図書室の付箋と秘密の言葉
登場人物
ケイタ:高校生。図書委員。物静かな性格。
マナ:高校生。ケイタのクラスメイト。読書が好き。
*
学校の図書室。放課後。
ケイタはカウンターで本の貸出業務をしている。マナが本を借りに来る。
マナ: こんにちは、ケイタ君。
ケイタ: あ、マナさん。こんにちは。
マナ: この本、借りたいんだけど。
マナは一冊の本を差し出す。
ケイタ: はい。(本のバーコードを読み取りながら)マナさん、この作家の本、好きだよね。
マナ: うん、独特の世界観が好きで。ケイタ君も、この作家の本、読んだことある?
ケイタ: …実は、前にマナさんが借りてたのを、気になって読んでみた。面白かったよ。
マナ: 本当?どの作品が一番好きだった?
ケイタ: えっと…『黄昏の庭』かな。主人公の心情描写が、すごく繊細で…。
マナ: 私もあの作品、大好き!ケイタ君と、好きな本の話ができるなんて、嬉しいな。
ケイタ: …俺も、嬉しい。
ケイタは貸出手続きを終え、本をマナに渡す。
ケイタ: はい、どうぞ。返却期限は、2週間後です。
マナ: ありがとう。…あ、そうだ。ケイタ君って、いつも図書委員の仕事、真面目にやってるよね。
ケイタ: そうかな…?当たり前のこと、してるだけだけど。
マナ: ううん、すごいと思うよ。本の整理とか、細かい作業も、丁寧にやってるの、いつも見てる。
ケイタ: …見ててくれたんだ。
マナ: うん。…あ、ごめんね。長話しちゃって。
ケイタ: いや、全然。…もっと、話したい、くらい。
マナ: …!私も。…じゃあ、また。本、読むの楽しみにしてるね。
ケイタ: うん、また。
マナは図書室を出ていく。ケイタはその後ろ姿を見送る。
ケイタは書架整理を始める。マナが返した本を手に取ると、間に付箋が挟まっているのに気づく。
ケイタ: …?なんだろう、これ。
付箋には、見覚えのある字で、こう書かれている。
ケイタ: …!(マナの字だと気づく)
ケイタは、本を棚に戻し、周りを見回す。マナは、窓際の席で、本を読んでいる。その横顔は、いつもより少し大人びて見える。
ケイタは、意を決して、マナの席へ向かう。
ケイタ: …マナさん。
マナ: …!ケイタ君…!付箋、見てくれたんだ。
ケイタ: うん。…あの、俺も、もっと話したいと思ってた。…その、この前借りてた本の感想、まだ言ってなかったし。
マナ: …!うん…!聞きたい。
ケイタ: …この本の最後のページの、この一文、"たとえ世界が闇に包まれても、君の笑顔が僕の光"ってところ…すごく、心に残ってて。その…
マナ: うん…
ケイタ: …マナさんの笑顔も、いつも、俺を…その…明るい気持ちにさせてくれる、っていうか…
マナ: 嬉しい。…私、ケイタ君のそういう、不器用だけど、真っ直ぐなところ…ずっと、素敵だなって思ってたから。
ケイタ: …!
二人は見つめ合う。図書室の静寂の中、二人の鼓動だけが、少しずつ早くなっていく。