第91話:男四人でゲーム日和
その日の学校が終わった帰り道、綾音が用事があるという事なので式と一緒に歩いていると急に一件のメッセージが届いた。
要件としては暇だったら遊ばないかというもので、送り主はカイザー。
最近会えてなかったし丁度暇だった俺は式を誘って都心の方へ。
前に行った【ヴァルシア】とは逆方向へと進み、辿り着くのは少し外れた一軒家。
「よく我が城に来たな二人とも! ――存分に遊ぶぞ!」
玄関の方ではそわそわした様子のカイザー待っており、俺達を見るなり笑顔で迎えてくれる。聞けば今日は家族がいないそうなので、うるさくしても問題ないらしい。
家に案内され、そのままお菓子やジュースが用意された部屋に入れば……そこには最新のゲーム機が四つ置いてあり、コントローラーも完備されている。
「……えっとゲームか?」
「あぁ、今日発売された狩りゲーを四人でやろうと思ってな! このコントローラーも全部限定版で揃えたぞ!」
「あーそういや今日だっけ?」
「あぁ! 一年待って今日発売なんだぞ! 今まではソロでやってたが、今の我には霊真という友がいるからな! 一緒にやりたかったのだ!」
めっちゃキラキラとした眼でそう語るカイザー。
断る理由もつもりもないが、圧倒的な遊びたいオーラにやられた俺は、気圧されながらもコントローラーを手に取って、ログインしつつもセーブデータを作成する。
「……なぁ五郎、四つあるが後は誰だ?」
「そんなの師匠だろう? というわけで霊真よ、バアル師匠を喚んでくれるか?」
「そういやあいつのことそう呼んでたよな。まあ了解、あいつなら適応早いし出来るだろ……多分。とりあえず【サモン】バアル・ワイルドハント」
室内なのではっちゃけないようにだけ伝えれば喚び出されるのは執事姿の召喚獣。
黒髪に銀のメッシュをかけているそいつはなんかエプロンを着けながら現れて……そのまま頭に疑問符を浮かべている。
「む、主よ――我の出番か!?」
俺を認識した途端のこと、すぐに膝をついてそんなことを言ってくるバアル。
要件を伝えてみれば、すぐに気合いを入れてコントローラーを握りしめ、指示を待つ犬みたいに微動だにしなくなる。
そのバアルの様子は犬の耳を幻視するほどで、本当に神か疑うが……こいつだしと思考を止めた。
「……式は何使うんだ?」
「ボウガン、いつもこれだし」
「我は片手だ――やはり盾ある剣は格好いいからな!」
「主よ、我は守りたいから槍を選ぶぞ!」
一人称が我族故の共鳴なのか、本当にバアルとカイザーは仲が良い。
人に奉仕するのが好きで、誰かの成長を喜び、人の営みを見守るのを至上とするバアル。異世界で出会ったときは一人でいたが、こうやって人と関わって喜んでいるこいつを見るとかなり嬉しくなる。
「じゃあ俺は……無難に太刀で行くか」
俺は俺で久しぶりにやるこのシリーズ。
……異世界に行く前は良くやってたしと思いつつも、最後にやったのが中学三年の記憶だから上手く出来るか心配だ。
「じゃあ一狩り行くぞ! 皆武器は持ったか?」
「……おう、じゃあやってくか」
いつものダンジョンとは違い、本当に元の世界のように遊ぶ俺達。
それは懐かしく、よく式と綾音と一緒に過ごした時間みたいで……気付けば数時間が過ぎていた。
「あ、そうだ。菓子切れてきたから、買ってくるわ」
「む、それなら我が行くぞ霊真よ」
「いいって、なんか俺が多く食べちゃったし責任持って買ってくる。皆は先進めといてくれ」
「いや、主よそういう仕事は我がやるんだが……」
「んー……せっかくだし、バアルは式達と話しててくれ。ちょっと眼が疲れてさ」
「そういうことなら承けたまろう――迷ってたら迎えに行くぞ主!」
流石にコンビニ行くのには迷わねぇよ……と言いたかったが、それを言ったらなんか残念臭が漂うので、一旦黙って俺は部屋を出て行った。
――――――
――――
――
「そういえばバアル師匠。師匠はどうやって霊真と出会ったのだ?」
「それは気になるな、異世界でのあいつの事も知りてぇし聞けるか?」
主の友人達から投げかけられたその質問。
……純粋な興味からの疑問だろうが、我は少し躊躇する。
だけど、主から対話をしろとは言われたので、我の身の上を話すことにした。
「式殿そしてカイザー殿……汝らは、バアルという神を知っているか?」
「知っているが、確かカナンで信仰されている豊穣の神だろう? 我が友が会わせてくれた仲間達をみるに、師匠はバアルであることは分かるぞ」
「いつも思うが、五郎の知識すげーよな。俺そこら辺詳しくねぇし」
「まぁ我だからな!」
この二人も仲が良いのか、軽口を叩きながらも話す主の友人達。
我等が主を想ってくれるそんな二人。最初は……それこそ初めてこの世界で召喚された時は警戒していたが、この二人は敵にならないとは思える。
「それでだ。バアルという神には別の側面があることを知っているか?」
「……師匠、もしやそれはバアル・ゼブブか?」
……聡い子だ。
この会話だけで我が伝えたいことを汲み取ってくれる。
理解していない式殿は我の言葉を待ってくれるが、今ので察しただろうカイザー殿は目を伏せた。
「我等が暮らしていたミソロジアの正式名称は――神話廃棄世界ミソロジア。成り立ちとしてあらゆる神話の悪や怪物……そして邪神と呼ばれた者達の原典とが落とされる世界なのだ」
そして思い返すのは、主に救われた我等のこと。
……悪としてしか生きることが出来なかった筈の我等を救い、世界を救うという善に戻してくれたレイマ・カリヤという大事な主の事を想いながら我は語る。
「その中でもバアルというのは特殊でな、善の神であるバアル・ゼブルと悪魔とされるバアル・ゼブブの二つの側面を持ち、ミソロジアの特性から我はずっと悪魔として生きてきた」
蝿の王、暴食の魔王、七つの大罪の一柱。
神であり、人を助けた記憶があるのに……もう一つの側面が全てを喰らえと囁き続け、我に理性を許さなかった。喰らい貪り命を奪う――通り過ぎた場所には何も残らず、我が司る豊穣を否定する存在へと変わったのだ。
「……それは」
「つれぇな」
「あぁ、つらかったぞ……人を守りたいのに、豊穣を祈りたいのに――自らの手で奪う日々、だがそれを終わらせたのが主だった」
……出会いは偶然。
Sランクの災害として数えられる暴食の魔王の討伐依頼。
それを受けた主と出会ったのが最初……理性を持たなかった我は、敵として現れた彼に襲いかかり、召喚獣である仲間達に抑えられ一度倒された。
「そこが主と初めて話したときだ。倒されたことにより原典の浸食が収まり理性を取り戻し、何百年ぶりかに対話をし――そして我は、この人間ならと討伐を願った」
もう奪いたくないから次暴れればどうなるか分からないから、自死だけは原典がまた誰かに渡る可能性があるからと、完全な消滅を彼に願い――。
「見事断られて、そのまま主と彼の師であるメルリに救われ……生涯を捧げることを決めたのだ。主の為なら、悪魔になれると思えるほどに救われ生かされたからな」
「……ほんと、どっちの霊真も変わらないんだな」
「あぁ、聞く限りこっちの主もそうだったのだろう? よければ話を聞かせてくれないだろうか?」
「おう、任せろ……あいつが帰るまでに語ってやるよ」




