第150話:山羊角生えた無表情ぼくっ娘メイドは好きですか?
海の家の手伝い……いや、給料もついでに貰ったから多分バイトの括りでいい筈の仕事を一度終えた俺達は、攻略を始める夜の間までを海で過ごすことになりほぼ貸切状態の浜辺に集まっていた。
「改めてこの世界のご主人の友人達……ぼくは、ルミア・アスモデウスという悪魔。短い付き合いだろうけど、よろしく頼むよ」
メルリの負担を考えて、喚び直した自称メイド様は……とても丁寧にお辞儀をし、式達に自己紹介をした。美術品と思えるほどに整った容姿に変わらぬ表情。片目を髪で隠した彼女はそれこそ精巧な人形を想起させるような召喚獣の一柱なのだが、どういうわけかメイド服と水着が合体したような装いだ。
「凄い綺麗な人だね……でも、なんでメイド服なの?」
「それはぼくがご主人のメイドだからに決まっているだろう? ぼくは彼の所有物であり、唯一無二の道具、奉仕するのが至上だからね」
ふんすと鼻を鳴らして、足に巻いてた蠍の様な尻尾を解いて揺らす。
自分の容姿に絶対に自信を持っている彼女は、褒められ慣れているというか綾音の言葉には反応を示さない。
「この色欲の阿呆は、メイドを自称しているだけだから気にする必要はないぞ」
「それは君だろう暴食。君の奉仕には風情がない、ぼくを見習ったらどうだい?」
「主に無駄に干渉し、堕落させるのに風情があると?」
「あぁ、それこそが悪魔の奉仕だろう? それこそが本懐、ご主人の全ての面倒を見たいと思うのは、道具としての本能だからね」
「はっ――やはり貴様とは合わん、我が見本を見せるのでそこで見ていろ」
少なくとも仲がいいと言えない、バアルとルミア。
すぐに口喧嘩を始めたかと思えば、自らの俺に対する奉仕の方向性の違いを見せるためか俺の方をしっかりと見てきた。
「いや、いいから……二人とも喧嘩止めてくれ」
「で、ですが主! この頭が桃色に染まった悪魔に奉仕の意味を教えなければ!」
「個人的にどっちにも助けられてるからあんまり気にしてないぞ……」
というか方向性が違うだけで二人に任せっきりになると、俺が駄目人間まっしぐらになるからあんま変わらない。バアルのは家事に関する世話で何もしなくていいって点で堕落してしまうし、ルミアに関しては全行動を肯定されて、何もしなくても褒められるという状況に堕とされる恐怖がある。
「ふっさすがはご主人、これだから暴食は」
「……今回は引こう、だが機会があれば決めさせて貰うぞ」
とても悔しそうにこの場は引いてくれたバアルに勝ち誇った笑みを浮かべるメイド様。こうやって二人のやり取りを見るのは久しいが、変わってなくて安心? ではないけど、懐かしさというかそれに似た感傷を覚えた。
「あ、林檎で治ってると思うけど確認したいからって怠惰からの伝言があるよ」
「ベルフェがか?」
「あぁこと治癒という現象に関しては怠惰の右に出るものはいないからね、心配してたし喚んであげてくれ」
ベルフェ・フェニックス。
神獣と怠惰を冠する悪魔の側面を持つ回復や治療が誰よりも得意な俺の仲間。
普段は彼女から俺の方にあまり関わろうとはしてこないけど、仲間思いで人一倍寂しがり屋な面倒くさがりな奴。
「あとの近況は憤怒が目覚めたぐらいかな?」
「――ッよかった。ディアからは何かあるか?」
「あぁーえっとだね、次は負けないって」
「それは頼もしいな――そっか、ディア無事だったか」
あの時、俺と一緒に倒れて意識を失っていた彼。
戻った瞬間から俺の仲間達によって治療されていたようだが、目覚めたみたいだ。もう少し詳しく聞いてみれば、リハビリのために他の者と戦っているとのこと。
「それと嫉妬との戦いではぼくを喚ぶといい、きっと相性はいいと思うから」
「了解だ。確かに戦った感じだと相性いいだろうし、頼らせて貰うぞ」
「あぁ、存分にぼくを頼ってくれると嬉しい。というわけでだ……そろそろ奉仕させてくれないか?」
うずうずしていたのか、急に話を戻される。
今更気付いたのだが、堪えきれないのか体が微量に震えているし……何よりさっきから俺しか見てない。なんなら正面から長い蠍の尻尾を俺の足に巻き付けていて、離れる様子を一切感じさせない。
「じゃ友人達、ちょっとご主人を別荘に戻すね? 邪魔しないでくれると嬉しい」
「……ねぇ霊真の、意思は?」
「いや考えてみてくれないかい幼馴染殿。ぼくを放置したご主人が悪いよ。だからね攻略が始まるまでぼくなしでは生きられなくするからちょっと二人きりに、なろ?」
「ちょま、誰かルミアを止め――」
最後まで声を出すことなく、ルミアが喚び出した竜に咥えられた俺は別荘に攫われ――皆も後から来てくれたが、助けてくれる様子はなく……放置してた俺が悪いという結論で生け贄にされ、夜になるまでの間ずっと菓子の山に襲われた。




