第31話:召喚獣との休日
色々なことが起こってから約三日……学校が五日間休校となり、とにかく暇だったが……やることもなかった俺は自室で過ごしていた。
というか……黒ローブである俺の話題があまりにもSNSやダンチューブで話題となっていて、迂闊に外に出られないのだ。
「影響力やべぇよ」
そんな事をそろそろ話題落ち着いてないかなぁと願う俺は呟きつつも、今日も元の霊真の技術を得るために魔法の練習をしていた。
「……というか今の魔力量じゃ呼べない奴いるんだよな」
異世界で得た魔力に関して色々分かったが、まだ完全にこっちの霊真には馴染んでないのだ。本当なら馴染まない方が良いのだが、これから先ベヒーモスクラスの魔物が出ると考えると……早急に異世界の全盛期の魔力を得る必要がある可能性がある。
俺の切り札と呼べる召喚獣を呼ぶには、全盛期……それこそ魔王を倒した時の魔力が必要で――もっと魔法を使って馴染ませなきゃいけないが、それを霊真の体でやっていいかが分からない。
「とりあえず……かなり暇だし、誰か呼ぶか【ランダムサモン】」
ベヒーモスに一方的に契約されてからなんだが……皆の反応が怖すぎて誰も呼ぶことが出来なかった。だけど、強制加入しやがったあの子がいまどんな生活をしてるか気になるし、誰か呼んでみて確かめてみようという思いで……俺はランダムに一人を召喚した――いやしてしまった。
「レイマー! やっとオレを呼んだのかよ! 遅いって!」
現れたのは地面に着くほどの紫髪をポニーテールにまとめた眼鏡美少女。
……蛇のような金の瞳をした彼女はまるで美術品と言える程に顔が整っており、どこか活発なイメージを与えてくる。
ギリシャあたりの服装らしいキトンというものを纏った彼女は、現れたと同時に俺を抱きしめ押し倒してきた。
「……アルゴルかぁ」
「むっなんだ? オレじゃ不服か?」
「いや、全然……ただちゃんと眼鏡してるんだなって」
「そりゃあそうだろ、次のサモンはオレの番だったし……裸眼だと被害凄いし」
「……よかったよ、こっちの世界じゃ多分全部石化してただろうし」
「まぁオレは常識ある方だしな、レイマの契約してる蛇系の自称良心だぜ?」
自称というか、まじでアルゴルは常識人だし何も言えない。割と適当にランダムで呼んだからやばい奴が来る可能性もあったし、状況を把握するという点に関しては彼女が適任――それを考えると一番常識的な仲間が呼べただろう。
「というか……オレの番って? ランダムで呼んだはずなんだが」
「そこは内緒なんだけどよ、他の部分は説明してやるよ……あ、でもその前になんか甘味ないか? 甘い物食べたい」
「いいぞ、確か昨日ケーキ貰ったからそれ食べようか」
そういうことなので、俺は一度一階へ行きそのまま冷蔵庫にあったケーキを二つ取ってから自室に戻った。丁度アルゴルの好物だった筈のイチジクのケーキがあったのでそれを彼女に渡し、俺達は話をする。
「えっと……まず話は新入りが入ったところからだな」
「あぁーベヒーモスかぁ」
「そそ……あいつが無理矢理契約したせいで、何人かがキレてさ――それでワイルドハントの奴がベヒ子に喧嘩売ったんだけど……まぁ案の定返り討ちで」
「バアル……お前」
俺の召喚獣の中での妄想癖が激しいが常識人ではあるバアル・ワイルドハント。数少ない男であり、頼れる奴なんだが……いまいち戦績が良くない奴。
あったことを思い出しながらもケーキを食べ進め、フォークを回しながらもここ三日間俺の魂の世界でのことをアルゴルは教えてくれる。
「それで……余波で休んでたウロボロスとヨルムンガンドが暴れ始めてぇ、ラグナロク勃発。面白がったアポピスとアジ野郎が大会開こうぜって不満ある奴を唆してさ、ティタノマキアみたいな戦争になって……それに乗ったメリルの馬鹿とかが闘技場作って――勝った奴が次に呼ばれるって事になったんだよな」
「人の中で何やってるんだよ……というかアルゴルが勝ったのか?」
「あり得ないだろそれは、オレじゃ上位陣には逆立ちしても勝てねぇって――まぁ大体分かるだろうが、五月蠅くしすぎて起きたバハ姉が参加者全員蹂躙して終わりって感じだったぜ」
「…………グラム、やり過ぎてないよな?」
「まあそこはバハ姉だし、やり過ぎたよな」
……俺の切り札の一人であるバハ姉と呼ばれる仲間。
個の戦闘力だったら確実にトップな彼女が治めてくれたのは良いが、人の体の中で黙示録も真っ青な戦争が起こってるとか笑えない。
「あれ、それじゃあグラムの奴が来るんじゃないのか?」
「性格知ってるだろ? 呼ばれるタイミングでいつもみたいに日和ったから、オレが代わりに来た感じだな」
「それはなんかもう……お疲れアルゴル」
「見てて楽しかったし、お前に会えたから全然問題ねぇぞ」
「…………お前らしいよ」
「あ、そうだ……ベヒ子の奴から伝言、近々やべぇダンジョンが出るらしい――なんでも、ミソロジーダンジョンとかいうの」
「……直訳で神話の迷宮だけど、それってやばいのか?」
ダンジョンから呼び出されたあいつは語らないが色々詳しい奴だ。
……そんな彼女が仲間になったことは心強いんだが、如何せん愉悦主義な気があるしあんまり教えてくれないんだよな。
「……しらね、でも――オレの原典が疼いてるんだよな、だから……そのダンジョンが出たらオレを呼べ、何か分かるかも知れねぇ」
「ん、了解……アルゴルの頼みなら聞くわ。というか新しいダンジョンが出来るとかいう爆弾あんまり知りたくなかったんだが」
「ま、しゃあねーって……とりあえずベヒ子の話だとそろそろ……」
そう言って、アルゴルが言った瞬間にスマホから大音量の警告が流れ始めた。
それは緊急ダンジョン速報というもので……渋谷の空中に謎のダンジョンが出現したという内容。
「……どう考えてもそれだよな」
「まぁ……そうだろうな――どうするんだレイマ?」
「……ひとまず、静観で。今攻略するのは不味そうだし」
「おけ……じゃあ出るとき合図出すからその時に呼べよな」
そこでアルゴルを戻し、俺は新たなダンジョンの情報を集めるためにパソコンを起動した。




