J、コンビニ
雪の中でも見えるおなじみの看板。
そうそれはコンビニ、コンビニエンスストア。
町で便利さを売るにくいお店である。
もはや吹雪と言っても過言=言い過ぎではない外と違って、暖房のきいた店内では。
「立読みしてくれい」と、ブックコーナーが。
「食べてくれい」と、だしの香りをただよわす、おでんが。
「いや、俺のほうが」と、たれの匂いをただよわすやきとりが。
「それなら私でしょ」と、細かい油をただよわす唐揚げ一族が。
「・・・」無言で蒸される、マン達が。
ゆうわくの手をこれでもか、と伸ばしているに違いない。
「・・・にーちゃん」
「よらないぞ」
少し食いぎみにターちゃんの希望を断ち切ったハッチにはわけがある。
ぶっちゃけ宝物がそう価値のあるものじゃないのだ。
コンビニでなんか買っちゃうと、苦労して歩く意味がなくなるぐらいには。
「ハイハイ、歩いた歩いた」
コウもそれを知っている。
二人がかりで弟、妹を先へ先へと進める兄と姉だが、コンビニエンス=便利と言うだけあって、進む先、進む先に看板は現れた。
「にーちゃん」
「よらないぞ」
「にーちゃん」
「よらないぞ」
何度も繰り返されるおなじみのやりとり。
だが。
「おしっこー」
なん、だと?
ターちゃんが切り札を場に出した!
どうする?
K、ここは我慢させる。
L、生理現象はしかたない。入店する。