第147話:彼が眠るその時に
霊真を担いだ綾音が帰ってきて、約二日が既に経過していた。
貸し切った民宿で眠る親友を見ながらも、漸く出てきた説明が出来そうな奴に俺は言葉を投げかける。
「で、何があったか分かるか?」
「ディア君から聞いた範囲だから、詳しいことはさっぱりだけど――ただ分かることは私の弟子を正面から倒せる存在が来たことぐらいだよ」
そんな事は分かってる。
倒れた親友の様子と荒れ果てた海辺を見るに相対したあの人は規格外、そもそも今あいつを倒せる存在などを想像なんてしてなかった。
「彼女との戦いで喚ばれたの私達の中でも守りと敵の殺傷に長けたディア君。そこの龍の子には伝わるだろうけど、悪魔の王とされるサタンだね」
「……対する嫉妬を司るとされるレヴィアタンか。大罪の序列的には勝てそうではあるが、そこの所はどうなのだ?」
ディアベルという召喚獣の事はバーベキューの時に聞いていたから覚えているが、その存在は今の親友が喚べる最高戦力の一人であったはずだ。
自分なりにも調べもしたが、サタンというのは悪魔の王であり神の敵対者とされる魔王の一柱。能力も聞いてはいるし、その存在を真っ向から打ち破った存在に悪寒だけが加速する。
「レヴィアタンまたの名をリヴァイアサン。世界に終末を齎し、全てを水に押し流すベヒーモスの対の存在……ミソロジアにはいなかった存在で知識では知ってたけど、やっばいねー」
軽い口調と態度だが、初めて会ったときと違って目の前の女性は霊真の事しか気にしていない。元よりその性質があったのは分かるが、苛ついているのかその態度を隠そうとしないし、何よりこっちの身を竦ませる程の魔力が漏れている。
「それでレイマの中から見てた限りだと、あれはこの国を沈めるつもりだそうだよ」
「……本当に最悪だな、一応聞くが俺達で対処は出来るか?」
「どう足掻いても無理さ、格が違いすぎる」
――分かっていたが、改めて言われて自分の不甲斐なさに怒りを覚える。
これでも俺は鍛えているつもりだし、今の霊真に追いつく努力は続けているが……きっとそれだけでは根本的に届かない。
「霊真殿は目覚めるのでござるか?」
「……目覚めるとは思うよ、傷はあいつが治してたからね」
「メルリ殿……我等が強くなる方法などは、あるのか?」
「あるっちゃあるよ、それこそ私達と戦うとか。でもね、あの相手が残してくれてる時間が分からないから、悠長に構えてる暇はないと思うなー」
つまりは時間がないということだろう。
分かっている……戦ったわけではないが、あの規模の戦闘を行える霊真の意識を奪うということ自体がどれ程難しいかを理解しているから。
「今更だけど、君達は戦うつもりなのかい? あれは規格外。戦わなくても責められないと思うし、そんな事を言う奴らは沈むと思うから責任はないだろう?」
これはこのヒトなりの優しさ……だとその時気付いた。
まだ関わりは少ないが、やはり霊真の仲間というか彼に絆されたのが見て分かる。言ってることは尤もだし、心配されてるのも分かる。だけど、その問いに対しする答えとしては考えるまでもなかった。
「そんなの当然だろ、やられっぱなしは癪だしな」
「冒険者は無辜の民を守るのは当然だ……何より、我が友ならそうするだろう?」
「拙者は話合いたいでござるな、それで戦う必要があるならぶつかるでござるよ」
俺がそういえば、五郎の奴が続いて椿さんがそう言った。
残る二人と言えば、この状況で一切喋らなかった綾音とラウラなのだが……彼女らの決意は既に固まっているようで。
「……私は、戦うよ。足手まといで何も出来ないのは嫌だから」
「私もだ。彼奴をレイマを傷つけた報いは受けさせないといけないだろう」
そうやって、俺等が意思を伝えれば……目の前の女性は、ゆっくりとそして優しく微笑んだ。慈しむように、何より微かに信じられないような物を見るようにして。
「あぁ、君達はそう言えるんだね……なら、私も手伝おうか幸い私はちょっとレイマの中でも反則的な立ち位置にいるからね、彼が目覚めるまで君達を鍛えようか。あ、ラウラは手伝ってね、私一人じゃ難しいし」
「あぁ、了解した――厳しく行こう」
そうして方針は決まったレイマが目覚めるまでの間に、俺達は強くなる。
何処までも、何があっても……親友に並び、彼と一緒に戦うために。頑張った彼が、報われて少しでも安らげるように、進まなければいけないから。
「じゃあ早速始めようか――覚悟してね、私はそこまで優しくないからさ」
……杖が現れる。
魔力が開放されて、俺達は別空間の結界へと喚び出された。
ゲーム盤のような、見知らぬ世界。
黄昏に染まる木々が生えたその場所。
それこそダンジョンのような異界に送られた俺等は、そこから二日の間……この世の地獄を見た。




