高い彼女でも致命傷となる。
「はぁあああああああっ!!」
重い蹴りが彼女の身体を宙へ浮かせ、そのまま地面へと叩きつけた。
抵抗もできず、ただ受け入れるしかない。
「ゲホッ……ゲホッ!! ハァッ……ハァー……」
胸部への攻撃が呼吸を奪い、今の彼女は生きるための最小限の酸素しか取り込めない。
呼吸ができなければ、高い身体能力も活かせない。
身動きも取れず、ただ呼吸するだけの時間が訪れる。
「……殺せ」
「ほう?」
「さっさと殺せ……醜いあーしを……」
最早、生きることを諦めているのか。
俺はナイフを腰へ戻した。
「それは好きにしろって事か?」
「そうだよ……」
「「「あっ」」」
言質は取った。レアたちは何か察したようだが遅い。
勝者は好きにさせてもらう。
「よいしょ……」
「んんっ!?」
倒れたヴィーナスに近づき、俺は彼女の服を丁寧に脱がし始めた。
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