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 「次は……そうだな。その女の嘘を暴くとしよう」


 標的となったオリビア。尋常じゃないほどに顔色が悪い。


 「まずは公爵。君はなぜ、彼女の家が没落したか知っているか」

 「借金だ」

 「なぜ借金を作ったかは」

 「そこの女狐が!!」

 「そればかりだな、君は」


 飽きたと言わんばかりのため息。


 「証拠は?見せてくれないか」

 「オリビアがそう言った!」

 「ふっ……ははは!!」


 突然、笑い出す。目には涙を浮かべて。

 あれは本当に面白いときだ。


 普段は冷静で物静かなのに、面白いことがあるとああやって笑うのが癖。


 「あぁ、すまない。あまりにもバカバカしくて」


 ロックスが差し出したハンカチを受け取り、涙を拭う。


 「惚れた相手の証言だけが真実なら、法も裁判もいらないな」

 「オリビアが嘘をついていると言いたいのか!!」

 「借金自体は本当だ。だが、理由が違う。どうする。自分の口から言うか?」


 それはヴォラン様なりの慈悲。


 黙り込んだままのオリビアに期待はすることなく、自白するなら罪には多少なりとも目を瞑るという、ありもしない甘い蜜を垂らす。


 ヴォラン様には誰にも覆せない確固たる証拠を手にしている。


 自信に溢れた態度がそれを物語っていた。


 アレクサンダー様とオリビアだけは、感情に飲まれて冷静に物事を見れなくなっているみたい。


 「リフォルド公爵。よく聞け。借金の原因は」

 「やめて!!!!」


 会場に響き渡る。


 急に大きな声を出したせいか、肩で息をしていた。


 「この女の父親が女を買い漁っていたからだ」


 シンと静まり返った真っ最中にヴォラン様は躊躇うことなく口を開いた。


 告げられた真実に誰よりも動揺していたのはアレクサンダー様。


 「オ、オリ……ビア。本当なのか?」


 唇を噛み締めたまま俯いた。


 どんな顔をしているのか容易に想像がつく。


 女を買う。つまりお金を積んで平民の女性と……。


 その行為は法律で禁止されているため、見つかれば厳しい罰が待ち受けている。


 相手の女性も罪に問われるため、いくら尋問しても口を割るはずがないのに。


 ──ヴォラン様はどうやってその情報を知り得たのだろうか?


 「女にだらしがなかったのだろう。多くの平民を買っては、夜な夜な楽しんでいたそうじゃないか。毎日のように繰り返していれば、財など簡単に底を尽くな」

 「嘘……嘘よアレク!!あんな嘘に騙されないで!!」


 オリビアお得意の涙。


 嘘泣きだとわかっていても同情したくなるような美しさ。


 「そう言うと思って。証人を連れて来た」


 ヴォラン様の合図と共に屈強な騎士がやつれてボロボロの女性を中央へと連れて来た。


 「どう、して……。お母さん」


 振り絞られた声は恐怖に満ちていた。


 涙はすっかり止まり、慌てて駆け寄っては危害を加えようとするオリビアを騎士が手荒く制圧する。


 容赦なく顔を叩き付けた。


 「私の夫は……平民の女性を買うために多額の借金をしただけでなく、領地の税を勝手に上げては民を苦しめ、挙句に増税した分を国を納めることなく着服していました」


 ザワめきがどよめきへと変わる。


 着服の証拠として長年つけられていた帳簿が提出された。


 お金の管理を妻に任せたのは共犯にするため。


 おかしいと違和感に気付いたときにはもう遅い。立派な共犯者へと仕立て上げられていた。


 告発しても同じく罪人となってしまう恐怖から沈黙を選んだ。


 いや、選ばされたのほうが正しい。


 「頼んでおいてアレだが。なぜ証言してくれたんですか。一族の恥であり、公になれば裁かれるというのに」

 「私の夫はいつも私に暴力を振るっていました。女性を買うようになってからは暴力がなくなり、平和が続いてホッとしてたんです。ですが、それがいけなかったんです。私達夫婦の、そんな姿をずっと見ていたオリビアは自分のためなら何をしてもいいと思うようになりました」

 「いい加減にして!!親が子供の幸せを邪魔するなんて最低よ!!」

 「人を傷つけて得た幸せに意味なんてないわ」

 「傷つけられたのは私!!私は襲われそうになったのよ!!」

 「そうだ!私は確かにこの目で見た!!」

 「違うね。貴方が見たのは襲われていた場面ではなく、襲われている風を装った場面。自作自演だ」


 正装になれていないのか、単に堅苦しい恰好が苦手なのか。

 窮屈そうに袖と首元のボタンを外して緩めた。


 「どうして貴方が……」


 さっきよりも断然、顔色が悪くなった。


 真っ青で呼吸も若干乱れている。


 ロックスまでもが「なぜ」と驚く。


 「その男達も証人として呼ぶことは可能ですが、どうしますか。公爵様」


 張り付いたような笑顔。感情なんてこもっていない。


 悪いお手本みたいだ。


 なぜだろう。あの人、どこかで見た覚えが。


 男性にしては珍しく長い髪。黒に近いような焦げ茶色。


 一見、綺麗に束ねているようにみえるけど、急遽パーティーの参加が決まったかのように雑である。


 貴族にしては立ち振る舞いが乱暴。


 見様見真似で頑張っている貴族になりたての平民のような。


 ──あ、そうか。あの人……。


  頭の片隅にあった記憶を思い出す。


 あのときの、彼だ。

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