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2【ロックス】

 「おい看守!ボサッとしていないで、さっさと私を出せ!」

 「そうよ!無実の人間を捕まえて恥ずかしくないの!?」


 翌朝。様子を見に行けば朝から元気なことで、二人は喚いていた。


 まぁ確かに。無実ではあるな。

 ここには収監されていることに関しては。


 処刑まで特にすることがないので、朝の日課として三人の様子を見に来ることにした。


 昼はジーク殿下から食事に誘われているが、公務をサボる口実にはなりたくない。


 そうでなくても今回の一件で、時間や人員を割いてしまったんだ。


 今の僕に出来るジーク殿下への手伝いは、何も邪魔をしないことを


 ──断ったらものすごくショックを受けていたな。


 側近に引きずられながら連れて行かれていたけど、責任から逃げるような人でもないし真面目に取り組むはず。


 逃げたって僕には関係ないけど。


 「すみません。ちょっと」


 朝食を持ってきた看守を止めた。


 朝早くから僕がこんな所にいることに驚きながらも、ジーク殿下から色々と聞いているのかすぐに現状を受け入れる。


 色々と察してくれるのも助かるんだよな。


 適当に顔を会わせる予定だったが、面白そうだからこのまま見物するか。


 何を言われても右から左に聞き流す看守のスキルに拍手を送りたい。


 「もしも出してくれるなら。この女を好きにしていいぞ」


 醜く笑いオリビアを指差した。


 今のアレクサンダーには過去の栄光は残っていない。


 化けの皮が剥がれたかのように本性を表す。


 侍女だったローラも便乗する。


 「この女は性格は最悪だが、体はそこそこ良い。二人で存分に楽しめるぞ」


 当の本人は至って冷静。

 勝手に体を差し出されそうになっているというのに。


 二人のように喚き散らすことはなく、姿勢を崩さない。


 「と、言っているが?」


 看守が問う。オリビアの意志を確かめるように。


 「私は……構わないわ」


 受け入れた。


 因果応報。


 姉さんにした非道が自分に返ってきたと思っているのか。


 「ははは!さぁ早く!ここから出せ!!どうせ死刑なんだ、存分に痛めつけてやれ!!」


 看守が了承したみたいな感じで喜び、出られることを確信していた。


 微動だにしないオリビアを邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。


 「はぁ。あのな、そんなバカな提案に乗るバカがいるわけないだろ」


 勘違い男は上機嫌から一転。醜悪な顔を隠さない。


 笑いたくなるのを我慢しても、公爵して厳しく育てられたアレクサンダーの頭がこんなにも救いようがないことに声を出して笑いたくなる。


 人格や品格は皆無。


 自分だけが助かろうとする卑怯者の精神。


 甘やかされていたわけではないだろうに。


 よくもまぁ、こんな自分勝手な人間になったものだ。


 リフォルド公爵もさぞ、嘆いているに違いない。


 「そんなことをしたって、出られるわけがない」


 看守から食事を受け取り、代わりに持って行くと鉄格子の中から僕を睨む。


 「お前達の罪は王族暗殺未遂。極刑は免れない」

 「ふ、ふざけないで!!」

 「ふざけていない。お前達の処刑方法も、もう決まった」


 鉄格子の間からパンを投げ入れ、目を覚まさせるように顔に水をかける。


 「首吊りだ。好きなんだろう?」


 民衆の前で首をはねる予定を、僕が無理を言って変えてもらった。


 元々、この処刑自体がでっち上げなので、方法は好きにしていいと許しを得ている。


 事情を知っているのはごく一部で、知らない者からは反対の声が上がった。


 彼らを黙らせたのはジーク殿下の一言(うそ)


 僕がいなければジーク殿下は死んでいた。僕は恩人である。


 一瞬にして周りは僕に感謝をしたが、何もしていないのだ。罪悪感は膨らんでいき、いたたまれなくなった。


 ──好きにさせてくれるのは本当に有難いが。


 奴らが罪を認めようが認めまいが、僕のすべきことは一つ。


 姉さんが受けた痛みや苦しみ、そして……。されてきたことは全て返す。


 「あと二日。楽しかった頃の記憶でも思い出すといい」


 せっかく隣国にまで足を運んだのだから、婚約者に会いに行こう。


 彼女の結婚相手が僕なんかでいいのかと不安しかなかったが、僕がいいと言ってくれた彼女に惹かれつつある。


 「待って!」


 初めてオリビアが声を荒らげた。


 ──この期に及んで死を恐れるか?


 目の前に差し迫ってきた死に心境が変わるなんてよくあること。


 軽蔑するつもりはない。


 人間とはそういうものだから。


 ただもし、僕が同じ立場にいたらみっともない醜態は晒さずに、甘んじて罰を受けるだけ。


 「死にゆく私に一つだけ教えて欲しいことが」

 「答えられることなら」

 「今だけではなくテミスの塔でも。私がジュリアンさんにした仕打ちと、同じことをしないのはなぜ」


 純粋な疑問に聞こえた。


 テミスの塔に幽閉されていたときは、罪を認めず悪いのは姉さんだと考えを改めることもなく。


 それが急に改心しては、なぜ非道なことをしないのかと問う始末。


 「それがお前にとって罰にならないからだ」


 それに。罪人とはいえ人を襲わせるほど、僕は外道ではない。


 僕の言いたいことが伝わったのか、美しい姿勢を保ったまま額を床に擦り付けた。


 言葉はない。何を言っていいのかわからないのだろう。


 感謝することではないが、姉さんへの謝罪を口にすることさえもおこがましい。


 謝るくらいなら最初から何もしなければ良かったんだ。


 傷ついた心が簡単に癒えることはない。


 大切な人が傍にいて、長い時間をかけてゆっくりと修復されていく。

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