I、かまくら
ざーざーと景気よく、すべりどめ用の砂をまいてしまえば、やがて袋も空になる。
しかし心配はいらない。
タッピーの形はしていなくとも、夏には存在感がなくとも無骨=あんまり飾り気のない四角いだけの緑色の砂入れは探せば結構あり、アイテムの補給はそう難しく無い。
・・・雪さえ降っていなければ。
「箱、ないね~」
空になった袋をポイ捨てせず、ハッチのポケットに押し込んだターちゃんが、キョロキョロと辺りを見回している。
どうでもいいがこの弟、やりたいほうだいである。
洗濯する時「またあんたはポケットにこんなの入れて!」って、母ちゃんに怒られるからハッチとしてはやめて欲しい。
コウが見てるのにズボンは下がるしな~、とハッチが上げたズボンのウエストは、すぐにまた下がった。
「なんだよ!」
危うくズルッといきそうになったズボンを押さえて、ハッチは犯人へと振り返った。
ちなみにコウもサンも両手で目をおおっているが、その指には覗けるぐらいの隙間があり、ほっぺたはほんのり赤い。
「あれ・・・」
そんな大惨事=パンツ丸見え、ひょっとしたらパンツごと・・・を引き起こしそうになったターちゃんは、それに気づかず指を指していた。
その先には───。
「かまくら、か」
まるでレースのカーテンのように降りしきる雪の隙間から見えるスノードーム。
公園でだれかが作ったのだろうが、あたりに人気はない。
「ちょっと休んで行くか?」
入る気まんまんのターちゃんは置いといて、聞かれたコウとサンも疲れていたのだろう。少し休んで行くことにした。
「けっこう本格的ね」
「・・・」
ペタペタと雪の天井を確認するコウ。
気温が上がる春先は崩れて危ない雪の建物も、冬真っ只中なら頑丈である。
かなりの内部スペース。壁にそって座れる段差まであるとなれば、製作者は大人だろう。
どこぞのお父さんが「よーし、今日は頑張っちゃうぞー!」と張り切った挙げ句、翌日「こっ、腰がー」と筋肉痛で横たわりそうなできであった。
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
風を防ぐため小さく作られた入り口から見える、雪、雪、雪。
風の強さによってななめ具合の変わる風景は見てて飽きないし、ぬれず、風に吹かれない空間は意外に暖かかく、歩いて熱を持った足に触れる冷たさが気持ちよく、すぐにまた出発とはならなかった。
「ひゃっ?!」
最初にかわいい悲鳴を上げたのはサンだった。
「なんだよ? どした?」
「な、なんでもない!」
顔を真っ赤にしてもじもじする様子からすると、なんでもないことはないだろう。
それがなんなのか? なぜサンが隠すのかはハッチにもすぐにわかった。
「・・・」
じわり。
ハッチの尻になんとも言えない感触。
思わず、連想する遠い遠い記憶。
これは───
───おもらし!
違うけどな!
すぐさま立ち上がって座面を確認するハッチ。
ぬ、ぬれてる、だと ?!
雪+体温=?
思えば簡単な計算だった。
「あー!」
兄の尻に異変を見つけたターちゃんの報告を聞かずともわかる。
これからどうなるか、は。
冒険は終わった。
おもらししたように、ぐっしょり濡れたお尻で町は歩けない。
ちなみに尻を隠せる秘密兵器はコウとサンの姉妹に強奪された。
四人は冬になるたび思い出す。
知り合いに、いや、誰とも会いませんように、と祈りながら、歩いた帰り道を。
ばっど、えんど。
旅立ちに戻る。
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