第144話:嫉妬の蛇と憤怒の悪魔
開戦して数分、彼女が取り出したのは大剣だった。
深い海のような色の鱗が並んだその大剣……その武器だけでも圧倒的な存在感を放っており、対峙するだけで圧を感じる。
「じゃあ、一気に行きますよー!」
告げられるのはその一言。
彼女は間合いをディアへと詰めてそのまま大剣を力任せ叩きつけてきた。
対するディアは背に浮かぶ数本の魔剣で完全に防ぎ、そのまま更に数十の魔剣を召喚して相手に飛ばし続ける。
「アハッ――凄い殺意ですね、私じゃなければ死んでますよ?」
瞬間、溢れるは魔力の渦。
それは蛇を形作り放たれた魔剣を全て飲み込み変色し、黒い蛇となってディアへと突撃した。大地を喰らいながらも迫り来るその攻撃は、ディアに直撃したのだが。
「この程度でやられるわけなかろう?」
立っているのは無傷の悪魔。
不敵に笑う彼はより凶悪な気配を持つ黒い魔剣を呼びだし構えた。
ディアベル・サタンという名を持つ彼の原典は、悪魔の王とされ七つの大罪の一柱である憤怒のサタン。
「ッそれ、すっごく嫌ですね」
「それはそうだろう、貴様のための特注品だ」
神話の記述では神の敵対者として描かれる彼の能力は、相対する存在への絶対特攻を会得する力。相手を殺すまで持続するその特攻は、対峙すればするほど凶悪になり相手をより苦しめる。
「しまってくれません?」
「なら大人しく死ね」
六枚の蝙蝠の翼をはためかせ、彼は迫る。
宙に浮かぶ武器を操りながらも、魔剣を使いレヴィさんに何度も剣を振るう。
彼女は大剣でそれを受けようとしたのだが、同じ存在であろう武器のせいか魔剣に触れた瞬間に蝕み壊された。
「正直舐めてましたね、これ試しとか言ってる暇じゃないっぽいです」
「ならもう少し開放しろ、つまらん」
「あれぇ、もしかしてルシフェー君も混ざってます?」
「なわけなかろう?」
……観察する。
だってリヴァイアサンという存在にしては弱すぎるから、このままディアをサポートしてれば勝てると思える状況――何かまだありそうだが。
「この服気に入ってたんですけど、このままじゃあ傷付いちゃいますね」
ふと、彼女がそう呟いて……さっきのサタンと同じように魔法で衣装を変えた。
いや違う……江ノ島の海の海水が彼女に集まり槍と鎧を形作ったのだ。流動するそれを纏った彼女は北欧で言うところの戦乙女の様な装いとなる。
「これから魅せるはレヴィさんのちょっと本気バージョン……制限かかったサタン君で超えれますか?」
「……ッディア、防御!」
瞬時に察知する魔力。
俺も魔法を使い防御しようとするが、多分間に合わない。
ディアに放たれたのは槍の先端からの水のビーム。起こりもなく、ただ放たれたのあとで気づけたその攻撃は……防御をしたはずのディアの肩を抉った。
「ディア!?」
「……案ずるな、貴様は集中しろ」
「完全に貫く気だったんですが、よく避けましたね」
溜めもなく放たれたあの技。
……どう考えても連発させて良いものではない。
だけど、放たれた挙動を見るにあれは必殺でもないただの攻撃――対処するには。
「――魔力借りるぞ」
「了解した――遠慮なく使え」
溜める時間にして、約二分。
彼女相手にあまりにも重いその時間、だけどディアを勝たせるにはこの魔法を使わなければいけない。彼を喚んだ後の魔力でこれを使うのは完全なる賭けだけど。
「……あぁ、任せろ契約者」
ディアがサタンがより異形の悪魔の姿へと身を変える。
原典開放しない状態での最も悪魔に近い姿、より刺々しい見た目になった彼の背にはさっきの倍以上の剣が浮かび、それには全て彼女に対する特攻が付与されている。
空を飛ぶ両者のめまぐるしい戦闘。
打ち合い削り合い、何度も体を抉られながらも……彼はレヴィに攻撃する。
無尽に補給される海水のせいか相手の鎧を何度削ろうとも体に攻撃が届くことはないが、彼女も水のビームを差し込まなければ全部防がれるので攻めあぐねている。
集中は出来た。
魔法式も組み終わり、あとは言葉を紡ぐだけだ。
「顕現するは地獄の具現、灼熱溢れる炎熱の園」
まずは二節。
言葉を紡ぎ出せばレーヴァテインから炎が溢れ出し世界の全てを赤く染める。
「終末はここに来たれり、さぁ巨神達よ世界を赫で彩ろう」
喝采を上げるように染め上げられた別空間で巨人が現れ、
「――灼熱地獄巨神の進軍!」
完成した魔法によって、江ノ島の海から彼女は隔離され……ムスプルヘイムにへと招待された。
「ははは、これが霊真さんの魔法ですか……本当にサモナーです?」
「ほら灼熱地獄を喚んだだけだ……ここで倒させて貰うぞ」
維持だけで精一杯。
結界魔法の最上位に位置するこの魔法は持って五分。
炎の巨人達とディアの連携で倒せるかは分からないが……最善は尽くした。
呼吸するだけで肺に熱を感じる。流れる汗も一瞬で蒸発し、彼女の鎧は消える。
「あぁやっぱり貴方を選んで正解です。こんなに良い魔法見る機会なんてないですからね……だからこそ、私を曝け出せる」
巨人の群に襲われる直前、彼女はそう笑った。
そして。
「其は最強の蛇、其は始まりの五日に生まれし神に仇なす者――其は世界を流す原初の蛇龍なり――終末召喚」
瞬間彼女の姿が霧のように溶けた。
この水が存在できない世界で、溶けるように消えて――灼熱世界に海が溢れる。
「世界を飲み込む終末蛇」
その刹那、灼熱世界を一掃する程の巨大なビームが放たれた。
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