表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1.

「エステル!

 貴様は将来の国母たる資格なき者として、

 私の婚約者の立場を剥奪する!」

王宮の応接室に呼び出された私、エステル・デヴォンシャーは

王命で結ばれた婚約の相手であるアレックス王子にこう宣言された。

「理由をお聞きしても?」

「お前の妹に聞いたぞ!

 実家でお前は毎日義理の妹を虐めていると!

 義理の妹一人愛せない狭量なお前に

 私の妻として将来王妃になる資格は無い!」

婚約者である私を放って浮名を流すこの王子は、

最近義妹のイザベラに目を付け、会っているとは聞いていた。

義妹から私と上手く付き合えていないと聞いて、

鬼の首を取った様に私を糾弾出来ると思ったのだろう。

そのイザベラはアレックス王子の斜め後ろで不安そうな顔をしている。

「婚約について異議がある事は分かりました。

 そういう事でしたら陛下を通じて我が父である

 デヴォンシャー侯爵に申入れをお願い致します。」

「その様な言葉でこの場から逃げられると思ったか!

 衛兵!

 この女はただ今、王子の婚約者の資格を失ったのに、

 まだ王族である私の命令に反抗した!

 不敬罪で逮捕し、投獄せよ!」

本来なら王子の護衛は近衛騎士団であり王の配下であるのだが、

この王子は護衛の騎士を買収して意のままに振る舞っていた。

だから、同じく近衛から派遣された私の護衛騎士のテレンスを拘束してから

私の両腕を掴み、応接室から連れ出した。

騎士テレンスはそれでも近衛の任務を全うしようとした。

「殿下!

 陛下にお断りなくこの様な事をなさってはお名前に傷が付きます!

 今一度お考え直しをお願いします!」

「テレンス、貴様も近衛なら王族である私の命が最優先だろう?

 反抗するなら貴様も騎士団の牢獄に入れてやる。」

「私は王命でエステル様の護衛に就いております。

 陛下以外の方の命令で護衛の任を解かれる事はありません。」

「では、こいつも不敬罪で投獄せよ。」

テレンスはエステルの侍女であるニコラを一瞥した。

テレンスが連れ出された後、ニコラは殿下に発言の許可を願った。

「何か!?」

「イザベラ様にご命令を確認致したく、発言をお許し頂けないでしょうか?」

「許す。」

「イザベラ様、この様な事態でございますので、

 至急侯爵閣下にご連絡を致したいと思います。

 イザベラ様から何か閣下にお伝えする言葉はおありでしょうか?」

それにはイザベラでなくアレックス王子が言葉を発した。

「エステルとの婚約は破棄する!

 但し、その代わりの婚約者はこのイザベラとする。

 それなら侯爵も文句はあるまい。

 そう伝えろ!」

「お言葉、確かに頂きました。

 それでは失礼させて頂きます。」

応接室を退出したニコラは、まず本件について、

王子の婚約者であるエステルの教育の責任者を務めている

王妃陛下に報告する必要があると考えた。

そうして王妃の侍女長へ面会し、

至急王妃に連絡する様依頼したのだが、

一度王妃の下に向かった侍女長が発した言葉は…

「王妃陛下はお勤めの最中であり、

 伝言をお伝えする事が出来ません。」

「ですが、緊急事態なのです!」

「お伝えする事は出来ません。

 王妃陛下のご都合に優先出来る案件はございません。」

そうは言っているが、

この侍女長とはエステルと共に何度も話をしている相手である。

この侍女長も王妃の対応に納得出来ていない事が感じられた。

つまり、王妃はこの面倒事に巻き込まれるのを嫌がったのである。

ここで時間を浪費してはいけない。

ニコラはこの場を辞して次に対処してくれそうな貴人を探す事にした。


 次いでこの事件の重要性を理解して行動してくれそうな権力を持つ方

と言えば、宰相であろう。

とりあえず王宮の宰相執務室に向かった。

別の建物である宰相府にいる場合、

もしかするとエステルに取り返しのつかない事が起きるかもしれない。

この国の牢獄は悪名高く風紀が乱れていると聞いている。

ニコラは宰相執務室に急いだ。


 ニコラは宰相執務室の護衛に包み隠さず事態を報告し、面会を依頼した。

宰相の護衛は王子の周囲の様に腐敗していなかったから、

宰相ダリル・メリオネス伯爵はすぐ面会してくれた。

「何故私のところに話を持ってくる!?

 至急王妃陛下にお話して国王陛下にお伺いを立てねばならぬ事態だぞ!」

「王妃陛下へのご面会を侍女長に依頼したのですが、

 王妃陛下が拒否された様です。」

「何だと!

 それでエステル様はどうされている?

 護衛の騎士テレンスはどうした!?」

「エステル様は殿下の護衛に牢獄へ連れて行かれました。

 テレンス様も殿下の護衛に拘束されて牢獄へ連れて行かれた様です。」

宰相も獄吏の風紀の乱れは何とかしないといけないと感じていたのだが、

獄吏は裁判所の管轄であり、

行政の長が司法に介入するのは問題があり行動出来ないでいた。

ただし、王命で王子の婚約者となった貴人はもう王族に準ずる扱いである。

問題を起こせば裁判所長も首が物理的に飛ぶ。

「衛兵!

 急ぎ騎士団に行き、裁判所と王宮地下牢獄へ向かわせろ!

 殿下のご乱心で王命に背き婚約者のエステル様を拘束した!

 問題が起これば全員死罪になる故、

 至急エステル様を開放せよと伝えろ!」

連絡の任に就く衛兵は2箇所に飛んでいった。

宰相も自ら護衛と共に王宮の地下牢獄に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ