好きな雨、嫌いな雨
叔母は、私の前から三度いなくなった。
最初は、彼女が結婚した日。
子供は、結婚する一年前に既にできていたらしい。独り身と思っていた彼女は、既に人の女であったのだ。
隠し子という訳ではなかったが、なにせ旦那さんも彼女も忙しかったから、子供を私の家に連れて来る余裕もなかったのだそうだ。
そこで初めて、彼女はもう私の叔母ではなく、一児の母なのだと認識させられた。彼女のウエディングドレスは、白く輝いていた。お日様が、光っていた。
次は、彼女が癌になった日。私が小5の時だった。
見舞いに行く度に、やつれて、細くなっていき、もはや見る影もなかった(そこまでは言い過ぎかも知れない)。しかし、いつも笑顔なことだけは、変わらなかった。空に、雲がかかっていた。
そして最期は、彼女が亡くなった日。
皮肉にもその日は、大雨だった。雨に当たることができない病室で、彼女は息を引き取った。
彼女との最高の思い出は、山の中の大雨だった。
彼女との最期の思い出は、病室の中の大雨だった。
「はぁ〜・・・・」
嫌なことばかり思い出す。脳が、これ以上思い出すなと司令を出してきている。
その後、旦那さんと子供がどうなったかは知らない。あの時であの子は2歳ほどだっただろうから、大変な思いをしただろう。そういえば、あの子と少し遊んであげていたっけな。
と、窓から鈍い音がした。雨と風が打ち付ける音。
「・・・うるさいな。静かにしてよ」
・・・やっぱり、雨は駄目だな。空気を読んでくれないや。