第80話:お疲れ様は皆でゆっくりと?
部屋に入った俺等は黒羽さんに案内されて奥の茶室の様な場所に辿り着いた。
そこには既に待っていた大和さんがいて、俺等を目にした途端に「よっ」と軽快に挨拶してくれる。
「おはよう大和のお爺さん」
「ちゃっすだぜ」
「祭りぶりだなご老体」
「おはようです大和さん」
先に挨拶した綾音達の後で俺は挨拶して、座れと言われたのでそのまま座る。
庭が見える茶室に慣れないながらも周りを見渡せば、視線の先には前の世界の和風ドラマで見るようなししおどしがあり、庭はかなり整備されている。
「どうした霊真の坊?」
「……いや改めて緊張して」
「かかっ以外だな――まあ緊張せずに寛ぐと良いぞ」
そう言われても慣れないものは慣れないような……そう思いながらも気を使わせるわけにもいかないのでなんとか表に出さないようにすることにした。
「まあなんだ今日は祝賀会だ――寿司も頼んであるし、存分に食ってくれ」
その一言で始まった祝賀会。
並べられている寿司のネタは分かる物もあれば大半が知らないものばっかり。光り物が多いなとか思いつつ、全部旨くて自分の語彙が消えていくのが分かった。
それから暫く皆で寿司を堪能してあの戦いを労うように疲れを癒やし……昼も過ぎた頃、俺は刀を返すと言われて大和さんと別室に行くことになった。
「悪いなわざわざ」
「いえ、というか残してたんですね」
「そりゃそうだろあんな業物下手に使えねぇぞ……で、本題なんだが、ダンジョン祭で現れたあの魔人? がいただろ、あれについて聞きたいんだよ」
「……俺にですか?」
急にそう言われるが心当たりしか無かった。
大和さんは最初すぐに紗綾さんを助けに行き、そのままあいつと戦った。その際に彼女と俺の会話を聞いていても不思議じゃないし、違和感を持って当然。
そこまで考えて一瞬の迷いが生まれる。
……ここで彼女の事について話すということは、異世界のことを話すという事になる。大和さんの人となり自体は割と信頼はしているが、異世界のことは普通だったら信じられないこと……。
綾音達が信じたのは、この世界の霊真のことを知ってるからであって……その事前知識が無ければ伝われないような気がするし……どうするべきか。
「腹の探り合いは苦手だから直球で聞くけどな、その力は異世界の……ミソロジアの英雄のものだろ?」
「……え?」
「前の坊のことは調べたが、俺と同じで魔力が無かったそうだな。それで一ヶ月前に目が覚めてサモナーの能力を手に入れたと思うんだが……合ってるか?」
ナニカを勘違いしているようだが、今の会話でどうしても無視できないものがあった。それは【異世界】そして【ミソロジア】という単語、この世界の人間がそれも転生してきたラウラ以外から聞くと思ってなかったその単語に思考が止まってしまう。
「その反応的に当たりのようだな。そうなると英雄の記憶であの敵を知っていた――って事か?」
意味深に微笑み、確信を突くように大和さんはそう言ったのだが、かなり違う内容になんて言っていいか分からないが。俺の知らない情報を知っている可能性を感じ、俺は素直に自分のことを話すことにした。
「えっと、異世界の力ってことはあってますけど、これ一応俺の力です」
「詳しく頼む」
流石に霊真を乗っ取って今の俺がいるというのを話すわけにはいかないので……少し嘘を交えながら彼に俺のことを伝える事にした。
「つまりあれか? 意識を失ってる五ヶ月間の間ミソロジアにいてそこで力を付けたと?」
「まあ……大体そんな感じですね」
「まじか、さっきの俺めっちゃダサくないか?」
「……それは分かりませんけど、大和さんは何故ミソロジアのことを?」
そう、気になっていることはそれだ。
この世界の住人のはずの彼がどうしてミソロジアのことを知っているのかは、霊真に体を返す手がかりになるかもしれないから。
「まず坊は覚醒者ってどういうものか知っているか?」
「魔力に突然目覚める人とは聞きましたけど」
「そうだな大体合ってる。だけどな、覚醒者にも種類があるんだ。基本は坊がいったそれ。で、もう一つが異世界の力を覚醒させた奴らだな」
「…………というと?」
「第一覚醒者って呼ばれているんだが、俺やそいつらは異世界であるミソロジアに存在していた原典を覚醒させ力を得ている。俺で言えば、大蛇殺しの英雄の原典だな」
やばい情報が大きすぎる。
……え、どういう事だ? この世界はやっぱりミソロジアと繋がっているって事であってるのか?
「坊も同じで原典を覚醒させて異世界でサモナーの力を手に入れてると思ったんだが、まさか異世界そのものにいってるとはなびっくりしたぞ。あーでもどうするか、これ結構な機密で慎重に探れって言われてたんだが、まさか以上の爆弾でやばいな」
「……あの異世界の存在って不味いんですか?」
「そりゃあ、あの世界の事を知っているなら分かると思うが、この世界に現れるダンジョンに存在する魔物とあっちの魔物の差は分かるだろ?」
「そう……ですね」
「危険度が格が魂の密度が違う化け物ばかり、それも大半が神話の悪とされる怪物達で埋まっていて、その暴力が振るわれ続けた神話世界。政府としては絶対に触れたくないそうでな……その記録を持ってる第一覚醒者達は保護されてるんだよ」
それを聞く限り、俺の存在は爆弾そのものだ。
だってあれだぞ? 記録しか無い現状で異世界そのものを知っているというのを考えると、尚更このことは隠さないといけない。
政府を頼るという道は僅かにあるが、完全に信用など出来る訳がないし。
「大和さんこのことって黙って貰うこと出来ますか?」
ダメ元で聞く。
政府所属でこの国の英雄である彼に頼むことではないかもしれないが、どうしてもこれは頼まなければいけない。
「あ、いいぞ――坊は孫の恩人だしな」
「え、軽くないですか?」
「そりゃあ俺も軽く振ったしな……それに元々、第一覚醒者だと聞いても別の報告するつもりだったし、変わらねぇって」
「……ありがとうございます」
「まあな、にしてもそうか……ミソロジアにいたんだな坊は」
なにかを噛みしめるようにそう言って、彼はこう続ける。
「なぁ坊、どんな奴らがいたんだ? よかったら聞かせてくれよ、参考にしたい」
刀を使う人だし、和国の話が良いかなと……生粋の武人であり戦闘狂である彼を見ながら俺は十分ほどあの世界の事を彼に語った。




