第164話:デートをしましょう!
気付けば俺は、街中にいた。
変哲のない、それこそ一切のダンジョンが見えたらない世界。
俺が知ってる、元の世界の景色。それは、ずっと俺が帰りたいと思ってた者で、今は帰れない、大切な場所。
呆気にとられていると横には俺の手を繋ぐ、シエルがいて……そして、俺の前にはレヴィさんがいる。
「色々話したいので、みんなでデートしませんか?」
この状況を説明して欲しかったけど、そんな雰囲気ではなく流されるままに俺はこくりと頷いた。
「では早速行きましょう、まずはゲーセンです!」
迷い無い足取りでゲーセンへと向かっていく嫉妬の魔王様。
俺達以外に誰もいない空間で、無邪気に笑う彼女はとても楽しそう。
「霊真さん足止めないで下さい、時間は有限ですよー!」
楽しんでいる彼女には野暮だし何も言わない。
だけどこの大人びた容姿で子供のように外ではしゃいで笑う嫉妬の蛇。どうして俺がこんな場所にいるか分からないが、悪い気はしなかった。
「ますたーレヴィ足速い」
「それだけ楽しみなんだろ、とにかく付き合おうぜ」
「んー楽しむ」
「そういうシエルもテンション高いよな」
「だって、こういうの初めてだから」
そう言って笑う彼女は、本当に楽しそうで……生き生きと先に進むレヴィさんを見て嬉しそう。俺もそんな彼女たちを見て、嬉しいし……と少し笑う。
「付きましたね、早速ゲームです」
「目当ては何だ?」
「ふっふふ、それはまさしく――クレーンゲームです。ここで格好良く私が景品を取って霊真さんを惚れさせます」
「俺、そんな単純じゃねぇぞ。それになんだが、どこの知識だよ」
「ギャルゲとインターネッツ」
ネイティブっぽく、いや外国の存在ではあるし本来の言葉なんだろうが、ちょっとドヤ顔気味に発音する魔王。今更ながらに日本語上手いよなと場違いな感想を浮かべながらもお金を渡して彼女を見守ったんのだが……。
「うわあああん! 一つも取れません! 酷い設定です!」
「……案の定というか、お前らしいな」
「なんで、なんで――試しにやったゲームだと簡単に取れたのに……」
「そりゃあゲームだし」
「同じゲームじゃないんですか!」
「まあ……洗礼だよな」
「獲って下さい霊真さん、ついでに仇も。出来ればこののぼせメンダコのぬいぐるみを速く! 凄く可愛いので」
敗走して俺に頼った彼女は、見るからにデカいゲーセンの中でもかなりの人気になりそうな景品を図々しく指定して……俺の後ろに待機した。
魔王と名乗る彼女らしからぬ三下ムーブ。
自分の格を守る気あるのかと思えるほどの行動にくすっと笑いながらも鍛えた視力とクレーゲーム力ですぐに景品を取った。
「とぅんく?」
「……いらないぞその効果音」
「じゃあずぎゅーん」
「レヴィさんがこの世界で何の漫画読んだかは理解したわ」
「それにしても、凄い指捌きでしたね……まさか300円で取るなんて」
「慣れてるし……じゃあほら、黒いメンダコでよかったか?」
俺の手の中にあるのは、頭にタオルを乗せてのぼせたような表情の黒色のメンダコだ。綾音の情報でその存在だけは知っていたが、確かにこれは人気出そうな可愛さをしている。
「好感度が上がりましたよ霊真さん、良い心がけです」
「ナビの妖精みたいな台詞止めろ」
「やっぱり想いは口に出さなきゃいけないでしょう?」
「……いちいち恥ずかしいから止めてくれ」
素直に、それこそ笑顔でそう告げてくる彼女に伝えれば勝ち誇ったような笑みで俺の手を取って歩き出す。
「次はこれです! FXカピバラ!」
「……これは、なんだ?」
「今朝調べたら新作のぬいぐるみだそうです……この緩さを感じるカピバラと悲壮感漂わせる有り金を溶かした表情が人気でキャラクター化してるらしいんですよね」
「誰だよ考えた奴」
「え、メンダコさんと同じ会社……ですよ? ちなみにちゃんと現実に存在します」
何を当然なことをやれやれ……そんな風にわざとらしく呟く彼女。
ぬいぐるみを集めない俺にとっては知らない情報だし、それでマウント取られるのは心底どうでも良いが……無性に腹が立ったのでデコピンした。
「むッ――しゃー!」
「威嚇するな魔王、カピバラが逃げるぞ」
「霊真さんに対しての威嚇なのでせーふ、そもそもなんでデコピンなんてっ!」
「ムカついたから」
「理不尽じゃないですか?」
いや、理不尽なのはあんたの強さだと思うけど。
「なぁレヴィさん、そういえば弱点とかあるのか?」
「激辛ニンニク牛丼、陽キャ、でかい十字架ブーメラン」
「それっぽい弱点を並べんなよ……」
「魔王っぽいでしょう?」
確かに怪物退治の書物に書かれてるような物を上げてくれたが、言葉に起こした時の字がそれっぽいだけで、全然関係なさそうだった。
「ずれてると思うぞ、それに多分それラウラの弱点」
「へへ、あーあとは誰でも死ぬ銀の武具で心臓刺されたらおじゃんですね」
「あれ、弱点とかじゃないのか?」
「良いですか霊真さん、どんな生物も心臓に銀の杭を打ち込まれたら普通死にます」
「……それもそうだな、生きてたらこえぇわ」
考えて見れば当たり前だが、一般的な生き物は心臓刺されたら死ぬよな。
「じゃあ次は霊真さんの弱点です。教えて下さい」
「黙秘で……」
「えー教えて下さいよ! 辛いものとか心霊スポット……あとは糞耐久のボスとかぁ、びっくりするタイプの海外ホラゲー! とかとかいっぱいありそうですよ?」
「……なぁおい、シエル?」
「知らない誰かが教えたんじゃないかなー。そもそも、私は新参」
魔王の口からでたのは、全部が俺の苦手な物だった。
それを知ってるのは長い付き合いのある仲間のみだろうが、誰が話したか分からない。ジト目でシエルを睨んでみれば、素知らぬ顔で視線を逸らしやがった。
「ねぇねぇねぇ霊真さん霊真さん、なんで苦手なんですかぁー?」
「うるさい、カピバラ取るから静かにしてろ」
「あ、黙りますねー」
現金な奴め……これだから魔王は。
まあ話を変えるのにもちょうど良いし、そのままカピバラを獲った俺は満足そうな彼女に渡して次の目的地を聞くことにした。
「そうですね、次は……遊園地、いや水族館? あーでも、公園が良いです。確か近くに自然公園がありましたよね?」
「そんなのもあるのかよ」
「気分ですので! ……ささ、行きましょうよ霊真さん、シエルちゃん!」
「私も行きたいからますたー急いで」
シエルと共に手を引っ張るレヴィさん。
そんな彼女に連れられてやってきたのはだだっ広い公園。
「はぁ、まあ今はあんたに付き合うって決めたらからいいけどさ」
「ふははは、これが魔王パワーですね」
「はいはいお姫様、仰せの通りに」
「まさかっ――遂に私は姫属性を!?」
仰天びっくりと言った風な大げさなリアクションで、そういった彼女は嬉しそうに笑った。
「これが好感度調整の力、禁断過ぎる」
「すまんやっぱりなしで頼む。そこにいるんだわお姫様、他にもいっぱい仲間にも」
「寝取られた!?」
「寝てから言えだし、先シエルと皆」
「未来視寝取り……だと」
「新しい単語を作らないでくれ」
「これが私クオリティーです、辞書登録しても構いませんよ?」
いらねぇよそんな辞書。
どこで使えば良いか分からないし、何より意味分からない。
この先の人生で使う場所などなさそうだし、使いたいとも思えない。そんな無い無い尽くしの四段活用。それほどまでに嫌だった。
「幻想コンビニでアイスも買いましたし、今は眺める時間です。びば子供達!」
「目当て小学生かよ」
「はい、子供好きなので! 一度生ショタロリを堪能しようかと」
「字面最悪だが、そこんとこどう思うシエル?」
「流石にキモい」
「だよなぁ」
この短い間で様々な彼女の一面を見たが、本当に無邪気にはしゃいでる。
とても変な出会い方をして、数日だけ一緒に過ごして、久しぶりの騒がしい日常で、疲れるけど少しほんの少し楽しくて、厄介事はあったけど……それでも、無駄にふざけるこいつのせいか気が抜けて。
……なんとうか、ここ数日色々濃かったなと。
夕焼けに照らされる公園を見ながらもそう思う。疲れたし、傷付いたし、彼女のせいで死ぬほど恥ずかしい思いもしたし、何よりもすっごい大変だったけど。
「なぁ、レヴィさん今どういう状況だ?」
「んーっと、私が負けたので最後の力でめっちゃ大きい結界に霊真さんと、ベヒ……シエルちゃんを閉じ込めました」
「理由は……まぁ、さっきまでのためか」
「はいっ! やっぱり遊びたかったので、本当だったらアレなんですよ? あの夜にちゃんと、話して、また遊ぶ予定だったんです!」
そういって腰掛けて笑う姿は、見た目相応の少女みたいで……何よりも誰よりも楽しそうにこの瞬間を生きているようだ。
「これからレヴィさんはどうなるんだ?」
「負けちゃったし回収ですかねぇ……どうでした? 私は、強かったですか?」
「あぁ、ほんっと強かった。今まで戦った中でも別格だし、まじでふざけんなって」
「ふふふ、それは嬉しいですね! だって私は最強の蛇なので! というか今更ですけど、どうやってシエルちゃんを倒したんですか?」
「みんなと一緒にレバ剣ブッパ」
それを伝えれば爆笑するレヴィさん。
不服だったのか、シエルが割と本気で小突いて……いや、ぽかぽか叩いてるし収拾つかなさそう。
「あはははは! やーい、終末獣の恥ー! って痛ったい! えっと流石にボロボロなんで加減してくださいよ!」
「煽った方が悪いとおもう、こんなか弱い私を煽るなんてさいてー」
「あれ、妙ですね? 今回煽られた数で言えば私の方が上だと思うんですけど?」
また喧嘩を始める二人を仲裁しながらも、俺は……彼女に問いを投げかける。
「なぁレヴィさん……聞かせてくれ。なんで、あの時に俺に声をかけくれたんだ?」




