巻末袋とじ:その影は、夜より深く(噂の薄い本!!!)
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その洞窟は、静寂に包まれていた。
濃密な湿気が壁を這い、奥の奥まで夜のような暗さが沈殿している。光の入り口など存在せず、音は反響もせずに沈んでいく。
だが、そんな静寂をかすかに乱すものがあった。
少年の呼吸——それが、この場に異物の気配を持ち込んだ。
小さく、けれど確かに震えている。
背丈は未だ育ちきらず、声変わりも途中といったところ。だが、その身には剣を帯びている。名もなき剣士として、幾ばくかの戦いを潜り抜けてきた証拠だ。
だが今、彼の背後に迫る“それ”は、戦いでは計れぬ気配を纏っていた。
ぬるり。
空気の層を撫でるように、影が近づく。肉のような、霧のような、不定形の質感。
そして、耳元に生温い囁きが降りる——。
「ふふっ、おびえておるのか? 可愛いのぅ……」
その声は、どこか湿った桃のような甘さと、井戸底のような冷たさを同時に含んでいた。
少年の背筋が硬直する。が、声の主は容赦せず、さらに一歩、声を滑らせる。
「このギザ歯が気になるか? 安心せい、歯を立てたりなぞせぬ……たぶんな」
振り向く勇気は、まだない。
だが、何かが近づいている。明確な意志と、形状と、欲望を携えて。
少年は、わずかに口を開いたが、声にならない音が喉に溺れた。
「どおれ……では早速、御開帳と行こうかのう。
……ほほう、これは……ふふっ、中々の隠し財産じゃな。
よくもまぁ、こんなものを……こんな年で……隠しておったものよ。あっぱれじゃ。」
指先が、布の境界線をなぞる。
それはまるで、封印された宝を開くような所作だった。
「ほれ、こやつも顔を出したぞ。
恥ずかしがり屋め……されど、こうして見られるのも……嫌いではなかろう?」
その声音に、からかいと情欲が絡みつく。
視線は熱い。唇は近い。
何より、その牙のある笑みが、少年の理性をぐにゃりと歪める。
洞窟の奥には、火など存在しない。
だが今、その奥でひとつの火種が灯った。
それは羞恥と興奮が絡まりあい、名状しがたい熱を生み出す“魔”の焔だった。
——まだ、触れてもいない。
——だが、もう戻れない。
彼女の指先は、まるで毒を含んだ羽根のようだった。
触れたのか触れていないのか。
感触ではなく、意識が直接そこに刺さるような錯覚が、少年の下腹部を打ちのめしていた。
「ふふっ……よいか? ゆっくり、味わってやるでな。
こうして触れることにも、意味があるんじゃよ。……儀式のようなものさ。」
儀式。
その言葉に、少年の身体がわずかに震えた。
何か、不可逆のものが始まってしまうという確信。
「……うふ、もう既に固くなっておる。
若いのう……まこと、よき素材じゃ。ワガハイのコレクションにも匹敵するわい」
そう言って、彼女は自らの胸元を開いた。
生々しいまでに隆起した双丘は、まるで生き物のように湿っており、
洞窟の冷気に対してまったく無防備であることを誇示していた。
「ほれ、揉んでもよいぞ?
……ん? ああ、違う違う。揉まれるのはそっちじゃ。
ワガハイの乳房は『視る』ためにある。『触れる』にはまだ資格が足らぬ」
そう言いながら、彼女は自らの胸で、少年の昂ぶりをはさみ込んだ。
「ほら、こうして……挟まれておるのが、好きじゃろ?
動かさぬでも、体温だけで……たちまち溶けてしまいそうになるのう」
少年は息を止めていた。
いや、止めざるを得なかった。
なぜなら、吐息一つが引き金となり、何かが出てしまいそうだったから。
だが、それを察したのか、彼女の顔がふいと近づいた。
真紅の瞳。笑う口元。牙。
そのすべてが、彼の肉体と精神をかじってくる。
「んふ……そろそろ、限界かのう?」
囁きとともに、腰が動いた。
ぬるり、ぬちり、と湿った音が洞窟の石壁に反響する。
「では、仕上げに参ろうかの。
おぬしの『叡智』、このワガハイがきっちり搾り取ってやろうぞ」
言い終わらぬうちに、彼女は沈み込んだ。
——そして、少年は、音にならぬ声で息を吐いた。
*
*
*
彼女の舌は、長い。
人間のそれとは違い、温度が一定ではなく、まるで生き物のように部位によって質感が違った。
先端はぬるく、中央は熱く、根元は少し冷たい。
その三温帯のような舌が、少年の張り詰めた肉をなぞるたび、
彼の身体は異なる信号を同時に受け取っていた。
「あは……味が、変わってきたのう。
最初は金属のように渋く、いまは蜜のように甘い……
これが、成長というものか。いやはや、愉快愉快……」
下卑た笑みすら、彼女が浮かべると高貴に見えた。
それが上位種たるハイゴブリン娘の“格”であった。
「さあ、次はおぬしの番じゃ。
ワガハイの中を、叡智でいっぱいにしてくれや?」
言うが早いか、彼女は膝を開いた。
その間に広がる柔肉は、まるで毒花。
濡れすぎている。むしろ、洞窟の湿度がそこから発されているのではないかと錯覚するほど。
少年は、もう逃げようとは思っていなかった。
彼の中のどこかが、この契約を受け入れていた。
いや、はじめから望んでいたのかもしれない。
「よいぞ……ゆっくりで構わぬ。
その代わり、深くまで届かせよ。
そこに『契印』がある……ワガハイとおぬしを、繋げるための証が……!」
腰を押しつけた瞬間、ぬるりとした感触が彼を包んだ。
吸い込まれる、というより、咥え込まれる。
内側の肉が勝手に蠕動し、少年の芯を奥へ奥へと引き寄せる。
「ふふっ……お主のが、ワガハイの中で、喜んでおる……
見よ、この脈動……魔力の転写が、始まっておるのじゃ……!」
彼女の瞳は、妖しく光っていた。
それは快楽に酔っているだけの女の目ではなかった。
もっと深い何か——契約、誓約、呪縛、あるいは……愛。
彼はそのとき、理解した。
これは単なる情交ではない。
これは、魔族と人間の間に交わされる、『血よりも濃い』盟約の儀式だ。
「出すがよい……構わぬ……ワガハイの奥に、叡智を刻め……!」
彼女の腰が跳ねるたび、洞窟に水音が満ちていく。
快楽と魔力が混ざりあい、ひとつの奔流となって、彼の理性を押し流す。
「いっそ、孕ませてくれてもよいのじゃぞ?
そしたらワガハイ、今よりもっと強くなる……
おぬしの叡智、ワガハイの魔性、それらが混じれば……ふふっ……どれほどの存在になるか、楽しみじゃのう……!」
彼の限界が近づいていた。
精と魔とが混じり合い、火山のように内から突き上げる。
「よいぞ、出せ……全部、ワガハイにぶちまけるがよい……!」
——そして。
爆ぜた。
すべてが。
彼の中の理性も、肉も、魔も、そして時間までもが。
数秒だったのか、数分だったのか、彼にはわからない。
ただ、気づけば彼は、彼女の胸の中に倒れ込んでいた。
「ふふ……よい契りであったのう。
おぬしには、もう少しばかり搾れる力が残っておるようじゃが……それは、また次かのう?」
彼女は唇を寄せて、囁いた。
「契約は成立した。
これよりおぬしは、ワガハイのものじゃ。
肉も、叡智も、心までも——ふふっ、愉しゅうなるぞい?」