第52話:久しぶりのダンジョンは
名も無きダンジョンに侵入すれば、そこには異界が広がっていた。
どこまでも続く森林に、中央に立っている巨大樹……異世界でも見たことのある光景で、仲間の一人を思い出してしまう。
「いや、ないない――流石にあいつレベルはミソロジーだって」
俺の仲間の一人である世界蛇と呼ばれるヨルムンガンド。
……そいつもこういうデカい木を住居にしていたのだが、もう二度と戦いたくないと思ってる奴筆頭なので、同じ存在がいないことを心底願う。
「……ないな、気配が無いし別の存在だろうとあいつがいれば流石に分かる」
それに事前に燐君達から貰ったものを考えると、このダンジョンはかなり安全な筈の異界型だろう。
「探知した限り……結構なじみ深いコボルトぐらいしかいないし……」
政府に結構情報を貰って知ったが、近年のダンジョンは難易度が徐々に上がっているらしいが……このダンジョンの脅威度に関しては今のところかなり低い。
「本当は【防人】っていう爺さんに依頼回るはずだったよなぁ」
急で申し訳ないとも言われたし……頼むはずの相手が武者修行に言ったとかなんとかで、俺に仕事が回ってきたようだが……話を聞く限り【防人】と呼ばれる人は、六十五歳ほどらしいのだが……あまりにも元気すぎはしないだろうか?
考えても仕方ないけれど……ダンジョンが現れただろう魔力がほぼ無かった時代の英雄とは多分凄いんだろう。語彙が無くて申し訳ないが、何も分からない状態でよくこの日本を救えたなと思う。
「一度会ってみたいけど、流石に今はお腹いっぱいかな?」
最近はラウラと再会したり、あのやべぇ科学者とも縁が出来たし……Sランクにあってばっかりなのだ。この世界のことを知れるのは嬉しいが、流石にカロリーが高いし……少しぐらい休憩したいので、今は出会わなくていい。
「まず必要なのは湧くモンスターの確認か、今回は攻略じゃないから……って釘を刺されたけど、変な感じだよなぁ――で、どうだリコリス? 右側終わったか?」
「うん、かなり倒してみて分かったけど……ここは洞窟型? との複合っぽいよ、前にルナと言った異界型とは違って、地面とか壁とかから湧いて出てくる」
「了解……というか流石リコリス、全部記録してくれたのか」
「うん……それに転移石も落としたっぽいから、いつでも帰れるし奥に行こう?」
「有能って言葉じゃ片付けられないなお前」
「もっと褒めて、出来れば撫でて」
流石にこの場で気を抜いて撫でることは出来ないので終わってから美味しいものでも食べに行こうと決めて――俺達はもっと奥に進むことにした。
「ここに来るまでにいたのは……蛾っぽいビックモスと、コボルトやゴブリン本当に自然環境で生きてた魔物が多いな……いるのは最高でもDランクだし、相当安全だ」
いたとしてもオークぐらいで、二匹しか遭遇しなかったし……本当に安全すぎるダンジョン。それが余計に俺の不安を煽るが、勘が鋭いリコリスが何も言わない時点で本当に安全なのかもしれない。
「警戒しすぎって言われるかもしれないが……今のところ良い思い出もないしな」
――と、そんな事を口にした瞬間の事だった。
感じるのは純粋な攻撃の意志、殺気などは無くただ斬るといういう意志のみが籠もった一撃が俺の方に放たれた。
あまりにも咄嗟な出来事に、反応が遅れるが……避けられないほどでは無い。
体を反らすことで回避し、戦闘態勢に入ろうとすれば――再度斬撃が飛んでくる。
それは、一回目とは違って明確な殺意が込められており……相殺しなければ危険――そうやって判断した瞬間に俺は一本の剣を呼び出して一撃を返す。
「あ、なんだよ人間か?」
相殺すれば、聞こえてくるのは威厳があるも少し年老いた声。
……敵の位置がわかった瞬間にリコリスが毒を放とうとしたが、その相手の声音に敵意が一切無かったことで俺は彼女を止めた。
「馬鹿見てぇな魔力の塊が歩いてきたから魔物だと思ったぞ、わりぃな」
「……それで死にかけたんだが?」
「人間だった場合も考慮して手加減はしたぞ? それにそれだけの魔力を持ち、存在感を放つ相手が防げないわけがねぇ――まぁ結果良ければよしって奴だ!」
「…………むちゃくちゃだよ。で……あんたは未調査ダンジョンに何でいるんだ?」
「あ? そりゃあ、俺の管轄の訳だし、普通に仕事してるんだが……坊こそなんで、ここにいるんだ?」
「え、仕事だけど……あれ、管轄ってあんた【防人】?」
着流しを着た……刀一本の老人と言うには若々しすぎる男性。
……その実力の一端を見たから分かるが、多分彼がそうなんだろう。
「そうだぞ。というかブッキングかよ、政府の奴に連絡した筈なんだけどなぁ」
「確か武者修行って伝えられてたらしいですよ?」
「……敬語やめろ――あーそう伝えたが、未調査ダンジョン行ってくるとは言ったはずだぜ?」
「……報連相って大事ですね」
「これ……俺悪いなうん、めんどくせぇが書類出せば良かったな……まっいいか、とにかくすまんかったぜ」
凄い軽いノリで謝られたが、こういう性格なのだろうということをすぐに理解できた。そして彼はそんなノリのまま続けて口を開いて……。
「自己紹介だが、俺は草薙大和、大層な名をしてるが、未だ修行中の剣客だ。よろしくな――召喚士の坊」
……それが現代最強と呼ばれる彼との出会いだった。
いや……これは後の感想なのだが、本当に現代最強ってやばいんだなってことを俺はこの後に嫌でも知ることになる。
「えっと、よろしくお願いします?」




