第40話:懐かしい夢
……夢を、見ていた。
召喚された異世界での……仲間との一時の夢を。
『なぁレイマ、貴様は何故そこまで頑張れるのだ?』
『……急になんだよ、明日最初の四天王と戦うんだぞ?』
魔王軍に所属している一人目の四天王との決戦前夜、紅い目をした銀髪の少女がそんな事を聞いてきた。その時は皆が寝静まった頃ということと、俺も眠かったから素っ気ない態度でそう返してしまった事を覚えている。
『すまないな、だが……どうしても気になるのだ。異世界から来たという貴様が、どうして私たちのために頑張ってくれるのかをな』
『そうだなぁ……まぁ元の世界に帰りたいってのはあるけど……』
『けど……なんだ?』
『……俺と契約してくれた皆と……あと、お前達に笑っててほしいからかなぁ』
……それは、俺の単純な願い。
この世界には悲劇が溢れている。俺のいた現代と比べると戦争ばっかりだし、魔物沢山で命が軽いし、何より全然頑張って生きる人に優しくない。
そんな中で歴代最強だとかいう魔王に脅かされてる世界だ。
俺も底なしの善人って訳じゃないし、助けてくれと言われたから助けるって訳でもないけれど、ただ――俺と関わってくれた人には笑っててほしいって願いがある。
『俺ってさ、才能ないし……殆ど戦えるのはルナ達や、お前等のおかげだからさ、その恩返しだ。いつか帰る時までだけど、それまでは頑張るんだって決めたんだよ』
俺を召喚した国曰くだけど、異世界人を召喚に成功した例は俺が初めてらしい。
それも本来なら契約出来る魔物を召喚しようとしたらの事故らしく……本当なら俺に戦う義理もなかった。でも、この世界で出会った召喚獣の皆や今旅を共にしている仲間達の事を想うと……何もしないのは嫌なんだ。
『まぁそんだけだよ……というか本当に急にどうした? お前らしくないぞ?』
『ふんっそんなの簡単だ。あまりにも愚直な貴様がどんな思いで戦ってるか気になっただけだ。それ以上のものはない』
『あーそれはお前らしいわ。で、どうだ? お眼鏡にかなったか?』
『納得は出来たな、貴様らしい阿呆の理由だ』
『なんだよそれ、酷くね?』
『当然の評価だ――だけど、嫌いではない』
『ふーん、夜騎士様のお気に召したようで何よりでー!』
俺は難聴系の鈍感男ではないのだ。
それにルナ達のおかげで聴力は上がってるし、小言ぐらいは聞こえる。
『なっ貴様勝手に聞くでない!』
『言った方が悪いと思うぞ?』
『レイマ寝てないのか? 明日決戦だぞ?』
騒いでいたせいか、獣人の戦友が眠い目を擦りながら起きてきたので、何があったかを話そうとする。
『あ、悪い戦友。それより聞いてくれよ、こいつがさぁー』
『くっ殺せぇ!』
そこで夢は途切れている。
それは、とても懐かしい異世界での記憶。色褪せてしまった思い出の一つ……大切な大事仲間とのもう経験できない会話の一端だった。
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「……あー朝からおもい」
ペルセウスと戦って早四日、起きた瞬間の感想はそれだった。
……何が悲しくて、異世界での夢を見なきゃいけないんだよとか思いながらも、俺は少し憂鬱な気分で下に降り朝食の準備をはじめようとする。
「ってもう昼だし、寝過ぎだろ俺」
下に降りて時間を確認すれば、時間は午前11時。
殆ど昼って言っていい時間だし、かなりぐっすり俺は寝ていたんだろう。土曜日とはいえ両親は既に仕事に行っているし、ちょっと寂しい昼食だ。
「えっと今日の用事は……あー攻略記念のお疲れ様会か」
ここ数日はダンジョン関連の話で政府が管理する建物に行って色々手続きしたり、なんか取材が押し寄せたりと大変だったせいで忘れていたが、今日はあの【星の大海】を攻略した記念にカグラさんの家でパーティーを開くことになったのだ。
そのついでにだが、式達に俺の状況を説明するつもりだったし……結構大事な日なのである。そんな大事な日にあの夢を見たってので既に気分が重いけど、まぁ何とかやろう。
「――あれ、そういやパーティーは十二時からだったような……あ、飯作ってる場合じゃねぇ!」
途中でに気づけて良かったと思いつつ、俺はすぐに支度をして――ルナを呼んでからステルスを使い姿を消して、カグラさんの家があるという高尾山へと一気に向かったのであった。




