第101話 モブキャラ、呼び出される
「生徒会に呼ばれたぁ!?」
「何でも大事な話があるらしいけど……そこまで驚くことか?」
「当たり前ですよ!!」
実務作業中だったナターシアは、驚きのあまり手元のペンを落とした。
風紀委員会より上の組織だとは知っていたが……どうやら想像以上らしい。
「生徒会は格が違います。私ですら何も言えないのに……」
「そんなに偉いのか」
「この学園の運営を任されてるのよ? 地位も格も一級品よ」
学生が運営しているというのも、なかなか凄い話だ。
予算は学園が出しているのだろうか。だとすれば、相当派手な教育方針だと言える。
「というか学園長は何をしてるんだ? もしかしてお飾り?」
「あの方は学園の一番の支援者です。過去の偉業や研究成果に加え、グランヴァル王族の直系なので莫大な資金があります」
「若者に資産をつぎ込むとは……中々の変わり者ですわね」
「それが彼のやり方です。多少強引でも、優秀な人材を輩出したという実績ができますから」
その結果が格差社会を生み出しているわけだが。
数打ちゃ当たる、と言えば聞こえはいいが、もう少し上手くやれそうな気もする。
俺だったらろくでなしの生徒に金は使わず、こうして近くに来てくれる美少女たちにつぎ込むのに……
「あ、あの……」
「ん?」
「二人から見られると、その……」
ナターシアは時々手を止めては気まずそうに顔を逸らし、こちらを見る度に頬を赤くしていた。
――あぁ、そういうことか。
「どうした? もっと見てもいいんだぞ?」
「貴方に好かれて嫌なことなんてありませんわ♪」
「わ、分かっててやってますよね!!」
どうやらナターシアは“俺たち”に惚れてしまったらしい。
俺だけでなくレアにまでベタ惚れとは……あの夜に披露したテクニックが良かったのだろうか。
「そんな事言われても、明日の呼び出しにはお前も来るんだぞ?」
「はい!?」
「まだ聞いていませんでしたの? 生徒会の招集は、風紀委員会と破教委員会が対象ですわ」
ナターシアは慌てて書類の山をかきわけ、目的の封筒を見つけると中身を確認する。
あの封筒は俺たちにも届いていたものだ。
内容は先程話した通り。
ただ、ナターシアは仕事に追われて読む暇がなかったらしい。
読み終えると、彼女は深いため息をつきながらテーブルに頭を伏せた。
「……最悪ですね」
「内容、書いてあったか?」
「生徒会からの呼び出しなんて、大体面倒な事ばかりです。あああああ……早く寮に帰りたい……」
ナターシアがここまで言い切るなんて、どれほど負担を強いられているんだ。
生徒会の傘下組織だけあって、色々こき使われているのだろう。
「終わったら三人でデートしようぜ」
「へっ」
「あら、いいですわね。真ん中にナターシアを置いて、両手をわたくし達がつないで……」
「あわ……あわわわわ……!!」
一気に顔を赤くして飛び上がるナターシア。
幸福に耐えきれないのか、目には涙すら浮かんでいる。
「ナターシアってほんと可愛いよな」
「えぇ。ここまで素直にデレデレしてくれるなんて、愛しがいがありますわ♪」
「わ、私で遊ばないでください!! ついでにデレデレなんてしてませんからーーーー!!」
と言いつつ、顔はしっかりニヤけていた。
俺も生徒会に会うのは変なプレッシャーがあったが、デートのために頑張るとしよう。
◇◇◇
「どうぞこちらへ」
翌日、指定された場所へ向かうと、そこにはミホークの姿があった。
俺のフィールドロワイヤルの視察に来ていた、生徒会のメンバーだ。まさかここで会うとは。
「応対もこなすんですね」
「生徒会だからね。あと、今更敬語なんて使わなくていいよ」
「……わかった。これでいいか?」
「ふふ、素直でよろしい」
相変わらず不思議な雰囲気をまとっている。
張り付いたような笑顔と柔らかい物腰――だがその所作の一つ一つには、一切の隙がない。
例えば俺が少しでも妙な動きをすれば、一瞬で喉元に刃を突き立てられそうな気配。
こいつ、一体どれほど強いんだ?
「それとナターシアちゃん。久しぶりだね」
「い、いえっ!! その、ミホーク様も相変わらずで……」
ナターシアは肩を震わせながらぎこちなく頭を下げた。
ここまで怯える姿も珍しい。
「……そんなに偉いのか?」
「わたくし達とは立場が違いますでしょ?」
「あぁ、なるほど」
まるで下請けが依頼元の社員を迎えるようなものだ。
緊張するのも無理はない。
ミホークが小部屋のドアを開けて手招きし、俺たちは中へ入る。
「うおっ……」
ここが応接室か。目に入る家具はどれも高級品に見える。
ソファに軽くもたれただけで、全身がふわりと包み込まれるような感覚があった。
俺たちの寮よりよほど良いものを使っている……金があるな。
「さて、本題に入ろうか」
対面のソファにミホークが腰を下ろし、会談が始まった。
「まずはナターシアちゃん。君たち風紀委員会の予算を減らすことが決まった」
「っ!!」
開口一番、容赦のない本題が突きつけられる。
空気が一瞬で張り詰め、室内に静寂が満ちた。
ナターシアは目を見開いたまま、その言葉を黙って受け止めていた。
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