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17【ロックス】

 わかるよ。僕は姉さんの弟だから。


 無意識に恐怖したこと。


 今まで普通だったのに、新たな証人を連れて来た途端にだ。


 恐怖を悟られないよう気丈に振る舞う姉さんはまさに貴族令嬢で、僕が手本にした貴族の姿。


 フツフツと沸き上がる怒りの矛先はフェイに向けていた。


 ──優れた情報屋なら未然に防げたんじゃないのか!!


 わかっている。この男は実際に見聞きした情報から真実を見つけ出す能力に長けているだけ。


 例えば。誰にも話すことなく突発的に思いついたのだとしたら、結局のところフェイに情報が回ってくるのは事が起きた後。


 わかっているんだ。今ここで、責めても意味がないことくらい。


 でも!じゃあ姉さんが受けた痛みや苦しみはどうなる?


 屋敷で何があったのか。僕達がそれを知るのは早くても今日の夜になるだろう。


 ヴォラン様がどんな手を使ってでも連中から真実を吐き出させるから。


 「オリビア……。すまない。その嘘は……信じてあげられない」


 恋は盲目。愛に溺れていた公爵は現実と向き合い始めた。


 姉さんが綺麗だと褒めていた漆黒の瞳は許しを乞うかのように情けなく揺れている。


 謝罪の一つもないどころか、言い訳さえもしない。黙っていたら許されると勘違いするその姿には失望した。


 僕が知っている公爵位を持つその人は聡明で、どちらか一方だけを信じるなんて偏った考えをしない。


 平民の血を引く貴族に成り上がった僕如きが言えることではないけども。


 アレクサンダー・リフォルドは公爵に相応しくはない。


 愛のためとは聞こえはいいが、愛のためなら何をしてもいいと思う考えこそが間違っていると気付くこともなく。


 「私はアレクサンダー様をお慕いしていないから、相手にされなくても、今までと同じように無視してくれて構わない」


 ハッキリと告げられる姉さんの強い意志。


 一番驚いているのはヴォラン様。


 もちろん僕も驚いてはいる。だってあんなにも、愛おしく好きだと言ったのは姉さんなんだよ。


 恋する乙女だったんだ。


 そんな姉さんがリフォルド公爵を好きじゃないと言った。


 嘘のはずがない。


 「貴女、そんなにアレク以外の……」

 「おい、黙れ」


 その先は禁句。これからの姉さんの未来を黒くする。


 醜聞として噂され、噂はどんどんと尾ヒレを付けて元の形を失う。


 いずれ、悪意を持って真実は捻じ曲げられて、姉さんが不貞を働いたと国民の好奇心を刺激する。


 そんなの許さない。


 姉さんを傷つけただけではなく、未来まで壊そうとするなんて。


 「姉さんの尊厳を踏み躙っただけでなく、名誉も傷つけるつもりか」

 「ひっ……!わ、私は……」

 「そのことをここで言うなんて、絶対に許さない。口外してみろ。お前を殺してやる」


 これは脅しじゃない。


 平民の世界に落ちてきたからこそ僕の怒りは伝わるし、一言でも発しようものなら僕は躊躇いなくこの女を殺せる。


 それはきっと、彼らの言うところの卑しい血が流れているから。


 大切な人のためなら、喜んでこの手を血で染める覚悟は持ち合わせている。

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