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5.

「さて、宰相、アレックスが手を出した女性は何人だ?」

「13才以降に分かっているだけで王宮のメイド3人、侍女3人、

 その後平民4人、貴族令嬢6人です。」

「3年足らずの間に分かっているだけで16人、

 17人目で女性から刺されたと言う訳か。

 自業自得でしかないな。」

「失礼ながら、御意にございます。」

「私自身、寵姫の件もあり、

 多忙を理由に目を背けてきた事がある。

 宰相にもエステル嬢にも迷惑をかけて済まなかったな。」

二人は声を揃えた。

「滅相もありません。」

王は重大な決心をした。

「アレックスはこれまでも未来の王にあるまじき行為を繰り返してきた。

 そしてここにきて王命を無視し勝手に婚約破棄をした。

 更に無実の令嬢を勝手に投獄し、獄吏に穢させようとした。

 少なくとも後継者の資質は無い。

 よって離宮に幽閉しようと思う。

 二人の意見を聞かせてくれ。」

また二人は声を揃えた。

「陛下の判断に従います。」

とてもではないが、後継者の事を王に意見するなど恐れ多すぎる。

しかし宰相が言葉を繋げた。繋げる必要があった。

「しかし、王妃様はいかがお考えでしょうか。」

王は即答した。

「王妃は貴族女性の頂点に立ち、

 これを庇護する立場にある。

 エステル嬢を見捨て、イザベラ嬢に勝手に自決を勧めた王妃は

 すでに王妃の資格を持たぬ。

 王妃は急病につき、北の保養所にて長期療養とする。」

宰相は更に言葉を繋ぐ。

「お世継ぎの件はいかがしましょう?」

「王子に世継ぎの資格なく、王妃に王妃の資格なく、

 王もこの二人を指導出来ない未熟者だ。

 少なくともこの血筋を王家として残す訳にはいかない。

 王弟の長男をもって後継者とする。」

宰相は更に言葉を繋ぐ。

「イザベラ嬢の事はいかが致しましょう?」

王は判断材料を求めた。

「エステル嬢、イザベラ嬢の二重人格は抑える事が可能と思うか?」

「あくまで素人判断である事を前提に意見を申し上げるなら、

 無理と考えます。

 理由は、精神疾患・障害は治療が難しく、

 時には患者の発言を全肯定して悪化を防ぎます。

 つまりデヴォンシャー侯爵夫妻が行っていたのがこれです。

 しかし、この方法だと患者の周囲に対する要求は

 どんどんエスカレートするものと聞いております。

 今後、世界が彼女に合わせる必要があります。

 どこかで再度破局するでしょう。」

「あい分かった。

 イザベラ嬢は王子に謀反を唆した故、死罪。

 デヴォンシャー侯爵夫妻は連座により死罪。」

ここで宰相が言葉を繋ぐ。

「エステル嬢はいかが致しましょう?」

「エステル嬢は王子、王妃、義妹の犠牲者であり、

 謀反には関わっていない故、無罪。

 デヴォンシャー家は取り潰しとするが、

 エステル嬢には一代貴族として女男爵位を与える。」

エステルが言葉を告げる。

「発言をお許し下さい。」

「許す。何か?」

「貴族位についてはお任せ致します。

 ただし、社交界にはもう戻れません。

 王子妃とならない以上、投獄された事が分かり次第、

 悪評が垂れ流されると考えます。

 ですが今後の人生を無為に過ごす事は耐えられません。

 王家の直轄領のどこか小さな町で構いませんので、

 代官の仕事を頂きとう存じます。」

「そなたは勤勉だな。

 任地が決まるまで王宮に部屋を設ける故、

 そこで待機する様に。」

「ありがとうございます。」


 さて、ここで余った人員がいる。

デヴォンシャー家がお取り潰しである以上、

エステルの侍女のニコラは無職となる。

「お慈悲でございます。

 お嬢様の任地に付き従う事をお許し下さい。」

「田舎町が任地になるわ。

 苦労ばかりで楽しい事などないのよ?」

「敬愛するお嬢様との苦労ならどうして辛い事がありましょう。

 いつまでもお側に侍ることをお許し下さい。」

「あなたも酔狂ね。実はこちらからお願いしたいと思っていたのよ。」

「はい。是非に!」


 そしてもう一人余った人員がいる。

騎士テレンスこと、テレンス・オファリー士爵である。

「エステル様!

 此度は御身をお守りする事が出来ず、

 誠に申し訳ありませんでした。

 もう2度とこの様な事には致しませんので、

 任地で護衛としてお仕えする事をお許し下さい!」

はぁ、とエステルはため息をついた。

「田舎町であなたの様な毛色の違う男性が共にいたら、

 噂になってしまうでしょう?

 私を口説くつもりがないならその様な申し出は止めて下さい。」

はっ?とテレンスは硬直したが、

意味を理解して高速再起動した。

「いや、実は私、初めてお会いした時から

 貴方の事を密かに想っておりました!

 是非にあなたの連れ合いとなる事をお許し下さい!」

さすがにエステルも苦笑した。

「そんな怖い顔で女たらしみたいなセリフを言われてもね…

 まず近衛騎士団と話を付けてから、

 もう一度花束を持ってきてやり直してくれる?」

「はい!必ず!」


 さて、テレンスの事は兎も角、

王がアレックスの件がこれで終わると思っているなら甘い、

とエステルは思っていた。

案の定、幽閉開始後3日目にアレックスはやらかした。

入浴を手伝っていた侍従に襲いかかったのだ。

性的な意味で。

その場でアレックスは護衛(というより監視)の騎士達に取り押さえられたが、

その報告を聞いた王はようやく自分の息子の事を理解した。

我が子は性犯罪者並に欲望が押さえられない男だったのか、と。

まさか幽閉した王子に愛人など付けられない。

アレックスは王から毒杯を賜った。


 その報を聞いたエステルは思った。

別に欲望を押さえられない男、とまでは言えないのではないか、と。

アレックスは元々将来に対するビジョンがなかった。

権力者である父に道を決められていたから、

言われるがままに踊る事しか考えていなかった。

王となる覚悟が出来ていなかったのだ。

望む未来がないから、自分を鍛える事を知らなかった。

だから小言を言うエステルを憎んだんだ。

俺より下の身分の癖に、と。

アレックスは権力主義者だった。権力だけは殆どの人間より強かったからだ。

一方、イザベラは、あるいはベラは暴力主義者だった。

暴力を振るえば両親が言う事を聞いたからだ。

そんな二人の面倒を見る人生など嫌だったから、

エステルは理屈で戦った。

それぞれが相手を思いやらずにぶつかった結果、

3人共報いを受けた。

そんな3人を放置していた親達も少なからぬ報いを受けた。

親がもっと上手く動いていたらこんな事にはならなかったのではないか?

と思ったところで、そんな未来はエステルは御免だった。

この結果にはそれなりに満足していたから。

少なくともアレックスの面倒をみるのは絶対嫌だったからだ。

未来が描けないからと欲望のままに無為に過ごせば、

いずれ判断を誤り道を踏み外す。

それに巻き込まれるのは御免だった。

そして、自分も道を踏み外すのは嫌だったから、

無為に過ごすのを嫌い、

代官の仕事を求めたのだ。

小人閑居して不善を成すからである。


 テレンスとエステルは婚約した。

王も宰相もこの婚約を祝福してくれたから、

即座に手続きが済んだ。

手と手を取り合って小領を治める若い二人は

端で見るより幸せだろう。

 最初の男が権力の横暴で婚約破棄した後、

第2の男がより大きな権力でざまぁする話が嫌いなんです。

だって、そんな権力主義者が変わらぬ愛なんて信じる訳がなく、

また婚約破棄される未来しか見えないから。

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