表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘はBLの始まり  作者: 紫紺
63/78

TAKE50 堕落


 昨夜、僕は享祐の部屋に泊まってしまった。打ち上げの興奮や酔いもあって、いつも以上に燃え上がったからなんだけど、少し恥ずかしい。


「珈琲飲むか?」


 目が覚めると、僕はベッドに一人。リビングの方から、香しい珈琲の香りがしてた。


「うん」


 おずおずと寝室を出ると、キッチンに享祐の姿が。上半身裸のままで、逞しい胸筋が眩しかった。

 二人でモーニング珈琲なんて、歌にもあったような。だけど、こんなにも幸せな気分だなんて、僕は知らなかったよ。おはようのキスは珈琲の香りがした。





『伊織さん、オーディションの結果が出ましたっ』


 自分の部屋に戻ってすぐ、東さんから電話が来た。例の最終審査まで残ったヤツだ。


「それで、それでどうだったの?」


 焦ってスマホを耳にこすり付けてる僕に、東さんは勿体ぶってこほんと咳を一つした。


「東さんっつ!」


 少し語気を荒げると、スマホの向こうで笑い声が。


『もちろん合格ですよ。おめでとうございますっ』


 ま、マジで……。


「や、やった……。東さん、ホントだよね? 嘘ついてないよね。また何かの勘違いとか……」

『本当ですよ。もう、そんなドジしませんから。これから事務所に行きますので、一緒に行きましょう。30分後にエントランスのロビーで』

「あ、うん。了解です!」


 僕は慌ててシャワーを浴び、支度した。ちょっと見た目のいいジャケットにテーパードパンツを穿き、三十分後には、一階に降りることができた。


 ――――あ、そうだ。享祐に連絡しなきゃ。


 僕はスマホの個人認証を解除し、履歴を呼び出す。俯いて作業をしていたその時。


「あの……三條伊織さん、ですよね」

「は……い」


 エレベーターホールにはマンションの住人以外は入れない。東さんは僕の部屋のパスワードを知ってるから入れるけれど。ということは、住人の誰かだろうか。

 目の前には、記者とかレポーターではなく、普通の格好をした女性がいた。

 白いブラウスに紺色のカーディガン、花柄の膝丈スカート。仕事に行くというより、オフのお出かけスタイルだ。


「なにか……」


 何だろう。長いストレートの黒髪が綺麗で日本人形のよう。美人と言えなくもないけれど、化粧っ気がないので年齢がわからない。20代……かな。

 彼女が口を開こうとした時、誰かがエレベーターから降りて来た。そのまま通り過ぎるのを見送ってるのは、聞かれたらマズイことでも言うつもりなんだろうか。


 ――――でも……どっかで見たことがあるような……。


 僕はスマホを片手に持ったまま、記憶の中を探る。


「あ、もしかして……」


 何度かこのマンションの周りで見たことがあった。そうだ。雑誌記者とかがたむろしてたころ。


「あなたは、越前享祐を堕落させている」

「え……」


 さっきとは全く違う声色が、薄い唇から放たれた。ホラー映画に登場するような、低く恨みがこもったような、機械的な声。睨みつける双眸に背筋がひゅっと鳴った。


「私はずっと我慢してたんだっ。なのに、続編だと? ふざけんな」

「待って、落ち着いてください。あの……っ」


 混乱する僕の目に、彼女の腹の辺りに置かれた手が映った。それは暖色系のライトを反射して鈍く光ってる。


「あ、やめっ!」


 エントランスに東さんが入ってくるのが見えた。


「東さんっ!」

「ぎゃあああっああっ」


 断末魔のような声がロビーに響く。その声は、僕が発するべきじゃないのかと、馬鹿なことを考えた。


「うそ……」


 すぐ目の下に、ストレートの黒髪があった。そして、強烈な痛みが……。


「伊織さんっ!!」


 東さんの見たこともないような顔がちらりと目に入った。そんなに大きく見開いたら、目玉が落ちちゃうよ……。

 僕が覚えているのは、そこまでだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ