F、生殺与奪の権を取り戻す。
「がんばれ、がんばれって、アホか」
「あ?」
ハッチのつぶやきは風にまぎれるような小声だったが、それを聞き逃さないのが小物が小物たる由縁である。
・・・全体的に小さいせいで細かいのに強いのだろうか?
「先行くなら、ちゃんと全員のことを考えてっていってるんですよ!」
「おっ? おおぅ?」
いきなり張り上げられた大声に驚いたものの、内容はよくわかっていないのだろう。
タイチョーの動きが止まった。
姿形だけを見れば言われていることを考えているようではあるが、実際のところは処理能力を超えた状態、いわゆるフリーズである。
「こんなでこぼこ道、小さい子には無理ですよ。行きだけじゃなく帰りもあるのわかってます?」
「おっ? おおぅ? わかってる。わかってるとも!」
ターちゃんやサンでもわかる。今言われて初めてわかったな、と。
「とりあえず、元の道に戻りますよ? いいですね?」
「おっ、おおぅ」
「戻ったら秘密兵器を使ってもらいます。いいですね?」
「おっ。おおぅ。何で?」
「で?」
─── お前らのせいで余計につかれたんだよ!
そういうのは簡単である。
あるが。
「コノナカ デ タイチョー ガ イチバン パワー ガ アルカラ デス」
─── いかん。ほめてのせるつもりが・・・。 イテッ!
慣れないことをしたせいで棒読みになったハッチの脇腹にコウの肘が入った。
「そうか、そうか! まあ、しかたねーな!」
「な!」
それでも効果はあったようだ。
明らかに機嫌が良くなったタイチョーは、ハッチから秘密兵器を奪い取るように取り上げるとターちゃんとサンを乗せた。
橇。
それは雪国の子持ちの親の必需品。
車がないときに子供や重い荷物、時に散歩に疲れた犬などを乗せる実用品である。
が。
「うわっ!」
「・・・」
・・・ひっくり返るような路面で使う物ではない。
Q、あれに見えるは に進む。