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第97話:殺戮の果てに嗤う死の蝙蝠

 暗闇に染まった二階層。

 周りには重圧すらを感じさせる蝙蝠の群が現れ、男の笑い声だけが木霊する。

 夜目が効く俺は何が起こっているのかを認識できるが、この場に広がる惨状は悲惨なもので……魔物全ての首が刎ね飛ばされる。


 飛翔する蝙蝠の群が相手の体を飲み込めば、その端から首が刎ねられて数秒の内にこの場の鬼達が死んでいく。

 そして暗闇が晴れてこの場を静寂が包み込み……俺の側に人型が形成された。

 濃い褐色の肌に腰まで伸びる銀の髪。足には鉤爪状の武器を付け、背中に羽のような鎌を生やしている。その野人のような相貌には蒼の刺青が入っていて、服装としてはほぼ半裸の男だった。


「くはっ――久方ぶりだ、吾が盟友。どうだ殺してきたぞ?」

「あぁ助かったぞシバル。来てくれてありがとな」


 シバル・カマソッソ。

 元となった原典はマヤ神話に存在していたとある館に住む死の蝙蝠。

 剣を操り首を刎ねる事を至上とするこいつ。危ない状況だったが多数戦をとことん得意とするこいつが来てくれて本当に助かった。


「でだ女よ、先程から吾を見てどうした?」

「いやぁ強そうでござるなぁと、それと寒くないでござるか?」

「……寒くはない。妙なところを気にするのだな」

「それならよいでござる。あと助けてくれてありがとうでござる!」


 呆気にとられる……といより、面と向かった感謝に慣れてないシバル。

 それ故に少し黙ってしまったが、すぐにその言葉を受け取ってまた武器を構えた。

 理由としては単純で、魔物が湧いたから……姿を現したのは、黒く巨大な棍棒を持った赤い肌の三メート程の鬼。


「赤鬼!? やっぱり今日のダンジョンは凄いでござるな、強敵が沢山でござる!」

「ほう、そういう女傑かオマエは――盟友よ、ここはこの女と吾に任せろ、あの首を貴様に捧げようではないか!」

「……了解、だけど最低限のサポートはさせてくれ……俺も様子みたい」


 鎌状の羽をはためかせて、空を飛ぶシバル。

 彼はそのまま突撃していき、足の鉤爪を剣へと変化させて首を狩りに掛かる。

 赤鬼と呼ばれたその魔物は急接近してくるシバルに応戦しようとしたが、同時に攻めに入った椿さんの存在に一度後退する。


「それは悪手だぞ?」


 ここにはサポートをメインとする俺もいる。

 相手が下がる瞬間にダインスレイブから氷を走らせて足を凍らせてその退路を絶つ。片足だけを凍らせたことによりバランスを崩したそいつは、どちらかの攻撃を防ぐことが強制され、本能故かシバルに向けて棍棒を振ったが……。


「その程度の強度で吾の鉤爪を防げるわけがなかろう!」

 

 足に生えた剣を蹴りの要領で使い、迫る棍棒を両断するシバル。

 あまりに鋭利それは巨大な鉄塊を正面から二つに割って、そのまま左足で腕そのものを斬り飛ばした。


「流石に決めろ、女」

「女じゃなくて、拙者には椿という名があるでござる!」


 ――跳躍。

 そして、一閃。

 椿さんの刀による一撃は、流れるように相手に通り……そのまま体を切り裂いた。

 舞い散る鮮血に、少ししてから落ちる赤い魔石。大きめのそれが地面に落ちた頃、椿さんは残心してから刀を鞘に戻す。


「――やはり、霊真殿の召喚獣は強いでござるな」

「まあ自慢の仲間達ですし、というか椿さん魔力操作上手くなってないですか?」

「気付くでござるか! 最近ラウラに師事するようになって魔力操作を練習してるでござるよ……だからこそシバル殿? のやったことが理解不能だったでござるが」

「シバルですから、こと切断や切り裂くという行為は得意分野なんですよね」

「やっぱり規格外でござるよなぁ、やっぱり今度また手合わせを頼みたいでござるなぁ……それと霊真殿、拙者に敬語は不要でござる」

「いやでも、年上ですし……」


 あとは俺が今まで関わったことのないタイプの人だし、個人的にも刀の技量は尊敬するレベル。だからこその敬語なんだしなと思ってれば、彼女は少し不満そうに頬を膨らませて。


「拙者だけ敬語で疎外感凄くて寂しいでござるよ……それに、仲間でござろう?」

「……あー確かに、それはすいま――すまん。これからはそうする」

「そうしてくれると嬉しいでござる! ふふーん、今日はこれを伝えたかったのもあったので、伝えられてよかったでござるなー」

「……そのためかよ」

「そうでござるよ? 普段あまり連絡取らないこともあるでござるが、一緒にダンジョンに潜りたいのもあったし伝えたいこともあったでござるから!」


 ……伝えたいこと?

 色々素直な物言いの彼女はそう言ってから、一拍おいて……意を決したようにこう続けた。


「霊真殿、拙者達と出会ってくれて助けてくれて本当に感謝でござるよ!」

「……なんですか、それ」

「思えばベヒーモス戦から助けてくれて、ペルセウス殿の時も……それにラウラの心を救ってくれて、夢を叶えてくれて恩がいっぱいでござる――だからこその感謝を」

「…………」

「今日も今までも、これからも……拙者達は味方でござるから、もっと頼ってほしいでござるよ……だから、もう少し笑ってほしいなって」


 そう言われて思うことは一つ。

 ……そういえば俺が最後に笑ったのはいつだっただろうって、この世界に来て――いや、それこそ異世界でも俺が最後に笑ったのは。


「霊真殿は凄い、だって異世界を救ったんでござるから! だからもうちょっと自分を認めてほしいなって、思うでござるよ」

「レイマよ……この女傑の言葉は聞いておけ、思ったより貴様を見ているぞ?」


 シバルにまでそう言われ、俺は少し押し黙る。

 すぐには、受け入れられない……でも、そう思ってくれる人もいるんだってことは知った。


「……そう、かもな」

「そうでござるよ! 何度でも言うでござるが霊真殿は凄いでござる! 強くて仲間を思いで、最初の共闘でも拙者達の為に先陣を切った大馬鹿様……本当に大事な仲間でござる――だから、もっと頼ってほしくて拙者達に任せてほしいでござるんだ」


 一度たかが外れたら全部言う質なのか、恥ずかしいことまで言ってくる椿さん。 

 流石にそろそろ止めないと俺が限界なので、なんとか落ち着くように言ったけど……。


「ふっ拙者を止めたければ、霊真殿も拙者を褒めることー!」


 そんなことを言われてしまったので、余計に退路を塞がれた。

 ……手強いなとそう思う。

 あぁ、この世界の人達は本当に優しい人達だ。俺はいつか消えるかもしれない、それこそこっちの霊真の意識が戻ったときに別れが来るかもしれない。

 でも……それまでは、もう少し皆を頼っても良いかもなって、そう思えた。


「じゃ、次の階層いくでござるよー!」


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