第149話:海でバイトだー!
一緒に戦うと決めた俺達。
その日は流石に休憩となり、次の日に俺達はミソロジーダンジョンが現れた沖縄方面に出発した。状況を全て伝えるのは危険と判断し、Sランク冒険者達で攻略するという体で進んだ話。前回の実績である【星の大海】のおかげか問題なく進んだが、一つだけつらいことが。
「……めっちゃくちゃ酔った」
沖縄に行くとなると手段は限られ、今回は飛行機で行くことになったんだが……久しぶりなのと空の移動をベルグに任せていて慣れたせいで飛行機で俺はダウンした。
それはもう酷いくらいに。到着してから一時間ぐらい動けなくなるくらいには限界で、沖縄にもある椿さんの別荘で俺は休まされていた。
「つらい」
現代人としてあまりに弱い気がするが、快適なものに慣れるとこうなるんだなと割とマジで思った。そうやって回復するまで休みながらも、地元の人達から情報収集をしに行った皆を待つ。
「確か江奈さんのゴーレムで調査された筈だよな?」
難易度があがっていてより危険となったダンジョンという場所。
高難易度と判断された場所はそういう理由から江奈さんのゴーレムで調査されるようになり、それ故の資料が政府から渡されたんだが……。
「イメージとしてはあれだな、本当に神話のごった煮……というか簡易版ミソロジアみたいだ」
資料に書かれている魔物の特徴は、様々な神話に登場する海の怪物が主。
オケアノスという名前のダンジョンからギリシャ神話に寄っていると勝手に思ってたけど、もう少し対策した方がよさそうだ。
ミソロジアで関わった海に関する神話の者の能力は、一癖二癖もあり何よりえげつない者が多い。資料に書かれている者としてははレヴィさんに使われた唄の持ち主であるセイレーンがいるし、海月と蛸が混ざったようなカリュヴディスもいるっぽい。
「で、ダンジョン自体では呼吸できるっぽいけどほぼ海と……厄介だな」
内装としては、海の底を歩く感じで神秘的な作りとなっているが、道以外の場所は海とほぼ変わらないようで、いつどこから魔物が来るか分からないようだ。
なんなら足場の下も海らしく、下からの奇襲もあり得ると。
情報だけでもそれは最高難易度……それに、ダンジョンが現れてから調査に行った大和もまだ攻略できてないと言われて――。
「それ超した後にレヴィさんと戦うんだよな」
口に出して、少し考える。
難しくはあるだろう、それに危険でもある。
でも倒すと決めたから、皆で勝つと決めたから、俺は……彼女と戦わなければいけないだろう。
「霊真ー、元気なった?」
「……綾音か、ある程度は回復したぞ?」
「ならよかった。あのね、地元の人達が頼みがあるらしくて、手伝ってくれない?」
「あーいいけど、なにするんだ?」
「えっとぉ。海の家の手伝い、かな?」
「……へ?」
――――――
――――
――
「焼きそばがあるぞ、数量限定だから急ぐがいい!」
海パン一丁のカイザーが声を張り上げ客を呼び込む。
魂の世界から供給される野菜を使って俺は焼きそばを焼いていた。
横にはこんな熱い夏でも執事服のバアルと、俺とは色の違うパーカーを羽織り水着を穿き同じように料理を作る式がいた。
「……優先順位ぃ」
「しゃあねーだろ親友、船を貸してくれる条件がこれなんだから」
「商魂がたくましすぎるぞマジで」
こうなったのは政府経由で船を地元の方達に貸してくれと頼んだ結果だった。
あまり集まることのなく、話題性がバッチリなSランク冒険者達が来るし、夏真っ盛りで観光客が多いことから盛り上げるために手伝ってくれという事らしい。
しょうがないだろうがまだ攻略する危険性がないというダンジョンとして認知されてるせいか、こうなってるのは分かるのだが。
「ダンジョン前に疲弊したら駄目だろ」
「そこは……どうせ攻略するのは夜だし別にって感じじゃないか?」
「尚更休もうぜ」
「アレだ親友、大勝負残ってるとは言え息抜き大事ってことで」
視界の先、俺達の所に客を呼び込むためか綾音と椿さんが頑張ってる。
普段配信で話慣れているからかその気にさせるのが上手いというか、俺にはないと言える話術とその知名度のせいか客が溢れて休憩が出来ない。
人手が足りねぇと思うが、残るラウラは私には向いてないと日陰で休んでいるし、ほんとマイペースだなぁって。
「主よ、息抜きは大事だ。それに、友との交流はきっと主のためになるぞ」
「はぁ、まあそうだな――あ、そういえばなんだがバアルなんか列減ってるけど、これ誰が配ってるんだ?」
今更気付くことが一つ。
現状俺とバアルと式が焼きそばを作り、カイザーと綾音と椿さんが呼び込み。ラウラが休憩という状況で回してるのだが、この店は店員が運ぶ方式。
焼きそばを焼いた端から置いているが、誰が配っているのだろうか?
「む、確かにそうだな。我等以外はいないと聞いたが……なぁ主よ、あそこの馬鹿は何故いるのだ?」
バアルと話していると、急に彼の目が死んだ。
いつも元気な彼からは想像出来ないようなその声音、地の底からひねり出したような疑問を孕んだ言葉に、視線を追えば……。
そこには水着にメイド服を合わせた装いの、灰色の髪をした美少女がいた。
毛先が緑のその女性は、両手に沢山の焼きそばを抱えながらも配っており、完璧な姿勢で仕事をしている。存在を気取らないように動き、テキパキとこなす姿勢は頼もしいけど……なんで出てきてるのか本当に分からなかった。
「おい色欲、何故いるのだ?」
「今更ぼくに気付いたのかい暴食、流石鈍くて面白いね」
「……貴様は主に喚ばれてないはずだろう?」
「そんなのぼくの奉仕欲が限界に達したからに決まっているだろう? 最近は暴食ばかりが喚ばれていて、ぼくは寝取りを食らった気分で生きてたんだぞ、だから来た」
「それは信頼の差だ、貴様の雑な仕事のくせに主を堕落させようとするのが悪い」
仕事をしっかりこなしながらも口喧嘩を始めるバアルと、色欲とだけ呼ばれているメイドの姿の女性。彼女は、俺のメイドを自称する悪魔であり、七つの大罪の一つである色欲を司るルミア・アスモデウスという仲間だ。
「鏡を見れないんだね、流石は暴食だ。あ、そうだもう帰っていいよ。ご主人お世話ポイントが基準値を大きく下回っているせいで暴走しそうだからさ、変わってくれ」
「脳が溶けて湧いているのか?」
「は? だってずるいだろう。ぼくはお休みからおはようまで、それこそ棺桶の中まで主の世話をし共にあるオンリーワンメイド。なのに、五月蠅い執事のお前にだけ役目をとられるのは許しちゃいけない。そもそもぼく以外に主の世話をする存在ってだけでも断罪して掃除したいのにそれが同じ大罪ってだけで有罪なんだ」
相当な量のフラストレーションが溜まっていたのか、一切変わらない表情で捲し立て何より感情を吐露し、俺達の前で話し続けるルミア。
俺のコミュニケーション不足なのは分かっているが、彼女の奉仕欲のやばさを知っている俺は、とりあえずどこからか胃痛を感じ……うわぁという目で見てくる式の腹を小突くことで精神安定を図った。




