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　「大事な話がある。すぐに来い」

　王都の公爵家に着いた。

　馬車から降りたアレクサンダー様は冷たい声で言った。

　エスコートもなければ、歩幅を合わせてもくれないので背中はどんどんと遠ざかる。必死に追いかけていると不意に立ち止まり

　「そうやって私の気を引こうとしているのか？」

　「え？」

　どういう意味なのか。聞けないまま、また歩き出す。これみよがしの大きなため息をついて。

　案内……到着したのは恐らく執務室。そこには、腰まである長い薄い金色の髪を風になびかせる女性がいた。青い瞳はとても綺麗。

　──アレクサンダー様のお姉様だろうか？

　それはない。アレクサンダー様に兄弟はいなかった。唯一の後継者。

　「彼女はオリビア。私の妻だ」

　「アレクサンダー様？妻は私のはずでは」

　「正確的に言えば、お前のせいで結婚することが出来なくなった私が愛する者、だ」

　わからない。本当に。何を言っているのか。

　美しい瞳に侮蔑の色が表れる。髪を引っ張られ、アレクサンダー様は怒りの表情を浮かべていた。

　「オリビアに見覚えはないか？」

　「あ、ありません」

　「ハッ。あくまでもシラを切るつもりか。まぁいい」

　引っ張る力が強くなる。皮膚まで剥げてしまいそうな力。

　「お前は私の妻になるためだけに、オリビアの家を破産させ、暴漢に襲わせたな」

　「な、何を！？」

　「オリビアは男爵家の生まれではあるが、実家はあまり裕福ではない。簡単に散財させられただろうな」

　アレクサンダー様が何を言っているのか、本当にわからない。オリビア様は今の状況を楽しんでいるのか、僅かに口元が緩む。

　「ここまで性根の腐った女は初めてだ」

　「アレクサンダー様」

　「お前のような穢らわしい女が私の名を口にするな！！」

　大きな逞しい手は、バチンと音を響かせながら私の頬を叩いた。加減をしていない力は脳を揺らす。痛みは広がりすぐに赤くなる。倒れなかったのはアレクサンダー様に髪を掴まれていたから。

　「アレク！大丈夫！？私のために貴方が手を怪我したら大変だわ！！」

　心配するように駆け寄ってきたオリビア様は私を突き飛ばす。このときには既にアレクサンダー様は私から手を離してしたので、みっともなく尻もちをつく。

　叩かれた私なんて眼中にないかのように、オリビア様はアレクサンダー様の手をさする。

　その姿は長年愛し合った恋人のようで。

　私には何が起きているのかわからないけど、アレクサンダー様が愛しているのはオリビア様で、なぜか私のことを恨み憎んでいる。

　実家が散財したということは、オリビア様はもう貴族ではないのだろう。借金で首が回らなくなり、全てを売ることでどうにか完済。

そのため、貴族ではなくなったのだ。

私と結婚したはずの夫は、私ではない別の女性を抱きしめては、唇を重ねた。

まるで私に見せつけるかのように。

私達の結婚に愛はなかった。それどころか、覚えのない罪で恨み憎まれている。

オリビア様の存在を今日初めて知った私が一体何をしたというのか。

ずっとお慕いしていたアレクサンダー様からの求婚は天にも昇る気持ち。紛れもなく私の人生で最高潮の幸せ。

今ではもう絶望の谷底へと真っ逆さま。

目の前が真っ暗になって、気付いたら私は薄暗い部屋に横たわっていた。