第100話:カフェでの一時
自分が住んでいる場所から少し都心の方に移動して、俺はとあるカフェで人を待っていた。時間としてはあまり人が来なさそうな二時ぐらい。
俺への配慮かそういう時間を選んでくれたのは良いんだが、相手のことを考えると辿り着けるか心配だった。
「……大丈夫だよな?」
「私は会ったことないけど、何を心配してるの?」
「紗綾さん俺と別種の方向音痴だからさ」
「それは悲惨……」
指定されたのが女性人気が高そうなお洒落なカフェだったせいで、一人で入れなかった俺はリコリスと一緒にこの場にいた。
そんな一緒にいる彼女に待っている彼女の特徴を伝えれば目を伏せてリコリスはそう言う。
「まだかかりそうだし、何か頼むか。どうするリコリス?」
「珍しいのがいい……えっと、この抹茶? のワッフルとレイマのおすすめで」
「急な無茶振りなんだが、どうしよ」
彼女の好みで考えるか、それか抹茶のワッフルに合いそうな飲み物で考えるかを悩み。珍しい物という指定を考えた結果……店員さんを呼んでから、自分用のケーキと黒糖ラテをリコリスの抹茶ワッフルとミルクココアを頼んだ。
「……どうしたの?」
「いや……新鮮だなって思って」
目の前に座るリコリスは普段の喪服のような黒ドレスではなく、アラクネに作って貰ったという現代に合わせただろう私服を着ている。
元がヒュドラという蛇の種族故に寒さに弱い彼女は、暖かそうな白いニットを着ており口に出したとおり見慣れないので少し新鮮だった。
「アラクネ凄いよね、なんでも作るし」
「だな……最近創作意欲凄いって言ってたしな」
俺が渡したファッション誌を徹夜で見て召喚獣達の服を何徹もして作ってる彼女。
前に軽く会った時なんて俺の服までを作り出し着せ替え人形してきたのは良い思い出……まあ疲れたけど。
「にしても良い場所知ってるよな紗綾さん」
今回の集合場所は和の雰囲気を感じられるカフェで個室もあるというかなりお洒落な場所。少人数で話すには丁度良く、注目されることもないのでかなり気が楽。
「そういえばリコリスは最近どうだ?」
一応俺の魂の世界にいるとはいえ、あの阿呆ほどデカすぎる世界の全貌を俺は把握できてない。だからこそリコリスのことが気になったし、聞いてみたんだが。
「最近はベヒーモスと一緒にいるよ? 毒談義で盛り上がってる」
「……そういやあいつ毒も使えたんだっけ?」
「うん、私の毒を打ち消す程のだからちょっと分けて貰って改良中」
「えげつねぇ」
「あったことはそのぐらい。あとは、紅茶飲んだり本読んだり」
「今日用事終わったら買い足すか」
「そう? ならお願い」
せっかく都心の方に来たわけだし、皆へのお土産もあった方が良いだろう。
だからそんな予定を立てつつ、届けて貰った食べ物を食べ始め……それから暫くして入店のベルが鳴り、こっちに向かう一つの気配を感じた。
「あ、紗綾さんこっちです」
「ごめんね霊真君、ちょっと遅れちゃった……あれ、その子は前のダンジョンの?」
「はい、仲間のリコリスです。一人で入るの気まずかったんで助けて貰いました」
アイドルという仕事をやっている紗綾さんは嫌にでも目を引く。
普段とは違うメイクであるものの、注目を浴びる彼女。個室であるからましではあるが、開放的な場所だったら少し居心地が悪かっただろう。
「二度目まして、私はリコリス」
「うん、よろしくね。私は草薙紗綾。霊真君のダンジョンのサポーターだよ」
リコリスの琥珀の瞳と、翡翠色の瞳が重なる。
二度目の出会いではあるもののあのときはあまり話してなかっただろうから、実質初めましてのこの状況。人見知りのリコリスではあるが、なんだか反応がいい。
「ヴォルの時にレイマを助けてくれてありがと」
「……魔人の時かな?」
「うん、私はあの時いなかったし」
「ならどういたしましてだね」
その会話を思うに召喚獣達にはヴォルニュクス戦で紗綾さんが助けてくれたのは共有されているのかもしれない。
「あ、そういえば今日の用事ってなんですか?」
「えっと一週間後の冒険者集会へのお誘いかな? 霊真君の二つ名決めるんだって」
「……え、二つ名ってその集会? で決めるですか?」
「そうそう色んなギルドも集まるし美味しいご飯もいっぱい出るよ!」
「へぇー……そうなんですね」
あんまり知らなかったが綾音も氷姫って呼ばれてたし、他の人にも二つ名があるんだろう。気になったし後で調べてみようかなと思ったんだが、カイザーの二つ名とか格好良さそうだよな。
「もう決まってるんですかね?」
「うーんどうだろ? 多分決まってるんじゃないかなぁ」
「気になりますね」
今まであったSランク冒険者で知ってるのは、椿さんと綾音と……逢魔って人ぐらいか? 椿さんが【灼刀】ってので逢魔って人が【暴殺雷鬼】ってことを考えると……どんなのが付けられるんだろうか?
「二つ名……どんなのだろ」
「リコリスも気になるのか……出来れば無難なのが良いけど」
俺としてはこいつに体を返した際にも通じる奴だったら良いけどとか思いながらも、それからは軽く雑談でもしながら時間を潰す。
冒険者集会かぁ……どんな人が来るんだろうな?
そんな事を気にしつつも、これからの出会いと目的のためのナニカになればいいと願いながら……俺はその日をリコリスと過ごした。




