第36話:汝等は英雄なりや?
「――【トリアサモン】」
ペルセウスは半神だ。
それを考えると……最適な仲間はルナとソル、そしてギリシャの英雄である以上、リコリスの奴が詳しいだろう。
いつも以上に、魔力を籠める――そして、俺はルナに乗り……ペルセウスの前に姿を現した。
「よぉ、さっきぶりだな英雄様」
「……そっちこそな、雰囲気変わったか?」
「そうだな。ちょっと、親友と話してさ。まぁ、なんだ……ここからが今の俺の全力だ――耐えろよ?」
その瞬間に、俺は召喚獣全てに魔力を送る。
……そしてそれを見た英雄は、深く――心の底から笑みを浮かべた。
「ははっ――最高かよ」
「神殺しの双狼よ、月と太陽の権能を喰らえ――原典解放 【終末形態】」
そしてそれを唱えれば、彼女らの姿が変化する。
巨大な狼から人のものへ――そんな、ソルとルナの四肢には冷気と焔が纏われて、その背中には月と太陽そのものが浮かびあがる。
これは異世界での二人の最終形態。彼女らの原典であるスコルとハティが、神々の黄昏であるラグナロクで太陽と月を飲み込んだ姿だ。
「そしてリコリス――お前の毒を俺に捧げろ」
「うん――任せてね、全部沈めるよ【|トゥレラアンシシ・リコリスヒュドロス《狂気を咲かす毒蛇の彼岸畑》】」
式の奴には解毒薬を渡してあるしかなり離れて貰ってる。
……だから、遠慮する必要はない。
彼岸が世界を支配する……この星の大海に彼岸の華が咲き誇る。それからは常人ならば一瞬で溶ける程の毒が流れ出し、このダンジョンという異界の全てを蝕んだ。
「【ウェポンサモン】――リコリス・デスサイズ。さぁ死合おうぜ、ペルセウス」
「あぁミソロジアの英雄よ、今からお前が挑むのは神話の一つ。蛇神殺しのペルセウスだ! さぁ存分に殺し合おう――俺という試練を超えてくれ!」
彼の姿が変化する――魔人の如き姿から、人の英雄のものへと。
そして、この世界で――俺の全力の殺し合いが始まった。
――――――
――――
――
焔が走る――冷気が世界に充満する。
……太陽の焔と月の冷気が蛇殺しの英雄を殺さんと脈動し続ける。
「ヘリオスの焔か! それにセレネの如き冷気――イカれてるな、その狼達!」
「ざんねーんボクの炎だよ~――それにしても、お前はレイマ傷つけたよな? 早急に死ねよ」
「流石に英雄はキツいよお姉ちゃん――まぁ、殺すけどね」
二人の拳には……己の本質である神殺しの力が乗っている。
それは彼女らが放つ魔法全てに籠められてるもので、掠るだけでもペルセウスという男を削っていた。
「神ならば死ね――ボク等フェンリルの血族の牙と爪、存分に喰らうと良いよ?」
「はっ――反則だなそれは」
「――お前にだけは言われたくないぞ」
「違いない――俺程祝福を受けた英雄はいないからな」
俺も俺で鎌を振るい……確実に命を削っていく。
毒に耐性がある俺とは違って、ない筈のペルセウスがここまで動けるのは予想外だが――英雄だしその程度は許容範囲。
「ぐっぅ――ヘラクレスはこれに耐えたのか、流石は最強だ。俺も耐えてみるか」
「それで耐えれるのおかしいだろ……疾く死んでくれ、俺の魔力もキツいんだ」
……魔人の姿の方が強いなんて事はない。この人としての姿が彼の本気、英雄の実力だ――一瞬たりとも手加減なんか出来ない、気を抜いたら死ぬ。
それが分かるから、異世界での経験をすぐ側に感じた。
「――俺の盾も神性由来だから防げないんだよな、そこんとこどうだよ英雄?」
「知らねぇよ……じゃあ使うな」
「それはそうだな――じゃあもっと速く行くか、タラリア!」
空を飛ぶまでは行かないが、宙を駆けて疾駆するペルセウス。
見たことのない星の光のような魔法すら使い、鎌を片手に俺等を削るも――俺の回復魔法が瞬く間にそれを癒やす。
「――くはっ、ハルペーの傷すら癒やすか!」
「そりゃ本職天才サモナーだからな! こんなの余裕だよ」
「じゅあ今度は忠告無しだ――どうする?」
また兜が被られる……姿が消え、存在そのものが世界から隠されるも――今の彼岸畑がそれを許さない。
「ソル、ルナ――分かるだろ?」
「とうっぜん!」
「……任せてますた!」
この場所には――世界すら侵す毒が充満している。
そんな場所で、全てを遮断する完全ステルスなんて使えば――逆にその存在は浮いてしまう。本来ならそれに気づかないこの男ではないが、この状況なら使うと信じていた。俺を確実に潰すために、追い詰められた状況ならと――。
「俺もそれでリコリスに殺されかけたからな、やるよな普通!」
「……忘れて、あれ黒歴史」
敵が消えた瞬間に、すぐに相手を感知した二人が本気の攻撃を消えたペルセウスにへと叩き込む。
「ッ――直に受けると、威力やばいなそれ!」
「まだ死なないか――なら、頼んだリコリス」
「うん――さぁ、咲き誇れ彼岸の華」
そして今まで世界に充満していた毒が、全て此奴に牙をむく。
……毒がありとあらゆる武器の形を取り、彼の体を串刺しにした。この世に存在するあらゆる毒という概念そのもの、それは確実にペルセウスを削り取る。
「――ッッガ――だが、この瞬間を待っていたぞ!」
俺等が必殺を叩き込んだ瞬間の事――彼はそう言って、魔法を放つ。
それは先程俺等を壊滅に追い込んだ――ゴルゴーンの首、でも俺はその攻撃のみをずっと待っていた。
「【ゴルゴン・パンデモニウム】!」
「――【サモン】」
そうやって静かに告げる。
……あの魔法には多少のラグが、それにこの魔法を使う瞬間だけだが相手は盾を使えない。だからこの瞬間のみをずっと待っていた。
「アルゴル・ゴルゴーン」
「最っ高のタイミングだぜレイマ、お前に恨みはねぇけどさ――一応オレの仇だし? 石化しやがれペルセウス!」
現れるのは……裸眼のアルゴル。
その瞬間に相手に視線が送られて――相手の足が石化する。
「――トドメだ」
生まれるのは――ほんの些細な刹那の隙。
それを見逃す俺ではなく――確実な必殺を叩き込む。
「【デス・リコリス】」




