元傭兵のプライド
ジョーンが俺達の土台では道場を建てる際に不安定だと言って、建て直してくれたうえ、図面を俺達のような建築素人にも分かりやすく書いてくれて、道場作りは俺の想像以上に早く進みそうだ。
元々道場には剣術稽古が存分にできる道場部分と俺とシーナが寝られる部屋を作るつもりだったが、翌日ジョーンから新たな指摘があった。
「なあお前ら、この道場には台所は作らないのか?」
「台所か、今の家にもないし、とりあえずはそれほど必要ではないと思ってな」
「ええ、師匠はいつも私が獲った獲物を川の近くのあの台の上で料理してくれていますから」
「あの台はそういう目的で置いてあるのか?」
川の近くにある台の存在にジョーンが気付いたようだし、俺はその事について説明する事にした。
「ああ、この村はシーナが来るまで動物の肉を食べるという習慣があまりなく、たまに村長が街に肉を買ってくるくらいだったんだ」
「ほう、それで」
「シーナが獲物ごと運んでくれるからどう処理するかって時に村人共通の台を川の近くに作ったんだ。元々野菜は川で洗っていたからな」
「そういやああんたは元々冒険者だし、サバイバルはお手のものだったんだな」
あまり冒険者の事は触れて欲しくないが、お互い訳アリの過去だし、ここはスルーして話を進めるか。
「まあな、ダンジョンや森等で野営をすることもあったし、獲物をどう処理するかはそこで身に付けたな」
「さすがは元冒険者だな、素人は血抜きもできないらしいからエルフの娘とあんたがこの村にいたのは村人にとっては幸運かもな」
「あのジョーンさん、ジョーンさんもこれから修行……は分かんないですけど、魔物狩りの仕事もするんですから私達の事も名前で呼んでくれますか?」
「そうだなええっと……」
シーナ、そうだな俺達はジョーンの名前を呼んでいるのに、ジョーンが俺達の事を名前を呼ばないのは距離がある感じがするからな。
「シーナです、エルフのシーナ」
「よろしくな、あんたも頼むぜリッキー」
「ダメです!師匠の事はちゃんと師匠とお呼びください!」
「なんでだよ!っていうか、まだ剣を教えてくれるって決まったわけじゃないんだろう!」
「それでもジョーンさんも教えを請うのですから礼儀を示さなくてはいけません、まだ師匠でないのならせめて様かさん付けで呼んでください」
「待てシーナ、まだ正式な弟子でもないコイツにそういうのは押し付けるな」
「でも師匠……」
「ジョーン、とりあえず俺の呼び方は自由だし、剣を学ぶにしても別に俺の事を師匠と呼ぶ必要はない、シーナが勝手にそう呼んで俺が受け入れているに過ぎないんだから」
「……分かった、とりあえずリッキーとは呼ばせてもらう。呼び方を変えるかどうかはまた教えてもらう時に考える」
ふう、こいつもこいつで元傭兵のプライドはあるし、拗ねやすい性格のようだし、慎重に扱わないとな。