第146話:月と太陽が満ちる黄昏の浜辺で
目に映る範囲の者達が、笑顔でいてほしかった。
それは、子供の頃からずっとあった俺の願い――無論だが、そんな事無理に決まっているし、ずっと笑顔でいられる人生なんて怖いとは思う。
でも俺は、どうしても願ってしまうんだ。
目に映る範囲の人には楽しい時を過ごしてほしい、少しでも笑っていてほしい。傷付いてほしくない、泣いてほしくない……というそんな願いを。
偽善だと言われるかもしれないし、自分でも独善的だとは思う。だけど、それでも俺は皆が笑って過ごせるようなそんなものを目指していたんだ。
知ることのなかった悲劇を知った。
悪として生きろと原典を持ってしまった彼女らと出会った。
悪に堕とされてどこまでも奪うことしか出来なくなった故の後悔を。
そんな皆と出会うたびに、俺は放っておけなくて……一緒にいるとこと選んだのを覚えている。義務なんてない、ただ少しでも安らぐ時間があればいいとそう願ったことを忘れない。
そんな事を思い、俺は気付けば波の音を拾った。
目を覚ませば俺がいたのは何処とも知らない黄昏の浜辺。
波のせせらぎに鳥の唄……記憶を手繰る限り最後にいたのは確かに海だけど、こんんな場所ではないのは分かるし、なんでこんな場所にいるのかは分からなかった。
「……それに、止まってる?」
地平線の彼方に太陽が溶けて、全てを朱に染め上げる景色は止まっていた。
儚くて鮮烈なその景色、決して沈む気配のない太陽と……静かな波に満ちるこの場所からは現実実を一切感じない。
あぁ、これは夢だろう。
思えば俺は眠らされたわけだし、何よりこんな場所はあり得ない。
だって、上を見上げればそこには月が浮かんでいるから。
ここは何処とも知れない別の世界だ。
「綺麗だな」
そんな事を言っている暇ではないのに、俺は目の前の景色に目を奪われる。
俺は死んだのかもしれない、眠らされてトドメを刺さない理由はないし、何よりあれだけ強い彼女の気が変わらない保証もないし。
「…………疲れた」
現実にも存在するが、非現実感を伴うこの時間。そういえば俺はこの時間が好きだったなと、そんな事を思い出す。
無理に足掻こうにも、こういう場所では無駄だと分かってるいる俺はその場に腰を下ろして、ただ何もせずに目が覚めるのを待つことにした。
ただ思うのは疲れたなと、そんな感情。
いっそのこと、この世界で過ごすのも悪くないし……少し休んでもとそう思えた。
「――――」
その時に聞こえた唄に、俺は咄嗟に振り返り……目にした光景に目を奪われる。
あぁきっと息を飲むというのはこういう事を言うのだろうと……そう思えるほどに、彼女たちは綺麗だったから。
そこにいたのは、ルナとソル。
この落陽と満月が照らす空間で、無邪気に遊ぶ彼女達。
神秘的で、綺麗で……ずっと俺を支えてくれた彼女たちが、そこにはいて。
「あぁ、頑張らないと」
その姿を見て、俺は目を覚ますことを選べたのだ。
俺は単純だ。本当に愚かで、馬鹿で、単細胞……この光景を見ただけで、また頑張ろうと思えるんだから。
言葉はなかった。
ただ二人の姿を見て、無邪気に遊んでる姿を見ただけなのに……俺は。
「よし、起きるか」
もうちょっとだけ、頑張ろうって――彼女を倒さないとなって、そう思えて……俺はまた前に進むことができる気がしたんだ。




