第104話 モブキャラ、触る
「あ、あの……そんなに触られると恥ずかしいです……」
「いやらしい言い方だな。俺たちはもう交わってるのか?」
「セクハラ!! 最低ですよ!!」
ミホークに威圧されて完全に気力を失っていたナターシアだが、少しずつ調子を取り戻してきた。
俺にツッコミを入れる余裕があるなら大丈夫だ。
「指と指を絡ませてるだけですわよねー?」
「そうだな。恋人らしくイチャつけて幸せだ」
「うっ……うううううう……!」
顔を真っ赤にしたあと、ナターシアは深く俯いてしまう。
今の俺たちは、真ん中にナターシア、左右に俺とレアが立ち、それぞれ彼女の手をぎゅっと握っていた。
二人にベタ惚れしているからか、彼女はますます声を小さくして恥ずかしがる。
その乙女な姿がまた愛おしい。
「どこか行きたい場所はあるか?」
「……貴方たちの寮」
「OK、エッチだな」
「違いますよ!?」
小ボケをかましつつ、寮へ向かうことにした。
今日はメディたちも仕事でいない。三人で過ごせる、最高の時間だ。
「相変わらずやらしいですわね。まだお昼ですよ?」
「昼だろうが夜だろうが、したくなったらするだろ?」
「まあ、それもそうですわね」
「納得しないでください!! レア・スカーレットっ!!」
そんな掛け合いをしながら、俺たちは寮へ向かった。
◇◇◇
「……相変わらず広いですね」
「Sクラスだからな。ナターシアもそうだろ?」
「私は一人暮らしですから……ここまで広いと持て余します」
ナターシアは部屋をゆっくりと見て回り、ふう、と息を吐いてソファに腰掛けると、全身の力を抜いた。
「よいしょっと」
「お邪魔しますわ♪」
「ちょっ……まだ何も……」
「俺が抱きしめたいんだ。嫌か?」
「嫌……じゃないです……」
小さく頷くのを確認して、俺は正面からナターシアを抱きしめる。
そして後ろからレアもそっと抱き寄せた。
「……溶けそう……」
ナターシアは俺に抱き返す力もなく、ただ体温と鼓動だけが伝わってくる。
呼吸が早まり、顔は熱くなり、過剰な幸福に身体が震えていく。
「っ……あ……」
特別なことをしているわけでもないのに、ナターシアはか細く甘い声を漏らした。
その反応に、レアと目を合わせると、彼女も悪戯っぽく微笑む。
「「エッチ?」」
「っ……耳元で囁くの……だめ……」
両耳に同時に囁かれ、ナターシアの身体がびくんと跳ねる。
「……ナターシアって俺より変態だよな」
「貴方ほどではありませんわ。ただ……少しアブノーマルなだけです」
「ああ、お漏らしとか3Pとか……」
「お漏らしは趣味じゃありません……!!」
――まあ、あの夜の出来事は俺の中でも驚きだったが。
「ですが、その……」
「ん?」
「ありがとうございます……」
照れながらの、小さな感謝。
「貴方たち破教委員会の支援がなければ、風紀委員会は本当に終わっていました」
「気にするな。風紀委員会との関わりは俺たちにもメリットがある」
「微々たるものですよ? 労力に見合っているとは思えませんが……」
確かにクセの強い風紀委員たちの支持を得るのは大変だった。
結果を見せなければ首を縦に振らないし、最初は強引に動かしていたのに、気づけば自然と協力し合う関係になっていた。
「でさー、今日は……」
「わかるー……超しんどい……」
ふと、窓の外から女子生徒たちの声が聞こえた。
ナターシアから少し離れて覗いてみると、微笑ましい光景が広がっていた。
「風紀委員と破教委員が仲良く話してるのか……面白いな」
「えっ? うちの子たちがそこまで心を許すなんて……」
ここまで効果的だとは思わなかった。
交流ってのは大事だ。最初は色々あったが、今ではいい関係になってきた。
「今後もよろしく頼むぜ、風紀委員長様」
「ええ……こちらこそです」
ナターシアも窓から覗き込み、ふふっと微笑む。
「……あれ?」
「ん?」
突然ナターシアの表情が険しくなる。
俺も視線の先を追うと――
「……デストレーダーか?」
「はいっ!?」
黒ずくめの男たちが、破教委員会の生徒を人気のない路地に追い込んでいた。
懐で鉱石を光らせ、何かよからぬことをしている。
……また厄介事を。
「行くぞ」
「ええ」
「はぁ……ゆっくり休ませてほしいです……」
俺たちは急ぎ足で外へ向かう。
さっさと片付けて、デートの続きをしよう。
――正直、まだ全然イチャつき足りないんだ。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m




