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22【ヴォラン】

 ジュリアンを助けたくて、開いた誕生日パーティー。


 助けられたはずなのに……。


 全てが遅かったんだと絶望した。


 ロックスが気付いた異変。それは……。


 警備隊により連れて行かれた罪人。集まってくれた多くの貴族には丁寧な謝罪をして、パーティーをお開きにした。


 「ロックス。さっきはどうしたんだ」


 貴族らしい振る舞いを常に心掛けているロックスにしては野蛮な行為。


 ジュリアンを別室で休ませたことに感謝しながらも、抑えていた怒りにその身を委ねる。


 「姉さんは多分……暴漢に襲われた」


 告げられた内容は目の前を真っ暗にするには充分。


 言葉の意味を理解するのに時間を費やし、ほとんど無意識にフェイの胸ぐらを掴んでいた。


 真実のみを扱う優れた情報屋。


 が、導き出せるのはあくまでも数多の情報を知り得たときのみ。


 事実、フェイは突発的な犯罪に関しては事前に食い止めたことは一度もない。


 当然だ。そういう奴らはそもそも、犯罪に手を染めるつもりなんてなかったのだから。


 事前の情報さえあればフェイは私に伝えるし、私もジュリアンを屋敷から助け出していた。


 怒りを向ける相手はフェイではない。それだけは事実。


 「公爵様」


 私を呼ぶフェイの瞳孔は見開かれていた。


 感情など生まれたときに捨ててきたと笑っていた男が、怒りと憎しみに包まれている。


 「暴漢は首だけ差し上げれば構いませんか?」

 「何?」

 「申し訳ありませんが、生きたままお渡しするのは難しそうです」


 暴漢は殺すと断言したことに関して触れるつもりはない。


 ロックスが反応したのは公爵ではなく女のほう。主犯はそっち。問題は公爵が関与しているかどうか。


 ──尋問に立ち会う必要があるな。


 あの女が手駒として使える男は貴族ではなく平民。リフォルド公爵家の金でも使って雇ったのだろう。


 私の返事すら待つことなくフェイは会場を後にした。


 すぐに騎士を追わせたが、簡単に撒かれるかもしれない。


 誰よりも平民の街に詳しく熟知している情報屋ならば容易いこと。


 「ヴォラン様は姉さんの傍にいてあげて下さい。尋問には俺が行きます」

 「フィスト。同行しろ」


 ロックスだけでは門前払いを食らう可能性がある。


 被害者の家族は極力、罪人に近づくことが許されていない。恨みから殺してしまうかもしれないからだ。


 今のロックスにはその危うさがある。


 私の心配を汲み取りフィストが先を行く。


 別室で休んでいたジュリアンは緊張が解け、用意した焼き菓子を口にしていた。


 部屋に入れば貴族らしく上下関係を作ろうとする。


 少なくともジュリアンと対等でいたかったため慌てて止めた。


 私には礼儀を尽くされる理由などない。


 「ジュリアン。すまない」

 「ヴォ、ヴォラン様!?頭を上げて下さい」

 「身分を偽り、騙していたことは許されることではない」


 全ては自分のため。


 公爵家として縁談を持ちかける手もあったが、ジュリアンの意志を無視する結婚はしたくなかった。


 好きな人にはただ……幸せでいて欲しい。

 その幸せが私ではない別の誰かから与えられるものだとしても、笑顔で祝福しただろう。


 ジュリアンが選んだ幸せ(みらい)を否定などしたくなかったから。


 「君が好きだから……。身分なんかのせいで距離を取られたくなかったんだ」


 想いを告げた。


 ずっと秘めておくつもりだったのに。


 くそ。心臓がうるさい。


 驚きとは別に自惚れたくなるような表情を浮かべるジュリアンに期待したかった。


 でも、期待は崩れるどころか大きな勘違いをされていると知ってしまう。


 私には婚約者はいないし、縁談自体も断り続けてきた。


 政略結婚と割り切るにはあまりにも、私の中でジュリアンの存在が大きく相手に失礼だったからだ。


 叶わない恋を胸に抱き、目の前の妻を愛することなく別の女性を想い続ける。


 幸せを願いながらも、幸せにするのは自分でないと後悔する日々。


 不誠実なまま結婚して、イタズラに相手を傷つける真似をしたくはない。


 ナーシャのことが誤解であると説明する前に、私の勘違いであって欲しくないことをジュリアンが不意に口にした。


 「ちょ、ちょっと待って。自惚れじゃなかったら、まるで私のことが好きだと言ってるように聞こえるのだが……?」

 「うん。アレクサンダー様と結婚して、好きになった理由を考えたとき、ようやくわかったの。私はランが好きなんだって」


 泣きそうになった。嬉しすぎて。


 手を取って抱きしめたい衝動を抑える。


 「ジュリアン。聞いて。私に婚約者はいない。君が見たのはイトコのナーシャ。好きな人がいて、逆プロポーズをしたいからどんな風に言ったらいいか見本を見せろとせがまれたんだ」

 「じゃ、じゃあ、その……私の勘違いってこと?」

 「そうなるね。だけど。勘違いをさせることをしたのは私だ。本当にすまない」


 ナーシャは幼馴染みの侯爵子息のことが好きで、他の誰でもない自分と未来を築いて欲しいと常々言っていた。


 話を聞く限りではその彼もナーシャのことが好きだが、どうも引っ込み思案というか。


 自分に自信がない子だった。


 物事をハッキリと伝えるナーシャとは対照的。


 好きな子を前にして口下手になってしまうナーシャは藁にもすがる思いで私にアドバイスを貰いに来た。

 わざわざ平民の街に出向いてまで。


 ──屋敷で待っていたらいいものを。


 一日、一秒でも速く想いを伝えたくてフィストから私の居場所を聞き出した。


 恋愛経験のない、一方的な片想い中の私に聞かれても満足のいく答えを出せるかどうか。


 あまりにも必死に、真剣だったから。


 遠回しな言い回しはせず、ストレートに伝えるようにアドバイスをした。


 その結果。上手くいったらしく、二人は無事に婚約。


 お礼の手紙が日に何度も届くようになったのが懐かしい。


 「ジュリアン。私はずっと、君だけを好きで愛している。もしも許されるなら、隣に立って今度こそ君を守っていきたい」


 愛を伝えたいのはいつだって一人だけ。


 困ったように俯いてしまうジュリアンの頬に伸ばした手は寸前で止まる。


 怖い思いをしたジュリアンに、不用意に触れるわけにはいかない。


 「待つよ、ジュリアン。気持ちの整理がつくまで。何年でも何十年でも」

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