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名無しの貧乏貴族Aに転生した俺、原作で処される悪役ヒロイン達に救済ルートを与えたい  作者: 早乙女らいか
6章 モブキャラ、目をつけられる

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第102話 モブキャラ、緊張に包まれる

「これが詳細だよ」


 机の上に一枚の紙が置かれた。

 ナターシアは恐る恐る手を伸ばし、紙に書かれた内容を上から下までじっくり読む。

 俺も横から覗くようにして内容を把握した。


「さ、三分の一削減……ですか……」

「成果も良くないしね。最近は脱退者も出ているようだし、ちょうどいいだろう?」

「しかし……これでは風紀委員会の運営が……」


 人が大幅に減ったわけではない。

 せいぜいチラホラと脱退者が出ている程度だと、ナターシアは言っていた。

 とはいえ、学園内で実質No.2の大組織。今の予算では到底運営できない。


「も、もう一度再検討していただくことは……」


 本気で困り果てた表情のナターシアだったが――


「これは決定事項だ。結果を残せない君たちが悪い。ただそれだけ」

「っ……!!」


 ミホークがわずかに不機嫌そうにナターシアを見た途端、彼女の全身が固まった。


「すみ……ませんでした……」


 震える身体を必死に動かし、深々と頭を下げる。

 その姿はまるで蛇に睨まれた蛙のようだった。


「ごめんね。変な空気になってしまった」

「大事な話で張りつくことはよくある。俺も部下がやらかす度に……お前みたいな顔をする」

「ふふっ……君も苦労してるみたいだね」


 ナターシアがここまで萎縮するとは。

 やはりミホークはただ者ではない。これで副委員長ですらないのだから驚きだ。


「圧倒的ですわね……」

「あぁ、気を引き締めた方がよさそうだ」


 生徒会を相手にする危険性が、ようやく身に染みてきた。

 実力も規模も、俺たちはまだまだ及ばない。


「さてと、次は君たちの番だ」


 テーブルにもう一枚の紙が置かれる。

 俺はそれを取り上げ、レアと共に目を通した。


「……予算アップ?」

「へっ?」


 呟いた瞬間、生気を失っていたナターシアが勢いよく顔を上げた。


「加えて設備投資まで……随分と気前がいいですわね」

「ま、待ってください。破教委員会が予算アップ? 聖教委員会の頃は予算が増えることなんて……」


 エルファリア教との関係を断ったとはいえ、未だに破教委員会を宗教組織だと思っている者は多い。

 反体制側でトラブルも多いウチが予算アップとは……俺自身も驚いている。


「君たちのおかげで下級クラスの質が格段に良くなったからね。あの圧倒的な格差を埋めた功績は大きい」

「下級クラスの質……まさかフィールドロワイヤルのことか?」


 ミホークがナターシアにチラッと視線を向けた瞬間、彼女はビクッと肩を震わせて俯いた。


「フィールドロワイヤルもそうだし、破教委員会が下級クラスの子たちの受け皿になっているのも大きい。あと、良くも悪くも活発だからね」

「……動きすぎるのも良くないけどな」


 ウチの面々ももう少し自重してほしい。他委員会との争いはまだしも、穏便に済ませる努力くらいはしてほしい。

 ……俺自身が派手に聖教委員会を乗っ取ったせいで、あまり強く言えないが。


「君たちがNo.2の委員会になる日も近いだろうね……というか、風紀委員会には心底ガッカリしている」


 ミホークが立ち上がる。

 笑みを浮かべたまま、ナターシアの周囲をゆっくり徘徊し、全身をじっくりとなぞるように眺め回した。


 不快で不可解な行動を、ナターシアはただ黙って耐えることしかできなかった。


「聖教委員会を無所属の一年に潰されるとは……しっかり管理してもらわないと困るんだよ」


 そしてミホークの笑みが消え――


「あああああああああっ!!」

「「っ!?」」


 真っ赤に熱した針が、突然ナターシアの胸元へ突き刺さった。


「あづっ……あう゛っ……あああっ……!!」

「今の一瞬で仕掛けましたの……!?」

「おいおい、いくら何でもやりすぎだろ……!!」


 ナターシアは胸元を押さえ、床で苦しみもがく。

 俺は慌てて針を抜こうと手を伸ばした。


 ジュッ!!


「あっつ!!」


 黒い煙と焼ける音。熱した針を突き立てたらしい。えぐいことをする。

 俺は魔力を集中し、手を強化して再び針を掴む。

 ゆっくり抜いたあと、刺さった部分へ魔力を流し込んだ。


「気にしなくていいよ。彼女には現実を教えないといけないからさ」

「悪趣味な体罰が現実だってか?」

「教育と言って欲しいね。我々も慈善事業ではないんだ」


 俺たちも組織を維持するために様々な事業をしている。ミホークの言い分も理解できなくはないが――


(見下してやがるな……)


 生徒会以外は都合のいいコマ。

 予算の増減も、彼らにとっては結果という名の道具だ。


 俺たちを未来のNo.2と言ったのもそうだ。

 彼らは、自分たちが絶対的な頂点であることを疑いもしない。


「でしたら貴方に教育の才能はないわね」

「ほう?」

「ムチだけでは人は育ちませんわ。たまにはあまーい飴も与えませんと……ね」


 レアは吐息まじりに囁きながら、そっと俺とナターシアの頬へ軽くキスを落とした。


「レア・スカーレット……やっぱり君は面白いね」

「うふふ♪」


 張り詰めた空気の中でも自分を貫くその姿に、ミホークも感心したようだった。


「俺も面白いことを考えていたんだ」

「へぇ?」


 空いた風穴に声を差し込むように、俺も続ける。


「増えた予算で、風紀委員会を支援しようと思ってな」


 その一言で、ミホークの笑みがまた消えた。

 俺たちが簡単に屈すると思うなよ。

面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。

m(_ _)m

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