第27話:スタンピード
ルナに乗ってダンジョンを駆ける。
この姿を知り合いの前に晒すのは初めてで、いらない不安ばっかりが募っていくが……それでも俺は綾音達を助けたい。
「っと魔力反応……は流石にダンジョン内だと感知は無理か」
規模を先に確かめときたいと思ったが、魔力で出来たダンジョン内で魔力の塊を探すのは普通に無理。召喚獣の中には出来る奴がいるが、そっぽ向いてそうで呼べないし……。
「というか速いなカイザー」
あいつが行ってから数分で向かったはずなのに、未だ背中が見えてこない。
それほどまでに龍種の――その中でも最上位であろうヴァルキュリアの能力に驚かされる。
「でも剣戟音もしてきたし、そろそろだろ」
耳を澄ませれば聞こえてくる魔法の発動音と武器の音。それに魔物の怒号や悲鳴……までもが耳に届いてくる。
「ッきついでござるな!」
「カイザー加わったけど、この数は――ちょっと厳しいかもね」
「霊真のサポートが欲しくなるな……」
「くははは……弱音を吐いてる暇があったら戦うぞ貴様等! ――ってどうしたヴァルキュリア!?」
慌ただしくもいつもの綾音ともう慣れたカイザーの声。ヴァルキュリアに気づかれたようだが、それは好都合と思いながらも下層へと飛び込み、彼等の周りの魔物を一掃した。
その場を埋めていた数十を超える魔物の群は、ソルの炎に耐えれず消えて……少しだけだが会話の時間が作られる。
「ッ何者でござるか!?」
「狼? それに――龍!? 増援はきついかも」
「後ろからだと!」
「――まて誰か乗ってるぞ……む、貴様は――謎の漆黒を纏いし者!?」
流石の皆の強さなのか、綾音達は俺の存在にすぐ気づいて声をかけてきた。
……というかカイザーなんだその渾名、何も正体が分からないぞ?
「……知ってるのかよバカイザー」
「馬鹿は止めろ式……此奴はあれだSNSで話題になった黒ローブだぞ……この状況、もしや援軍に来たのか!?」
「…………本当に援軍か? タイミングが良すぎ――」
「――しかし、格好いいなその黒ローブ、我も少し欲しいぞ」
「……やっぱ馬鹿だろお前、敵かも分からない奴の装備ほしがるな」
「でも……助けてくれたよね、今……貴方一応聞くけど何者なの?」
綾音の奴にそう聞かれて、少し返答に困り……ちょっと考えながらも時間がないと思った俺は。
「……えっと、ダンジョン黒ローブ?」
「その名乗りだと魔物だぞお前」
「あ、ナイスツッコミだ赤バンダナ」
「よし、こいつなんか分からないけど安全そうだな! ――余裕ねぇし続きやるぞ!」
「一番の馬鹿は式ではないか?」
「ずっとバフを維持してるからね、疲れてるんだと思うよ。だから一緒にしない」
「……でだ漆黒のダンジョンローブよ、貴様は確かサモナーだったな?」
なんかはっちゃけてるように見えて、一番冷静だったカイザーがそう聞いてきたので、俺は肯定の意味を持って頷き……そのまま話を続ける。
「地上で配信を見て援軍に来た――足は引っ張るつもりはない」
「頼もしいが、他に何が出来る?」
「他者の支援に攻撃魔法、ある程度の近接は出来るはずだ……まぁ信用できないだろうが、任せてくれ」
「っとそろそろ敵さん来るでござるよ! 話してる暇あったら戦うでござる!」
「了解だ――ルナ、ソル……遠慮なくやれ、蹂躙しろ」
俺がそう命じれば、ソルが焔を解放して天井付近に太陽が現れる。そして続くようにルナが冷気を放出し、辺り一帯が極寒へ変貌した。
「……そしてリコリス――お前は突撃しろ、毒に沈めてこい」
そしてリコリスにも命じれば、彼女は一人で敵の群に突っ込んで暴れ始めた。
彼女が戦い始めた瞬間に周囲五メートルに霧が立ちこめて、それに触れた魔物が一瞬で毒に侵されてか命を落とす。
残りは……まだ五百以上はいそうだが、まぁ……今のままならなんとかなるだろ。
「右方向は俺等に任せろ、全部倒してくる……それと霧に触れるなよ、一応人体に有害じゃないの出して貰ってるが……普通に危険だ――じゃ【ウェポンサモン】」
――――――
――――
――
現れた黒いローブの男。
それにあっけを取られてしまったが、その戦力はあまりに高く……あれほど苦戦していた魔物達があっという間に倒れていく。
「あの狼達やばすぎるでござらん?」
「そうだな、我が今まで対峙した中でも最上位だろう……というか、アレレベルにあった事などない」
「極めつけは……あの九頭龍だろうな――俺等が戦ってた魔物はA+以上だ。それを一瞬で殺す毒なんてやべぇ――綾音はどう見る? あいつ危険だぞ?」
先程から黒いローブの男を見て、黙り込んでいるパーティーメンバーに声をかける天ヶ瀬式。彼は勘の鋭い彼女の判断に従う事を決めながらも、未知の存在である黒いローブに対する意見を求めた。
「いい人っぽいかな? 敵ならとっくに私たち殺されてるよ?」
「お前がそれだけ言う相手かよ、バカイザーは?」
「格好いいから良い奴だな!」
「ほんと馬鹿だろお前、まぁいいや――警戒は俺はしとくからな――で、最後にカグラ……は、うんやっぱり意見待つ前に行ってるよな、戦闘狂だしあいつ」
――
――――
――――――
「黒ローブ殿! ……速いでござるよ!?」
「え――なんで付いてこれるんだ?」
縦横無尽に駆けながら敵を倒していると、俺にカグラさんが話しかけてきた……え、なんで追いつけるんだこの人は?
魔法で限界まで強化したはずの俺に追いつく、Sランク冒険者。
シンプルに怖いと思ってしまったのは仕方ないだろう……。
「拙者足速いので! それより、今何してるのでござる?」
「えっと魔法準備中、この空間に残ったソルの熱気を溜めてる感じだな」
「つまり炎を溜めてるのでござるか?」
「まぁ……そうだな――ってあんたは何する気だよ?」
やることを伝えた途端に、彼女が刀に黒い炎を溜め始めた。
急な行動に驚いていると、不思議そうに首を傾げながらも――。
「手助け……? 炎が必要っぽいので、拙者の炎を貸そうかと」
「それ炎であってるか? 明らかに禍々しすぎるんだが……」
「そりゃあ拙者の家に秘伝の術でござるからな! 格好いいでござろう?」
「……まぁいいや、魔力残してくれれば操れるから一発でかいの頼む」
やばそうな炎だけど魔力には変わりなし、その理論で言ったのだが……放たれたそれはその場にいたキマイラっぽい魔物を両断した。
そしてその場に残量した魔力を俺は、空中にある太陽へと送り――。
「一気に必要量足りたし――まぁ、これだけあれば一掃できるだろ――【クルーエル・サンランケア】!」
――直訳すると無慈悲な太陽の槍。
それを俺は魔物のみに狙いを定めて放ち――全ての魔物を貫いた。
「――よし終了」
……訪れるのは静寂、全ての魔物が魔石となって残されたこの場所で――俺が皆の方に振り向けば、無言でこっちを見つめられる。
何を話そうか……それと、速く離れた方が良いかもしれないという考えが埋める中……魔法の気配を俺は覚えた。
「ッお前等離れろ!」
【スタンピードの突破を確認……驚異の上昇を記録、試練を開始します】
周りに落ちていた全ての魔石が光り出す。
いや、それだけじゃない――魔石が地面に溶けていき、魔方陣を描き出したのだ。
【驚異度に合わせ、最適な魔物を召喚します。其は獣の起源、其は始まりの五日に生まれし神に仇なす者――其は大地を滅ぼす原初の魔獣なり――【ターミナス・サモン】】
異常に渦巻く魔力に――どこからか聞こえる召喚詠唱。
そして、最後に魔法が告げられて――。
【……其の名を魔獣統べる厄災――ベヒーモス】
その存在が、厄災の名を冠する化け物が姿を現した。




