将来の夢は
私は今読書をしている。夏目漱石の”こころ”だ。
正直言って、Kが自殺してしまう意味は分からない。そこまで思い詰める様なことか?と思う。しかし、これはひとえに私が恋愛をしたことが無いからだろう。いや、だとしてもだろう。
あの屋上の少女にだって、確かに好意を抱いているのは確かだが、彼女の為に死のうとは思わない。無論、今死ななくても、もうじき死ぬんだが。
ああ、駄目だ駄目だ。どうしても暗いことばかり考えてしまう。
「楽しくない」
何故だろう。何をしていても暗い考えがよぎる。何も楽しくない。
「今日はいるかな」
前のあの調子なら、当分退院なんてこともないだろう。退屈で仕方がなかったので、とりあえずまた屋上に向かった。
「あ・・・いた」
よかった。今日はいる。・・・いや、いる時点で彼女の身体が治っていないという証なので別に良くはないが。
しかし、今日はなんだか大人しい。少し残念だ。いつもならキラキラとした顔で歌っているのに。
まぁ、今更ながらあまりジロジロ見るものじゃないな、と、引き返そうとしたその時、
「あの・・すみません。この前は、その、ありがとうございました」
突然話しかけられたので驚いた。というかいつの間に。
「あ・・・どうも。もう大丈夫なの?」
「はい!お陰様で!というかその・・・いつも屋上にいらっしゃる方ですよね?」
バレていたのか。
「まぁ、そうだね。自分の部屋にいてもさ、ほら、暇だから」
「え、それ分かります。なんかほんと退屈っていうか、つまんないですよね・・・だから、いつもここで歌ってたんですよ。私の歌、上手かったですか?」
「ああ、もしかしてバレてた?・・・うん、ぶっちゃけ聴き入ってた。凄いね、なんか習ってたの?」
「そうなんです。私、元々歌うのが好きで、将来は歌手になりたいなって。だから、めっちゃ歌の勉強して、頑張ったんです!・・・」
一瞬、暗い顔が見えたが、気のせいだろうか?だがまぁ、歌手か。
「・・・そっか、頑張ってね。多分、凄いファン増えるよ」
「え、それ本当ですか?」
「うん、間違いなく。絶対人気歌手だよ」
それを聞いてすごく嬉しそうにしてくれた。無邪気で愛らしい。
「あ、そうだ!名前言ってなかったですね。私、志保って言います」
「私は、◯◯。よろしくね、えっと・・・」
「志保でいいです」
「じゃあ、よろしく、志保」
その後、少しだけ志保と話して、その場を後にした。しかし、志保か・・・どこかで聞いたことあるような・・・。