3【ロックス】
三日が経つのはあっという間。
見世物にすることはないと処刑は秘密裏に執行される。
手は縛ったまま、それぞれの縄を看守が持つ。
立ち止まることは許されない。
逃げようものなら、今度は手荒い制圧ではなく剣が体を貫くこととなる。
牢獄の地下にも処刑台はあり、階段を下りて行く。
今日ばかりはジーク殿下も立ち会い、護衛に守られていた。
処刑台といっても手の込んだ造りではない。
低い天井からロープが吊るされ、その下に台があるだけ。
心のどこかでは、処刑は行われず辺境にでも逃がしてもらえると信じていたアレクサンダーの顔色は過去最高に青い。
息遣いも荒く、大量の汗が流れる。
助けを求める眼差しは切実。
ローラも同様。
目の前の死を取り除けるのは僕だけ。
一度でも本気で姉さんに謝っていれば、考えてあげても良かったのに。
考えるだけで、やめはしないけど。
オリビアだけは吊るされたロープから目を逸らさない。
台の上に乗せられ、ロープが首にかけられる。
あとは台をズラすだけ。
「待て!わかった!ジュリアンにしたことは認める!!誠心誠意、謝罪もする!だから!!」
「今更だな。もっと早くにそうするべきだったのに」
謝ったところで僕は、許さないが。
姉さんは優しいから、上辺だけの謝罪でも許してしまう。
あんなにも酷いことをされたのに。
反省しているなら、と。
優しさは美点ではあるが、時に汚点。
コイツらを許してしまえば調子に乗る。
同じことを繰り返す。
反省なんてしていないから、悪いことをした自覚がないんだ。
「幽閉されている俺達が死んだら困るんじゃないのか!?」
「そうよ!!」
「終身刑に耐え切れなくなって、自ら死を選ぶ。よくあることだ」
実際、そういう罪人は何人もいた。
終身刑の事実は伏せたまま死んだことにすれば、誰もが納得する終わり方。
あんな無神経な連中が死ぬのか?と疑問に思う者もいるかもしれない。
あくまでも思うだけ。
姉さんは誠実で優しい人。
僕は成り上がり貴族ではあるが、ルールは無視しない。
終身刑の判決が言い渡された罪人を手にかける愚か者でないと、皆が知ってくれている。
姉さんのため、スレット伯爵家のため、好青年を演じたおかげで人望は集まった。
所詮は平民だと見下す人もいない。
最初はただ本当に家族のために頑張っていたが、周りから認められることが嬉しくて。
頑張って良かったと思うようになったんだ。
そう、つまりは。殺されたと噂が流れたところで僕達が疑われることはないということ。
ヴォラン様も……まぁ大丈夫だろう。
表舞台に出るようになって、たった数日で貴族の心を掴んでしまう人徳者。
──同じ公爵家で、こうも人間性に違いが出るものなのか。
「最後に言い残すことはないか」
「呪ってやるからな!!たかが平民が高貴なこの俺をこんな目に遭わせやがって!!」
「あんたなんて幸せになる資格もないわ!この人殺し!!」
想定内の恨み言なので覚えておく価値はない。
明日には忘れよう。
「お前は?ないなら執行するが」
「お母さんに伝えて……くれますか」
「一言だけなら」
「今までごめんなさい。産んでくれてありがとう、と」
二言だな。まぁいいか。それくらいは。
僕の心はそこまで狭くない。
縁を切られたとはいえ、最後の最後に家族で在ったことを思い出したオリビアはまだ人間味がある。
「必ずお前を呪ってやる!呪い殺してやるからな!!」
「楽しみに待ってるよ」
台を蹴り飛ばせば足が宙に浮く。
「本当に……ごめんなさい」
独り言のように呟かれた謝罪は僕の耳に届くも、情けをかけることなく二人と同じように台を蹴った。
「ぐっ、ぁっが……」
激しくもがき苦しみ、ロープを切ろうと必死に体を揺らす。
手は込んでいないが頑丈な造りになっているため、壊れる心配はない。
死刑が最後まで執行されるように、どんな巨大な人間でも耐えられるようになっている。
細身の三人なら、どんなに暴れても無意味。
「(ロックス。君は恐ろしい男だな)」
瞬きはしない。
命尽きるその瞬間をしっかりと目に焼き付ける。
僕はそのためにここに来た。
恐怖した表情、恨みある瞳、薄れていく呼吸。
コイツらはこんなにも苦しいことを姉さんに強いていた。
一人で孤独に、命を絶つように。
完全に息絶え、脈を確認した見守り人が大きく頷く。
死んだという合図。
死んだ罪人は焼かれて骨になる。
骨はそのまま他の罪人達と同じ穴の中に捨てられて終わり。
供養などはされない。
あるかどうかもわからない地獄に落ち、罪を悔い改めた者だけが神に救いの手を差し伸べられると信じられている。
「ジーク殿下。この度は本当にありがとうございました」
「大切な友の頼みだ。なぜ断れる」
「次に会うのは僕の結婚式ですね」
「はは、そうだな」
ジーク殿下と知り合えただけでなく、友人になれたのは奇跡。
贔屓してもらえるほどに仲良くなれたおかげで上手く事が運べた。
もう一日、泊まっていけばいいと言われたが、僕は今から国に戻りギルム様に会わなくてはならないのだ。
ある一定の回数、謝罪のない手紙が送られるとそれまで。
二度と手紙を出すことは許可されない。
言い訳ばかりが綴られた手紙はギルム様も目にしているため、話し合いはスムーズに行われる。
姉さんの幸せな未来に、姉さんを傷つけた連中と記憶は必要ないんだ。
流れる月日と共に忘れていってくれるのが一番。
時間はかかりそうだけど。
外に出ると、朝はあんなに晴れていたのに雨が降っていた。
馬車が走れない大雨ではないので、そのまま自国に向かう。
行きも帰りも雨だなんて、実は僕って雨男だったのか。
姉さんの結婚式は降らないで欲しいが、天気は人間が左右出来るものではないので、ただ祈るしかない。




