第152話:でっかい烏賊
目測だけで十を超えるクラーケンの群。
ただでさえ巨大な怪物は、俺達が乗る船を囲むようにして現れた。
赤い体躯の者もいれば、白く烏賊のような者もいる……相対する俺は瞬時にルミアに無呼吸でいられる魔法をかけて、狩って貰おうとしたのだが――。
それをする前に……船が揺れた。
「ッマジででけぇなおい!」
船に乗り上げてくる一匹のクラーケン。
他の魔物よりも一際大きいそいつは船にしっかり絡みつき、俺達を殺すためか触手を使って攻撃してくる。
「おっもいね――でも、メルリさんよりマシだよ」
綾音が氷の盾を作って攻撃を防ぎ、弾いた時に生まれた隙をカイザーとラウラが合わせて触手を狩る。この瞬間に四本ほどの足を失ったクラーケンは怯んで後退したのだが――。
「やっぱり、治るよな」
ミソロジアにいたクラーケンも再生能力を持つ個体がいた。
それを基準とするとなると、こいつも治るとは思っていたが……それがあるならばキツすぎる気がする。
サモナーの特徴としての魔力の使い方は、召喚獣の顕界が主だ。
俺の場合になるのだが、より濃い原典を持っている奴ほど喚ぶときと召喚してるときに多くの魔力を消費する。
今の三人、バアルとルミアそしてベルフェを維持出来るのは最長で二時間程。
三人に短期決戦を任せればいける可能性はあるが……後のことを考えると。
「いや、綾音たちがいるんだ――ルミア、魔法使っていいぞ!」
「――! いいだね、ご主人、じゃあ全部――ぼくが破壊しよう!」
俺の一言でやる気を一気に上げるメイド様。
槍を構えて空を駆ける彼女は、目の前にいたクラーケンへと近づき――槍を突き刺し、そして次の瞬間に、目の前が爆せた。
一度爆発が起きたかと思えば、それを起点に何十回も連鎖的に爆発して、捕食者であったクラーケンは一瞬にして黒焦げに。
「うーん、十五回かぁ……デカいのに思ったより魔力少ないんだね」
ぺろっと……飛び散って自分に付着した血を舐めながらも、彼女は嗤った。
ルミア・アスモデウス。
それは色欲を冠するという魔王の一柱。
そんな彼女の本懐は、破壊と美徳でありそれに付随した能力が魔力に爆発する特性を付与するというものだ。そして今使ったのは、一度起爆した場合相手の魔力を触媒に尽きるまで爆発するという凶悪極まりないも魔法だった。
「さぁさぁ、お客様方……ぼくがもてなしてあげようか。次は、誰がいいかな?」
きっと今のが長だったのだろう。
一際大きかったそいつが死んだことにより、水中に隠れていたクラーケン達が一斉に姿を現した。ルミアだけを狙い触手を振るい空中を駆ける彼女を追うが、その全てが躱されて、槍を指されて爆発して絶命する。
「アハハハハ! どうしたんだい、海魔の群れよ……そんなのじゃぼくは手に入らない、もっと殺す気で来なよ!」
「興奮しすぎだ色欲、主の前だ」
「君だって暴れたらどうだい暴食! ――ってぼくの獲物だぞ!」
宥めるようにそう言うバアルは、槍の矛先から螺旋状の風を放ってクラーケン達の眉間を確実に貫いて殺す。十五はいただろう魔物達は、気付けば六匹ほどにまで減っており、このままなら犠牲無しで進めるだろうと――思ったときだった。
船が揺れたのだ。
大きく、それもとても激しく揺れだして……俺達のバランスを崩しにかかる。何があったかと思い下を見れば、海中にいたクラーケンが船を大きく揺らしていて。
「――皆!」
ヴァルキュリアに乗り空を飛んでいるカイザーと吸血鬼の権能で空を飛ぶラウラは問題ないだろうが、綾音と椿さんそして式が不味い。
まだクラーケンが残っている状況、そして海中に魔物がいないと言い切れない状況で落ちた時の被害なんて想像に難くなく――。
「【アイギス!】」
だから俺は皆の下に防御魔法の盾を展開して落ちないようにした。
揺れ続ける船、激しく揺らされて――一気に船がひっくり返り、俺は海の中に落とされた。そして水中の中で対峙したのは全てを飲み込めそうな巨大すぎる海月であり――カリュヴディスと呼ばれている海の化け物で。
大口を開けて構えていたそいつに、俺は飲み込まれた。
――――――
――――
――
「ッ主!」
「くそっ霊真! ――綾音、海に潜るぞ!」
「うん――ってクラーケンが!」
主の友人達が、海に落ちていった彼を助けようとしたがそれはクラーケン達に阻まれる。我も応戦しようとするが、先程以上に苛烈に攻撃をしてきて、進ませないようにしているみたいだ。
「色欲!」
「あの侍の子と一緒にいったみたいだよ――でも、ちょっとやばいかもね」
水面に姿を現すのは半透明の傘。
クラーケンの数倍は大きく、魔力を持っている海月のような生き物が大渦を起こし始めた。魔力の反応を見るに主はその渦の中におり、助けるのは――。
「水中じゃ、ルミアは魔法を使えない――僕も体が焔だから入れない」
我の魔法も攻撃的すぎて主を巻き込む可能性がある。
……それだけは出来ない、主を傷つける可能性というのがあるだけで手が鈍る。
どうすればいい? 海の中それも安全に全てを倒して主を救う方法を考えろ。綾音殿達は足止めされており、向かった二人も助けられるか分からない。
考えろ、考えるんだバアル・ワイルドハント。
主を救うことが最優先で、今自由に動けるのは我一人。
……いや、一つある。この場を切り抜ける方法が――でも、それはあまりにも危険で――だが、そんな天秤は主を守るためなら傾けてもいいものだ。
「ベルフェ殿、後は任せた」
「――何をする気だい?」
「いやな――主を救うだけだ」
深く、とても深く息を吐く。
心音がうるさい、今から見せる姿が嫌で嫌でたまらなくて、何よりも嫌いな自分に戻るのが怖くて――だけど、主を失う方が怖いから。
「【原典」
覚悟を決めろ、きっとあの二人と主の友人達なら止めてくれる。
だから契約だ、暴食。
主を守り通せ、どうせお前にはそれしか伝わらん――だから、あとは頼んだぞ、ベルフェ殿、そして色欲。
「堕落】――暴食を背負いし大罪の魔王」
殻が破れて羽化をする。
意識が薄れて、自我が消え……空腹に支配された。
だがこの瞬間に思うのは。
あぁ、どうか……皆で勝利を、主のために勝ってくれというそんなものだった。




