第78話:データロード
……夢を見ている。
両手に銃を構えて迷宮を駆け回る男の夢だ。
後ろには結界、中には沢山の人が守られていて迫り来る魔物の群とそいつは一人で戦っていた。
込められている魔法を使い分けて、一人の力で何匹もの魔物を倒す。
その場で魔石を銃に込めることで魔力を回復させ自分の事を無視しながらも誰かを守るために命を賭けている。
知らない光景の筈なのに……どうしてか懐かしさを覚えるその夢。
この状況の絶望を何より痛みを経験しながらも、俺は何も出来ない。
傍観者である俺は、どこまでも見ている事だけしか出来なくその男が傷付いていく光景を見守るだけ。
『ッ【トネール・インフェルニクス】!』
現れた巨大な翼竜に対して放つ極雷炎の一撃。
ただでさえ魔力が足りないのに敵を倒すにはそんな手段しか取れず、最後とも言える一撃を与えながらも彼は銃をしまって落ちている武器で戦い始めた。
無制限に湧いてくる魔物の群、この場にいるモノを守るためには無茶する事しか出来ず、あまりにも限界の状態で彼は……。
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「ふふ、レイマおはよう」
目が覚めるとリコリスに抱きつかれていた。
冷たい彼女の体温を感じながらも状況が理解できずに数秒間、さっきまで見ていた夢がその衝撃でぶっ飛びながらも放心すること更に数秒。
「……おはよう?」
「うん、おはよう――良い天気だよ」
彼女の言葉に釣られながらも部屋の窓から外を見れば確かに快晴。
それも雲一つない空であり、この状況じゃなければ起き上がって背伸びの一つでもしていただろう。
でもその前に気になることが幾つかあり……それを解消しないと先に進める気がしない。
「えっと、なんでいるんだよ」
「魔力安定のための診察だよ、メルリに頼んで出させて貰ってる」
「…………なる、ほど? でもなんでリコリスが?」
リコリスは魔力を見る目を持っているが、それでも治すという行為に適した召喚獣は他にもいる。それに、クシナダさん……改め紗綾さんの回復魔法のおかげで傷自体は殆ど治ってるし、わざわざこうして皆が頑張る必要は無いように感じた。
「じゃんけんで勝ったから?」
「じゃんけんで決めたのかよ……」
「公平だし、まあ皆ずるしようとしたけど」
「……想像出来るけど、よく勝てたな」
「私は運が良いから、勘で完勝」
まじで凄いなと思いつつ、俺はこの状況を誰かに見られるのは恥ずかしいので、ベッドから出て貰いそのまま彼女を話をすることにした。
「あ、メルリから伝言――「暫く強力な魔法は使っちゃ駄目だよ」だって」
「了解……まあ残当だな」
「そうだね、今のレイマがバハ姉喚んだらこうなるのは当然」
自分でもある程度分かっているが、今の俺の魔力回路をオーバーヒート直後と変わらない。この状況で負荷が掛かる魔法を使えば、霊真の体にどんな後遺症を残すか分からないので、暫く……それもメルリの許可が出るまでは魔法は控えた方が良い。
「そうだレイマ魘されてたけど大丈夫?」
「…………あー確かに変な夢見た気がするんだが忘れたから平気だな」
「ほんと? 結構酷かったけど」
「まじか、まあ……忘れてるってことは多分大丈夫だろ」
「なら……いいけど」
そう言うがジト目でこっちを見るリコリスはちょっと信じてくれて無さそう。
心配をかけるのも嫌だし、なんとか安心させたいが……この状況での気の利いた言葉なんて咄嗟に思いつく訳もなく頭を悩ませてしまう。
「いいこと思いついた――ねえレイマもっかい寝よう? 私が抱きしめる」
「えっと、却下で……」
「なんで? 人肌で暖めれば安眠できると思うけど」
「いや……今日は皆で集まる日だし、時間ねぇよ。それに……」
「それに……どうしたの?」
さっきまで抱きしめられていた感覚とか少し残る匂いとかを考えると恥ずかしいし、もう一度経験するのは一般的な男子高校生には酷だ。
「いやなんでもない。とにかくもう用事無いなら戻すけど何かあるか?」
「……特にないよ、ヘタレイマ」
「その不名誉すぎる渾名やめてくれ」
そんなやり取りを最後に交わして、俺は彼女を魂の世界に戻して出かける支度をすることにした。でも家から出る直前、どうしても今日見た夢の事が思い出せないはずなのに気掛かりで……どうしてか違和感が拭えなかった。




