第90話:幼馴染との帰り道(空)
「霊真君、敵は?」
見慣れない女性を背負う泉華さん。
他の仲間を見てみれば千鶴さんも一人、そして誠さんに関しては二人の男性を背負っていた。秋葉原に向かうまでの道中で聞いたとおりの人数。よかったと安心しながらも俺は彼女の問いに答える。
「倒しました……結構魔力持っていかれましたけど」
バロールが使った秘術……というか奥義の一つである【魔人の秘瞳】。
あれは原典を解放しない状態で使える中で一番えげつない技なのだが、効果としては相手に死壊というのを当てはめるというもの。
死壊は、相手の体を呪い腐らせ朽ちさせ崩れさせる力。
バロール曰くで死がないと判断された相手に使うのは賭けだったが、死という概念はなくとも生き物だったせいか死壊の現象は喰らったみたいだ。
「無茶はしてない?」
「まあ、はい……無茶はしてないです」
「――いっかい、まさぐらせて?」
「え゛?」
心配されてるのは分かるから穏便にと答えたのだが、彼女はそれで納得いかないのかそんなことを言ってきた。
思わず自分の声だと考えられないほどの変な声が出てしまい、後ろで伸びをしていたルナとソルが殺気を彼女に向ける。
「……手首、見る限り怪我してるよね?」
異世界のヒーラーの力にもあった対象の状態を確認する魔法を使ったのだろう。
彼女は俺にすぐ近づいて、その手を患部に当ててきた。
結構深く斬ったのは覚えているが、これだったらすぐに治しとけば良かったと後悔する。
「自傷でもしたの?」
「魔法を使うのに必要だったので」
「……それなら責めないけど、痛くなかった?」
「一応?」
「綾音ちゃん、判決」
「有罪……せめて相談して欲しかった」
綾音にそう言われて、異世界では慣れたことだがこの世界の霊真の体でやったことを反省する。あいつに体を返すって決めたのに、傷つけるのは確かに駄目だと。
「すまん、出来るだけ気をつける」
「……出来ればやってほしくないけど、しょうがないのも分かるよ」
「とりあえず治したけど、無茶は駄目だよ霊真君」
彼女のヒールによる効果は確かに凄かった。
……俺のヒールは魔力による暴力なのだが、彼女のは微かな傷だとは言え少ない魔力で確実に傷を塞いで治してみせたのだから。
それを思えば、こいつの体がずっと生きてられたのも泉華さんの力が合ったのだろうと不思議と理解できる。
「よし、じゃあ撤退だ。依頼も完了したし、何より政府に報告しないといけないこともあるからね――さぁさぁ皆、お姉さんに捕まると良いよ? 出来れば綾音ちゃんと霊真君だったら嬉しいな」
「……やんないから早く帰ろう」
「俺も、やる勇気はないです」
「そんな――うぅ、千鶴ちゃん若者が冷たいよぉ」
「…………いいから帰るぞ、馬鹿」
「せめて名前で呼んで!?」
それを最後の言葉にして、ダンジョンから脱出した俺達。
ルナ達を戻しながらも、ダンジョンから出れば入り口には今回の依頼を出してきた冒険者の人がいたらしく、意識の戻った救助者を見てありがとうと繰り返していた。
それを見て、間に合って良かったと。
何より助けられて良かったなと俺は思って、漸く肩の荷が下りたのを実感する。ずっと張り詰めていたのがなくなって、この現実に安心して。
「あとは一応のためにヴァルシアに帰るよ? 結構傷が深かったから、もうちょっと様子見たいからね」
「……了解だ。それなら車を手配するが、霊真達はどうする?」
「あー俺は帰ろうかと、終わったみたいですし」
今いる秋葉原から家に帰るのは行きと同じでベルクに力を借りれば良いだろう。
だけどそうなると綾音はどうするんだろうかと聞こうとしたんだが……。
「霊真が帰るなら帰るね……今日はお疲れ皆」
「そうか……私からも助けてくれて感謝する。強くなったな霊真」
「記憶に関しては僕も探してみるよ、だから君は一人で突っ走っちゃ駄目だよ?」
千鶴さんと誠さん……そんな二人の言葉を聞いて、改めてだが霊真の人柄を理解する。こんなにも想われているこいつは、本当に凄い。それを感じて、もっと本腰を入れて戻す術を探さないと心に決める。
「じゃあ帰りますね……綾音は、どうする?」
「一緒に帰ろ?」
「……了解【サモン】ベルグ・フェルニル」
そうしてベルグを喚んだ俺は綾音を乗せて家へと向かう。
急ぐ理由もないのでゆっくりと飛びながらも、特に会話もせずに空を進む。
「……ねぇ霊真」
「なんだ?」
「今日お泊まり会しない?」
「――なんでだよ」
結構深刻そうな声音で聞いてきたと思ったらそう言われたので気が抜ける。
「……ふふ、冗談だよ。でも、暇だから夜お話ししよ?」
「通話か?」
「うん、睡眠耐久通話。寝た方が負け」
「絶対、俺が勝つと思うんだが……」
「負けないもん。私寝ないの得意だよ」
「……はぁ、何の自慢だよ」
「中学生特有のアレ」
「おまえ、いま、高校生」
そうやって会話をしながらも辿り着いた自分の家。
……帰ってきた頃には夜になっていたので、少し疲れたなと思いながらもベッドに入れば、すぐに綾音から通話が掛かってきた。
『じゃあお話ししよ?』
「……部屋の灯りで判断するなよ」
『つけたのが悪いよーだ』
「まあいいけどさ……で、何話すんだ?」
『決めてない』
「……お前らしいよ」
絶対今頃ドヤ顔をしているなとか思いながらも、俺はそのまま眠くなるまで綾音と話し続けた。楽しそうに笑う彼女の声に安心感を覚えながら、何より懐かしいなって……また、会いたいなって。
『……おやすみ、霊真』




