病室を抜け出して
こんにちはこんばんは~!今回は少し百合のお話。ぜひ見ていってね
彼女は一人病室を抜け出す。
病室は退屈でいてられない。
毎日毎日「大丈夫ですか」って看護婦が聞いてくる。大丈夫なはずなんてないことくらいわからないのか?
彼女は癌を患っていた。ステージ4、もうほぼ助からない。
生まれつき身体が弱かった。みんなが体育で楽しそうに笑顔を咲かせている中、彼女はどんよりと、まるで苔の様であると言えるくらいの顔をしていた。
高校にあがって少しした時、血を吐いた。すぐに救急搬送され、診断されたのが”ステージ”。
どうやら延命治療で、1年かもう少しは持たせられるらしい。
「どーでもいいよ、1年なんて」
そう、彼女にとって、彼女自身の人生なんてどうでもよかった。早く死にたかった。病室を抜け出したのだって、退屈のまま”ビョーニン”として死ぬよりかは、少しでも健康な人のフリをして、太陽の下で伸びやかに死にたかったからだ。このままぽっくり逝ってもよかった。
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いつもの屋上。そこでの楽しみといえば、あの美しい少女だ。名前は知らない。齢14歳といったところか、色白の肌に艶のある肩までしかない綺麗な黒髪、はっきりとした濃い二重瞼に桃色の柔らかそうな唇。身長は、145センチほど。
話しかけたことはない。ただ病衣を着ているから、ここの患者だろう。だが、それにしてはやけに幸せそうに見える。もうすぐ退院なのだろうか?
彼女はよく、歌を歌っていた。選曲は、どれも優しい、落ち着いたメロディばかりだ。よく、「鶯のような歌声」という表現があるが、──彼女の歌声の評価自体はそれでいいが──不思議なことに、彼女の歌声を聞くと、雨がよぎった。なぜなのかは分からないが、彼女は声に雨を宿らせているらしい。そんな感じがした。
「◯◯◯さん、またですか?」
・・・うるさい看護婦に見つかった。彼ら彼女らの頭には、終末ケアという言葉は無いらしい。延命、延命と、私はそれを望んでいないのに。
ああ、もう少し、彼女の歌を聞いていたかったな。