表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

巻末袋とじ:その影は、夜より深く(噂の薄い本!!!)

・↓の★★★★★評価

・ブックマーク

で応援いただければ幸いです!

 その洞窟は、静寂に包まれていた。

 濃密な湿気が壁を這い、奥の奥まで夜のような暗さが沈殿している。光の入り口など存在せず、音は反響もせずに沈んでいく。


 だが、そんな静寂をかすかに乱すものがあった。

 少年の呼吸——それが、この場に異物の気配を持ち込んだ。


 小さく、けれど確かに震えている。

 背丈は未だ育ちきらず、声変わりも途中といったところ。だが、その身には剣を帯びている。名もなき剣士として、幾ばくかの戦いを潜り抜けてきた証拠だ。

 だが今、彼の背後に迫る“それ”は、戦いでは計れぬ気配を纏っていた。


 ぬるり。

 空気の層を撫でるように、影が近づく。肉のような、霧のような、不定形の質感。


 そして、耳元に生温い囁きが降りる——。



「ふふっ、おびえておるのか? 可愛いのぅ……」



 その声は、どこか湿った桃のような甘さと、井戸底のような冷たさを同時に含んでいた。

 少年の背筋が硬直する。が、声の主は容赦せず、さらに一歩、声を滑らせる。



「このギザ歯が気になるか? 安心せい、歯を立てたりなぞせぬ……たぶんな」



 振り向く勇気は、まだない。

 だが、何かが近づいている。明確な意志と、形状と、欲望を携えて。

 少年は、わずかに口を開いたが、声にならない音が喉に溺れた。



「どおれ……では早速、御開帳と行こうかのう。

 ……ほほう、これは……ふふっ、中々の隠し財産じゃな。

 よくもまぁ、こんなものを……こんな年で……隠しておったものよ。あっぱれじゃ。」



 指先が、布の境界線をなぞる。

 それはまるで、封印された宝を開くような所作だった。



「ほれ、こやつも顔を出したぞ。

 恥ずかしがり屋め……されど、こうして見られるのも……嫌いではなかろう?」



 その声音に、からかいと情欲が絡みつく。

 視線は熱い。唇は近い。

 何より、その牙のある笑みが、少年の理性をぐにゃりと歪める。


 洞窟の奥には、火など存在しない。

 だが今、その奥でひとつの火種が灯った。

 それは羞恥と興奮が絡まりあい、名状しがたい熱を生み出す“魔”の焔だった。



——まだ、触れてもいない。

——だが、もう戻れない。



 彼女の指先は、まるで毒を含んだ羽根のようだった。

 触れたのか触れていないのか。

 感触ではなく、意識が直接そこに刺さるような錯覚が、少年の下腹部を打ちのめしていた。



「ふふっ……よいか? ゆっくり、味わってやるでな。

 こうして触れることにも、意味があるんじゃよ。……儀式のようなものさ。」



 儀式。

 その言葉に、少年の身体がわずかに震えた。

 何か、不可逆のものが始まってしまうという確信。



「……うふ、もう既に固くなっておる。

 若いのう……まこと、よき素材じゃ。ワガハイのコレクションにも匹敵するわい」



 そう言って、彼女は自らの胸元を開いた。

 生々しいまでに隆起した双丘は、まるで生き物のように湿っており、

 洞窟の冷気に対してまったく無防備であることを誇示していた。



「ほれ、揉んでもよいぞ?

 ……ん? ああ、違う違う。揉まれるのはそっちじゃ。

 ワガハイの乳房は『視る』ためにある。『触れる』にはまだ資格が足らぬ」



そう言いながら、彼女は自らの胸で、少年の昂ぶりをはさみ込んだ。



「ほら、こうして……挟まれておるのが、好きじゃろ?

 動かさぬでも、体温だけで……たちまち溶けてしまいそうになるのう」



 少年は息を止めていた。

 いや、止めざるを得なかった。

 なぜなら、吐息一つが引き金となり、何かが出てしまいそうだったから。


 だが、それを察したのか、彼女の顔がふいと近づいた。

 真紅の瞳。笑う口元。牙。

 そのすべてが、彼の肉体と精神をかじってくる。



「んふ……そろそろ、限界かのう?」



 囁きとともに、腰が動いた。

 ぬるり、ぬちり、と湿った音が洞窟の石壁に反響する。



「では、仕上げに参ろうかの。

おぬしの『叡智』、このワガハイがきっちり搾り取ってやろうぞ」



 言い終わらぬうちに、彼女は沈み込んだ。


 ——そして、少年は、音にならぬ声で息を吐いた。



*

*

*



 彼女の舌は、長い。

 人間のそれとは違い、温度が一定ではなく、まるで生き物のように部位によって質感が違った。


 先端はぬるく、中央は熱く、根元は少し冷たい。

 その三温帯のような舌が、少年の張り詰めた肉をなぞるたび、

 彼の身体は異なる信号を同時に受け取っていた。



「あは……味が、変わってきたのう。

 最初は金属のように渋く、いまは蜜のように甘い……

 これが、成長というものか。いやはや、愉快愉快……」



下卑た笑みすら、彼女が浮かべると高貴に見えた。

それが上位種たるハイゴブリン娘の“格”であった。



「さあ、次はおぬしの番じゃ。

ワガハイの中を、叡智でいっぱいにしてくれや?」



 言うが早いか、彼女は膝を開いた。

 その間に広がる柔肉は、まるで毒花。

 濡れすぎている。むしろ、洞窟の湿度がそこから発されているのではないかと錯覚するほど。


 少年は、もう逃げようとは思っていなかった。

 彼の中のどこかが、この契約を受け入れていた。

 いや、はじめから望んでいたのかもしれない。



「よいぞ……ゆっくりで構わぬ。

 その代わり、深くまで届かせよ。

 そこに『契印』がある……ワガハイとおぬしを、繋げるための証が……!」



 腰を押しつけた瞬間、ぬるりとした感触が彼を包んだ。

 吸い込まれる、というより、咥え込まれる。

 内側の肉が勝手に蠕動し、少年の芯を奥へ奥へと引き寄せる。



「ふふっ……お主のが、ワガハイの中で、喜んでおる……

 見よ、この脈動……魔力の転写が、始まっておるのじゃ……!」



 彼女の瞳は、妖しく光っていた。

 それは快楽に酔っているだけの女の目ではなかった。

 もっと深い何か——契約、誓約、呪縛、あるいは……愛。


 彼はそのとき、理解した。


 これは単なる情交ではない。

 これは、魔族と人間の間に交わされる、『血よりも濃い』盟約の儀式だ。



「出すがよい……構わぬ……ワガハイの奥に、叡智を刻め……!」



 彼女の腰が跳ねるたび、洞窟に水音が満ちていく。

 快楽と魔力が混ざりあい、ひとつの奔流となって、彼の理性を押し流す。



「いっそ、孕ませてくれてもよいのじゃぞ?

 そしたらワガハイ、今よりもっと強くなる……

 おぬしの叡智、ワガハイの魔性、それらが混じれば……ふふっ……どれほどの存在になるか、楽しみじゃのう……!」



 彼の限界が近づいていた。

 精と魔とが混じり合い、火山のように内から突き上げる。



「よいぞ、出せ……全部、ワガハイにぶちまけるがよい……!」


——そして。



 爆ぜた。

 すべてが。

 彼の中の理性も、肉も、魔も、そして時間までもが。


 数秒だったのか、数分だったのか、彼にはわからない。

 ただ、気づけば彼は、彼女の胸の中に倒れ込んでいた。



「ふふ……よい契りであったのう。

おぬしには、もう少しばかり搾れる力が残っておるようじゃが……それは、また次かのう?」



 彼女は唇を寄せて、囁いた。



「契約は成立した。

 これよりおぬしは、ワガハイのものじゃ。

 肉も、叡智も、心までも——ふふっ、愉しゅうなるぞい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ